第50話:帝国を覆う影と、玉座に座すアンデッド皇帝

「これ……本当に大丈夫か?」

ディルが額に汗を浮かべながら呟く。


俺たちの隣を歩いているのは、帽子を深くかぶったヴァル。

隣には、無理やりローブを着せられたリューネリアとフェリア、そして耳を隠したアルネアとアリア。

――どう見ても人間には見えない。


「キュー……(これ、バレバレじゃない……?)」

アルネアが羽耳を押さえてぼそり。


「きゅるっ!(カノンが言ったからやってるけど……さすがに無理があるわね!)」

アリアも翼を小さくたたんでため息をつく。


「……頼むから、しばらく黙っててくれ。」

俺は周囲を気にしながら歩を進めた。


しかし――


町の人々は、俺たちを見ても何も言わなかった。

逆に、目をそらしたり、そっと微笑んだりする人さえいる。


「……見て、あの窓……」

ニールが小声で指さした先、家の中で小さなモンスターを抱く子どもの姿が見えた。


「……隠れてモンスターを飼っている人も……いるんだ。」

ディルが息をつく。


「キュー……(みんな、こっそり……)」

アルネアが少し嬉しそうに羽耳を揺らした。



---


だが、安堵の空気は突然破られた。


「……あれは……!?」

地面が裂け、冷たい風が吹き上がる。


腐敗した腕が土から伸び、空気を切り裂く悲鳴が響く。


「……アンデッド型……!」

サリウスの声が鋭くなる。


「きゅるっ!(いやな予感がするわ……!)」

アリアが背中の翼を広げる。


次々と地面から湧き出すアンデッドたち。

通りにいた人々が次々と悲鳴を上げ、襲われ、やがてその目から光を失っていく。


「……間違いない……!」

俺は息を呑む。


「神様は……帝国を滅ぼすつもりだ!」



---


「カノン、どうする!?」

ディルが剣を抜き、ニールが詠唱を始める。


「応戦する! 人々を守れ!」

俺は叫び、アルネアとアリアが同時に飛び立つ。


「キューッ!(任せて!)」

「きゅるっ!(私が一番よ!)」


ヴァルの咆哮とリューネリアの結界が町を覆い、フェリアが光を散らしてアンデッドを押し返す。

だが――


「……だめだ……!」

ニールが絶望の声を上げた。


「どんどん人が……アンデッドに……!」


「カノン、退くぞ!」

ディルが俺の腕を引く。


俺たちは必死に人々を避難させながら、帝国城へと駆け込んだ。



---


「……皇帝陛下、逃げてください!」

騎士たちの叫びがこだまする玉座の間。

しかし、玉座の上で皇帝は静かに剣を手にした。


「……この国のために……」

彼は自らの胸に刃を突き立てた。


「……やめろ!」

俺たちが駆け寄るよりも早く、皇帝の身体から黒い影が溢れ、彼の瞳が冷たい灰色に染まっていく。


「……陛下……?」

騎士の声が震える。


皇帝はゆっくりと立ち上がった。

もはや人ではない、アンデッドとして――。



---


混乱の最中、俺たちは奥の間へと進んだ。

そこにあったのは、巨大な魔力機構のような機械。

無数のパイプが天井へと伸び、まるで空とつながっているかのようだ。


「……これは……天候を操る機械……!」

サリウスが驚きの声を上げる。


「聖水を降らせるんだ!」

俺は叫んだ。


「キューッ!(教会へ!司祭たちを連れてくるの!)」

アルネアが翼を震わせ、アリアがそれに続く。



---


やがて教会の司祭たちを伴い、機械に聖水を注ぎ込む。

高い鐘の音とともに、空から光の雨が降り注いだ。


「……見て……!」

ニールが歓喜の声を上げる。


アンデッド化していた人々が次々と正気を取り戻し、互いを抱き合う。

町のあちこちから泣き声と歓声が入り混じる。


だが――


「……陛下……?」

玉座に座る皇帝は、そのままだった。

灰色の瞳で静かに民を見下ろし、やがて低く呟く。


「……ならば、私は……このまま、この民を導こう。

 アンデッドたちも、我が民だ。」


誰もが息をのむ中、皇帝は玉座に深く腰掛け、アンデッドの兵たちを見渡した。


「……すべての民を受け入れる。これが新たな帝国の姿だ。」


その瞬間、空から光が再び降り注いだ。


真名が次々と解放される光

そして――虹色の星片が、雨のように降り注ぐ




「……大盤振る舞いだな……。」

ディルが目を細める。


「キュー……(これが……神様の祝福……)」


俺は虹の星片を手に取り、空を見上げた。


「……ありがとう……でも、まだ終わりじゃない。」


アリアがしっぽを振り、アルネアが羽耳を揺らす。


「きゅるっ!(これで、私たちもっと強くなれるわね!)」

「キューッ!(負けないからねっ!)」


俺は笑いながら、仲間たちを見渡した。


――帝国は新たな姿へと生まれ変わり、

 神の試練と祝福は、またひとつ世界を変えていった。

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