第2話
大統領から地球からのメッセージを受信した事案を一任された俺は、まずメッセージの内容を確認することにした。
星間の通信を管理している省庁を訪れて、地球から送信されたとされるメッセージを確認する。
「これなのですが…」
「英語だ…間違いない…」
「え、なんです?」
「ああ、いや。なんでもないんだ…」
地球から送信されたとされるメッセージを見た俺は確信した。
メッセージは英語だった。
英語の他にも、解読しやすいように配慮された汎用言語などが暗号化されてメッセージの中に含まれていた。
「このメッセージは地球にあるアメリカという国の政府から送られてきたもののようです。我々との交流を目的としたもののようですね。いかがいたしましょうか」
「そうだな…とりあえずこちらもメッセージのやり取りに賛成だという意味を込めて無難な返事を考えてくれ」
「了解しました」
省庁の職員たちが、いかにも官僚っぽい適切な外交儀礼に満ちた文章を考えてくれる。
俺の指示で、そのメッセージは地球に向けて送信された。
それから数日。
なかなか地球からのメッセージは返ってこない。
「メッセージが届かなかったのか?」
「いえ、メッセージは確実に届いたはずです。どうやら地球側の方に問題があるようですね」
「問題?」
「はい。彼らの技術では、メッセージを即座にここまで飛ばすことができないようです。メッセージはどうやら数年の年月をかけて我々の銀河に届いたものと思われます」
「なるほど…まだそこまで技術が発達していないということか」
「はい。ワープの方法もブラックホールを利用した非常に周りくどいもので、非効率です。このままだと地球とのやりとりは数年越しになってしまいますが、いかがしますか?」
「…そうだな」
どうやら地球はまだメッセージを即座に銀河を超えてワープさせるほどの技術は有していないらしい。
俺は悩んだ末に職員たちにこう命令した。
「ではこちらからメッセージのやり取りのための装置を向こうへワープさせよう」
「いいのですか!?」
職員が驚く。
俺は頷いた。
「構わない。数年越しのメッセージのやり取りなんて馬鹿馬鹿しい。それよりも向こうにワープ装置を送った方が、効率がいい」
「しかし……それは地球の技術力を安易に高めてしまうことになりませんか?」
職員たちはどうやらメッセージ専用のワープ通信機器を地球に送ったら、それを地球人が分解し、技術を高めることを心配しているようだ。
「確かに連中は装置を研究するかもしれない。だが、彼らはすでに出来が悪いとはいえメッセージをワープさせる方法を発見したのだ。どのみち時間の問題で、彼らは星間ワープの技術を取得するだろう」
「…それはそうかもしれませんが」
歴史を見れば、テルシス星の住人たちが文字列などの最小の情報をワープさせる方法を開発してから、星間ワープの技術を確立するまでに10年とかかっていない。
おそらく遅かれ早かれ、地球人も星間ワープの方法を取得するものと思われる。
そうであるなら、早いところ彼らと接触してエンゲージ、コントロールする方がこちらにと
って利益が大きい。
「仮に我々が星間通信機器を地球に送ったとて、彼らの技術革新をせいぜい数年はやめる程度に過ぎない。このメッセージを送ってきた国の政府は、おそらく地球で最も技術的に優れ力を持っているものたちだろう。であるなら早めにコンタクトし、状況を把握しておいた方がいい」
「わかりました」
「安心しろ。この件に関して、全権は俺に委任されている。責任は俺が取る」
俺は職員に命令して、星間通信装置を地球にワープさせた。
おそらく数日以内に向こうの政府はワープしてきた装置を発見し、使い方を理解することだろう。
「さて、どう動く?」
俺はアメリカ政府の出方を見ることにした。
アレックスは将来ノーベル賞受賞は確実だとされている若き天才科学者だった。
小さい頃からアレックスは宇宙や科学に関して興味があり、突き詰めるための努力を怠ることはなかった。
おかげで30歳という若さにしてアメリカの最も有名な宇宙研究所の主任研究員となり、現在は星間ワープ技術に関しての研究に打ち込んでいた。
ブラックホールを利用してごくわずかな情報を他の銀河にワープさせる方法を確立したのもアレックスだった。
驚くべきことに、彼は星間ワープのための最も基礎となる数式を幼い頃にすでに考えだしていた。
大人になり、研究所へと入ってから、国からの多額の支援を受け、アレックスはついに子供の頃に考え出したアイディアをもとに、銀河を超えて別の惑星へメッセージを送信する方法を編み出したのである。
「人類は孤独ではない…返事はきっと返ってくるはずだ…」
アレックスは研究所の仲間とともに開発した機器を使って、いくつかの銀河にメッセージを飛ばした。
なるべく地球と同じ気候条件の、知的生物が住める環境が存在している可能性が高いとされている惑星へ、メッセージを送信したのだ。
現在の技術では別の銀河へメッセージが届くのに数年かかる。
最初のメッセージを送信したのはもう三年前になる。
もし仮にアレックスたちが発したメッセージを別の銀河に住む知的生命体が受信し、返事をよこすとしたら…?
アレックスはその時のことを考えてぶるぶると身震いした。
「僕は初めて宇宙人とメッセージのやり取りをした人類になれるかもしれない…いや、そうならなくてはならない。この研究は、ゆくゆくは星間ワープ技術へとつながる重要な研究なんだ。必ず成功させる。自由世界のためにも…」
星間ワープは、次の技術革新のメインテーマとして、各国が国の最高頭脳を投入して競って研究している分野だった。
噂によると、大日本帝国や、ナチス政権も、星間ワープ技術を取得しようと金と人材を躍起になってつぎ込んでいるらしい。
彼らに先を越されるわけにはいかない。
人々の自由と人権、独立を守るためにも、権威主義国家群に、自由世界の盟主たるアメリカが負けるわけにはいかないのだ。
「ん?」
いつものように売店でコーヒーを買って自分の研究室へ向かおうとしたアレックスはふと中庭を見た。
青々とした芝生の生えた研究所の中庭に、黒い渦のようなものが見えたからだ。
その黒い渦はだんだんと大きくなり、時空の歪みを発生させていた。
「…!」
アレックスはすぐにそれが人工的に生成されたミニブラックホールだと気づいた。
慌てて逃げようとするが、黒い歪みはアレックスがその場から離れる判断をする前に縮小し始めた。
「あ、あれは…!」
そして黒い歪みが完全に消失した後には、芝生の上に、見たこともない複雑な機械が残されていた。
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