第3話 「転校生と新たな力」
謎のロボットに襲われてから、三日が経った。
あの鋼鉄の拳が、今も夢に出てくる。
あれが幻だったなら、どれほど楽だっただろう。
けれど私は、あの“現実”を確かに生きている――。
「おーい、翠! 今日のホームルーム、ちょっと注目らしいよ」
クラスメイトの声に、私は顔を上げた。
「……どうして?」
「転校生が二人も来るんだって! この時期に、変じゃない?」
私は小さく頷いた。
偽獣と戦いながら学園生活を続けるなんて、想像してなかった。
でも、それが今の“私の日常”になってしまった。
教室の扉が静かに開いた瞬間、空気が変わる。
先生が紹介したのは、二人の少女。
「仙頭 希亜(せんどう れあ)さんと、牙岳 くう(きばたけ くう)さんだ」
前に立った希亜は、黒髪のロングに優しげな微笑みを浮かべていた。
一方、くうは口元までマフラーで隠し、感情を一切見せない。
「よろしくおねがいします、えへへ♪」
「……ん」
無邪気に見える希亜ちゃんの声に、なぜか背筋が凍った。
私は隣の席に座った彼女から、視線を感じるたびに胸がざわめいた。
(……何かが、違う。人間じゃないような……)
理由もなく、得体の知れない違和感だけが残る。
昼が過ぎ、夕方。
少し冷たい春の風に、舞う桜の花びら――その中で、女の叫び声が響いた。
「っ……!」
駆け出す理由なんて、考える必要はなかった。
誰かが助けを求めている。ただ、それだけで十分だった。
公園へ向かう途中、早市と合流する。
「翠!」
「早市ちゃん、今悲鳴が聞こえたの。多分、偽獣……!」
「わかった、すぐ行こう!」
二人で駆け込んだその先、公園に広がるのは異様な光景だった。
巨大なイソギンチャクのような生物――
触手を無数に伸ばし、逃げ惑う人々を捕らえ、袋状の胴体に飲み込んでいく。
「……っ! もう、消化が始まってる……!」
「かなり危険な偽獣よ、翠。気をつけて」
私は人影のない場所に飛び込み、深く息を吸った。
虹色の羽根が空間に現れ、私の体を包み込む。
「虹臨!!」
虹色の光が私を包み――その瞬間、私は虹翼天使へと生まれ変わった。
「虹翼天使 セラフィム・タウス。闇がどれほど深くとも、この羽が道を照らす――希望のために、私は戦う」
剣の羽「サイファー」を構え、触手に斬りかかる。
だが、反応は速かった。
「くっ……!」
粘着質な触手が四方から迫り、両手両足を縛り上げる。
体が動かない――どんどん締め付けられ、力が奪われていく。
「このまま……食べられるなんて……っ!」
偽獣の花芯が開き、舌のような器官が近づいてくる。
恐怖で息が詰まったその時――
ひとひらの羽根が、空から舞い降りた。
淡い緑の光を放ち、まるで私を導くように手元へ。
握った瞬間、羽根は爆ぜ、光の中から一本の槍が姿を現した。
「これが……新しい羽根?」
意識の奥に響く声が告げる。
《ハルーバ》――突き貫く、槍の羽根。
私は力を込め、槍を振るった。
鋭い突きが触手を切り裂き、自由を取り戻す。
「聖なる力よ、我が槍に宿れ――!」
タウスの背から光の羽が広がり、空へと放たれる虹の輝き。
「――ディヴァイン・スラスト!!」
槍を構え、空を舞う。
身軽に跳躍し、螺旋を描くように回転しながら――花芯へ突き刺す。
ハルーバは煌めく流星となり、偽獣の核を貫いた。
次の瞬間、眩い爆光が弾け、オカキンチャクは断末魔を残して崩れ落ちた。
はぁ、はぁ……と息を切らしながら、私は槍を見つめる。
「……どうして、また力が増えたの?」
勝ったはずなのに、心は重い。
この力は、導きか、試練か――。
答えのない問いが、胸に渦を巻いていた。
その頃。
人気のない高層ビルの屋上。
学園の制服に身を包んだ仙頭 希亜が、静かに戦場を見下ろしていた。
夕日を背に、金色の髪が風に踊る。
「ふふっ……やっぱり、持ってるね――セラフィム・タウス」
その瞳には、不気味な好奇心と、狂気にも似た喜びが宿っていた。
「これまた……面白くなってきたじゃない?」
夜の帳が静かに、街を包んでいく。
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