政治犯として捉えられ拷問の末処刑された俺は、別銀河の異星人に転生する〜地球よりはるかに進んだ技術文明で野蛮な帝国政府を打倒するまで〜
taki
第1話
1945年、大日本帝国はアメリカに対して勝利宣言を行った。
ミッドウェー海戦で敗北したアメリカは、太平洋へ進出する日本軍を止めることができず、ハワイを失った。
大日本帝国は東南アジアと中国の半分、朝鮮半島を支配した。
それから50年。
日本国民は大日本帝国政府の思想統制政策によって、厳重に管理、監視される社会に生きていた。
全ての創作物は帝国政府に検閲され、敵性語句を使用したり、帝国政府にとって都合の悪い思想が読み取れるようなものは、厳しく弾圧され、作者は問答無用で投獄された。
毎年何千人もの日本人が、思想犯として捉えられ、拷問を受けた。
帝国政府は、自由や平等を訴える日本国民を捉えては、拷問し、彼らにとって都合のいい思想を植え付けようとした。
そして2024年。
帝国政府に密かに争う抵抗勢力の末端構成員だった俺は、帝国政府によって捉えられ、拷問を受けていた。
バシィイイイイイ!!!
「ぎゃああああああああ」
裸にされ、鞭で背中を打たれ、俺は絶叫する。
俺は真っ暗な部屋で、複数人の拷問官と軍服を着た帝国軍人に囲まれて、辛い責苦を受けていた。
拷問官たちは俺に仲間の居場所を吐かせようとしてきた。
だが辛い拷問に俺は必死に耐えてきた。
もし俺が仲間の居場所をバラして仕舞えば、彼らはたちまち捉えられ投獄、拷問されることになる。
幹部より上の人間は問答無用で死刑に処さ
れ、日本に政府に抵抗する勢力はいなくなる。
そうなれば永遠に日本人に自由は訪れない。
思想の自由のために、何より大義のために、俺は仮に死よりも辛い拷問を受けても、仲間の居場所を吐くわけにはいかなかった。
「やれやれ、君もしぶといな。早く居場所を吐いたほうが楽だと思うのだがね。堤くん」
帝国陸軍の制服に身を包んだ軍人が、俺を見下ろしながらそんなことを言う。
クチャ、クチャとガムを噛む音を鳴らしながら、まるで動物を見るような目で俺をみている。
「吐けば楽にしてやるぞ。5年後には牢屋からも出してやる。どうかね?」
「絶対に…吐くもんか…」
俺は軍人を思いっきり睨みつけてやった。
帝国軍人はため息を吐いた。
「どうして我々に抵抗するのかね?君は国を愛していないのか?天皇陛下に忠誠を誓っていないのか?」
「もちろん俺は国を愛している!!人々を愛している!!!だからこそだ…!!!日本国民には思想の自由が必要だ!!お前こそ日本国民を愛していないのか…!!!」
「フフフ…愛しているとも。君のような反乱分子を除いてね」
帝国軍人はニヤニヤ笑った。
「君は騙されているのだよ。思想の自由、人権の保障、法の平等。全てくだらん。アメリカが我々を内側から分断するために巻いた種だ。情報工作だよ。そのことに気づかないのかね?」
「違うぞ!!!情報工作なんかじゃない…!!!人々は本当は自由を望んでいるんだ…!!!」
「自由などくだらん。我々日本帝国民は皆、天皇陛下に仕える存在なのだよ」
「天皇陛下だって、日本国民の自由を望んでいると聞いたぞ…!!陛下の意思に逆らい、権力を濫用しているのはお前ら軍人の方じゃないのか…!!!」
「…っ」
俺がそういうと帝国軍人は明らかな苛立ちを見せた。
まるで痛いところをつかれたとでも言うように俺を睨みつける。
「少々君は舌が回り過ぎるようだ堤くん…いいだろう。そっちがそのきなら、我々ももう容赦はしない…」
そう言って部屋を出ていった帝国軍人は、数時間後に戻ってきた。
「なっ!?」
「お兄ちゃん!?」
拘束された俺の妹と共に。
「涼子!?どうしてここに!?」
「お兄ちゃんっ」
「フフフ…君の妹を連れてきた。君がなかなかお仲間の居場所を吐かないのでな、我々も少し趣向を変えることにしたのだよ」
「ふざけるな!!!涼子は関係ない!!!涼子を今すぐに解放しろ!!!」
「君は帝国法を知らないのかね?思想犯の家族もまた思想犯。我々には君の妹を拘束し、拷問する権利があるのだよ。全ては君がくだらない思想に身をやつしたせいだ」
「ふざけるなぁああああああああ」
俺は絶叫する。
残りの力を振り絞り、暴れるが、俺を縛る鎖はびくともしなかった。
「さて…君の大事な大事な妹を今から拷問する。仲間の居場所を吐くなら、君も君の妹も助けてやる。どうかね?」
拷問官の手が妹に伸びる。
妹の涼子はどうすることもできず、ただ俺をみてボロボロ泣いていた。
「お兄ちゃんっ」
「涼子ぉおおおおおおおお!!!」
「フハハハハハ!!全ては君のせいだ!!君の妹も、両親も、やがてここへきて死ぬ。全て肝のせいなのだよ堤くん!!!」
「てめぇえらああああああああああああああああああああああ」
俺は喉から血が出るほど叫び、暴れる。
だがそんな俺を全く意に返さず、拷問官は妹にあらゆる責苦の限りを尽くした。
気づけば妹は事切れていた。
妹が泣き叫び、そして動かなくなるまでの一部始終を目の前で見させられた。
「死んでしまったか。やれやれ…脆いものだな」
