第4話

亜瑚が中学2年生のとき。

亜瑚はクラスの人気者で、誰に亜瑚の性格を聞いても「強くて優しい子」と答えた。

そんなある日だった。亜瑚の学年でいじめが起きた。

正義感に溢れた中2の亜瑚は、いつまでもいじめられっ子の味方だった。別クラスだったけれど話しかけに行ったり、一緒に帰ったりしていた。

しかしある日、亜瑚はいじめられっ子に「もう関わらないで欲しい」と言われた。

「どうして?」亜瑚はその子の神経が分からなかった。友達はいた方がいいし、彼女の味方になることが彼女のためになっていると確信していたからだった。

「このままじゃ亜瑚ちゃんも周りからいじめられちゃうでしょ?そんなの、私が嫌なの」

「別にいいよ。私が味方になっていれば、もしかしたらいじめが終わるかも…」

いじめられっ子に近づいた。ハグをするつもりだった。

「もういいよっ!」

亜瑚はいじめられっ子に突き飛ばされた。そんなことされると思ってなくて、亜瑚の頭は混乱した。

「どうして…」

「自分が居ればって、過信しすぎだよ。亜瑚ちゃんの力なんて実際ほんのちっぽけしかないよ。亜瑚ちゃん1人が味方になったって何も変わらないんだから…!」

いじめられっ子は背を向けて走っていった。亜瑚は追いかけようとしたが、足が動かない。

(私が味方になったところで、何も変わらないの…?私が彼女に掛けていたのは、優しさなんかじゃなくてプレッシャーで心配だったんだ。)

いじめられっ子はその後、どこかの学校に転校していった。いじめっ子たちも部活の退部などそれなりの罰は受けたようだった。それでも亜瑚は彼女のことをを考えると、答えのない暗闇の深海に沈んでいるような気分になった。


「…そんなことがあったんですね」

朱鷺は何も言わずにただ聞いてくれていた。亜瑚は涙目だった。

「でも大丈夫です。あなたと私だけじゃどうにもならなくとも、あなたが味方で居てくれる。それだけで、私は嬉しいんです。」

朱鷺は亜瑚の手を握った。

「ありがとうございます。私に全て打ち明けてくれて」

亜瑚は涙を流した。泣きわめきはしなかったが。


「…あの、私、朱鷺様に聞きたいことがあるんですけど」

「何でしょうか?」

「あの時一緒にいた女性は誰なのでしょうか」

朱鷺は目を伏せた。「あれは、妹です。妹は…」

「嫌なら話さなくていいです。でも、私だって朱鷺様の力になりたいんです」

朱鷺はふふっと笑った。

「使用人さんは、十分私の力になっていますが…。わかりました、話しましょう。ただし、私の過去のことが関わってきてしまうのですが―」

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