部活の夏合宿に行ったら、ゾンビが襲撃してきた
ナイトレイン
1章 DAY3 AM10:00
棚田
1 棚田
棚田が広がる田園風景。水が張ってある田んぼに、まだ青々とした稲が風にたなびき、揺れている。
一昨日、この風光明媚な光景を目にした時、合宿に来た高校生達は感激していた。
だが、今は風景を楽しむ余裕などない。むしろ、心がささくれ立っていた。
右手に広がる棚田を見ながら、四人は曲がりくねった山道を下っていく。
容赦なく照りつけてくる夏の太陽に、汗が滴る。それは彼の額を伝い、頬から顎に、顎の先から地面へと滴が零れた。
「ちょっと待ってくれよ、士郎」
良平は、先行する男子に声をかける。
「お前、本気なのか? あの地獄のようなペンションに戻るとか、本気なのかよ?」
「ああ、そうだ」
「だって、あそこには
良平は言い淀んでしまう。
「なに躊躇してんだよ、良平。ハッキリ言えばいいじゃねーか。お前の彼女は、助からない。それどころか、ゾンビになっちまいましたってよ」
戦慄が走る。そう、士郎の彼女は、生ける屍――ゾンビになってしまった。それに、部活の友人達も大勢。
昨日から起こったペンションでの惨劇は、高校生達の心身を摩耗させた。あんな光景、地獄という他ない。
「麗奈を……アイツを綺麗にしてやらないと。アイツが屍になったのに、生きて歩いているなんて、そんなこと断じてあっちゃならねーんだよ! だから、だからさ……」
士郎が自虐的な笑みを見せ、言葉を継ぐ。
「麗奈を殺しに行くんだよ。ちゃんと葬ってやらねーとな」
「士郎……」
「お前の方こそ、このまま下山したらどうなんだよ?」
「いいや、僕は小此木さんの車の鍵を持っている。だから、行かなくちゃ」
「勝手にしろ」
士郎は、良平から視線を外した。二人の会話に、小太りな智が、話に割って入る。
「お、オイラはもう行かない。君らには悪いけど、もう付き合いきれないよ。このまま下山する」
彼の言はもっともだ。昨晩から立て続きに起こったこの世のものとは思えない凄惨な出来事の後では、こうなるのが当たり前。
誰だって、自分の命は惜しいに決まっている。
「ちょっと、相沢。折角、一緒にここまで来たんじゃない。四人一緒に行動したからこそ、あのペンションから脱出出来たんでしょ! それなのに、1人で逃げるの?」
杉下葵が責めたてる。
「よせよ、杉下。いずれにせよ、誰か一人は麓まで下山しないと。そして、交番にでも駆け込んでもらって、救助を要請しないと」
「だな。葵も智と一緒に下山しろ。足手まといがいると困る」
士郎は、良平の意見に同意する。
「な、なによ。私は、君たちに付いていく。そう決めたんだからね!」
「やっぱ、オイラは下山するよ」
智はリュックを担ぎ直し、そのまま山道を下って行った。
三人は、離れていく智の背中を暫く見送った。彼はこちらを振り向くこともせず、曲がりくねった道を行く。
「おい、二人とも下山するなら今しかないぞ。智について行けって。お前らがいたって足手まといなんだよ」
そう告げてから、士郎は勝手にペンションの方へと歩き出す。良平も迷うことなく、智とは逆の方――つまり、山の頂上近くにあるペンションへと足早に歩いた。
「二人とも待って。君らを放ってなんかおけないよ。あたしも一緒に行くから。絶対に」
葵は2,3歩遅れて付いてきた。もはや意地になっているようだ。
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