帝国軍人が動かなくなった妹を軍靴で蹴りながらそういった。
「…してくれ」
「ん?なんだね?」
「殺してくれ」
おれは掠れた声で言った。
もはや生に対する執着はなかった。
俺のせいで妹が死んだ。
もう何もかもがどうでも良かった。
「そうだな。目の前で妹が殺されても君は秘密を守った。大したものだよ。大抵の人間ならすでに諦めているところだが……おそらく君からは我々の欲しい情報は得られないのだろう。だとしたら君をもうこれ以上生かしておく理由もない」
帝国軍人が腰の銃を抜き、俺に向けた。
俺は人生の終わりを悟り目を閉じた。
狭い部屋に1発の銃声が鳴り響き、俺の意識は一瞬にして吹き飛ばされた。
「最近ワープ装置を使った犯罪が増えてきたな…何か対策を考えておいてくれないか?ルクスくん」
「はい、アーカード閣下。いくつかの対策案を練ってすぐに提出します」
「うむ、頼んだぞ」
大統領にポンポンと肩を叩かれ、俺は恭しく一礼した。
地球で日本政府に捉えられ拷問死をしてから20年。
俺は地球から遠く離れた銀河にある星にて第二の生を受けていた。
ルクス・マルケス。
それが現在の俺の名前だ。
中流家庭に生まれた俺は、勉学に励み、このテルシス星の一流の教育機関に入り、卒業して大統領を支える官僚にまでなった。
現在俺は、アーカード大統領にすっかり信用され、側で働く官僚の一人として、国の政策に携わる立場を得ていた。
このテルシス星は、地球よりもはるかに発達した文明を持っている。
人々の道徳観念は地球人よりもはるかに発達しており、戦争はない。
飢餓や災害なども一切なく、貧富の差もほとんど存在しない。
それでありながら技術は年々発展し、人々は時に競争し、時に助け合いながら自由で開かれた社会を築き上げているという、まさに理想郷のような星なのだ。
「それでは失礼します、閣下」
「ああ。たまには休みたまえよ、ルクス」
「お気遣いありがとうございます閣下」
俺は一礼して大統領執務室を去る。
俺が前世の記憶を持っていることはまだ誰にも打ち明けていない。
両親を混乱させたくないし、俺自身地球でのことは思い出したくもなかった。
「…っ」
今でも夢に見る、妹の痛々しい姿。
俺のせいで捉えられ、拷問され、死んでいった涼子。
地球がテルシス星の半分、いや、十分の一でも自由な思想の許された場所だったなら、妹が死ぬことはなかっただろう。
「あれで良かったんだ…あんな星で生きていても苦しいだけだ…」
俺は前世の記憶を振い捨て、今は大統領から与えられた作業に取り掛かることを優先する。
「おい、地球からメッセージが届いたぞ。聞いたか?」
「え…?」
だが、数日後。
俺の心を激しくかき乱す情報が官僚仲間から寄せられた。
「地球のとある政府からのメッセージを、先日星間受信機が読み取ったんだ。我々との交信を望んでいるらしい」
「地球からの…メッセージ…?」
まさか日本政府が?
地球が、銀河を超えてメッセージを送信する技術をついに得たと言うのか…?
「送り主はアメリカ政府となっている。アメリカというのは地球にある大国の一つのようだ。まだ我々のように統一政府がなく、各国がバラバラの政府を持っているようだ。まだまだ相当遅れた発展段階にある星だな」
「どうするんだ?返信するのか?」
「わからない。大統領はこの事態を重く見ている。というのも地球人の道徳観念は未だ発展途上だ。彼らは貧困も飢餓も解決できていないのに互い同士で殺し合っている。そしてその星の政府の一つが、メッセージのみとはいえ、銀河を超えてワープさせる技術を生み出した。これがどういうことかわかるか?」
「技術の発展に、道徳観が追いついていない?」
「そういうことだ。このままだと近いうちに星間ワープの技術を手に入れて、我々の星に襲いかかってくるかもわからん。地球人は我々の目から見てあまりに侵略的すぎる」
「…っ」
可能性は十分に考えられる。
特に大日本帝国政府が星間ワープ技術を手に入れたら確実に悪用することだろう。
「大統領はこの件をお前に一任すると言っている。特使として地球へ飛べ。そして地球人の技術の発展段階を調査してこいとのことだ。もし仮に地球が我々に責めてきそうな兆候があるときは……わかるだろう?」
官僚仲間が言葉を濁した。
要するに最悪地球人を抹殺する可能性も大統
領は視野に入れているということだ。
残酷なことだが、仕方がないとも思う。
日本帝国政府が今の体制のまま星間ワープ技術を手に入れる方がよっぽどの悪夢だ。
「わかった。この件は俺が対処する」
大統領の命令とあっては断ることはできない。
俺は地球からメッセージが送信された問題について、全権を大統領から委任され、この件に関して対処することになった。
「地球に飛ぶときは気をつけろよ。奴ら相当野蛮だからな」
「ああ。十分に気をつけるよ」
これまでにないほどの責任重大な案件を任せられて緊張する俺に、同僚が心配そうな目を向けてくるのだった。
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