第45話:裁きと祝福の王都

「おい!早くあの暴れモンスターを止めろ!俺の荷が全部壊されちまう!」

瓦礫の影から、脂ぎった顔の男が喚き散らす。

腕には奴隷の腕輪が何本もぶら下がっていた。


「……落ち着いてください、今はそれどころでは……!」

騎士がなだめようとするが、男は怒鳴り続ける。


「うるせぇ!俺の損害は誰が補填すんだ!?あいつらを殺せ!」


その声に、サリウスの眼差しが冷たく向けられた。

だが彼は一言も発さず、ただ静かに背を向ける。


「サリウス……?」

俺が呼びかけると、彼は肩を落としたまま首を横に振った。


「……子どもたちに見せる顔がない。行きますよ、カノン。」

そのまま、別の通りへと歩み去る。


俺は奥歯を噛みしめた。

「……わかった。」



---


「キュー……(カノン、こっちは!)」

アルネアが泣きじゃくるモンスターの頭を押さえ、優しく語りかける。


「大丈夫だ、落ち着け……俺たちは敵じゃない……!」

俺も声を張り上げる。


ヴァルが翼で暴れる獣を押さえ込み、フェリアが花の光でその怒りを和らげる。

リューネリアがその隣で結界を展開し、周囲の人々を守った。


「よし……少しずつ落ち着いてきたぞ!」

ディルが叫ぶ。


「ピィィ!(がんばって!)」

ニールも支援魔法を飛ばす。


瓦礫の中、叫びと嗚咽が交錯する。

それでも俺たちは、ひとりひとりのモンスターに声をかけ、手を伸ばし続けた。



---


そして――騒ぎがようやく治まった頃。


「……なんだ……?」

夜空に、柔らかな光が広がり始めた。


王都の上空から、七色の光がふわりと降り注ぐ。


「……星片……?」

俺は思わず見上げた。


「違う……これは……。」

サリウスが戻ってきて、静かに呟く。


虹の光がモンスターたちを包み込む。

瓦礫の隅で泣いていた小さなモンスターが、まるで誰かの声を聞いたかのように目を見開いた。


《リラ》

《ザルド》

《メルティナ》




次々と、真名がモンスターたちの口から、あるいは心から溢れ出す。

そして――不思議なことに、一体も苦しむ個体はいなかった。


「……全員、魂が……同調している……!」

ニールが信じられないといった顔で呟く。


「キュー……(みんな、ちゃんと……つながった……!)」

アルネアが涙を滲ませて笑った。



---


瓦礫の中から立ち上がった人々が、互いに抱き合う。


「……見ろ!あの子のモンスターが……しゃべった!」

「奇跡だ!神様が……神様が祝福を……!」


だが同時に、通りの片隅では捕らえられた者たちが連行されていく。

鎖につながれた奴隷商人、悪名高い傭兵、そしてモンスターを虐げてきた人間たち。

その顔には恐怖が、そして人々の目には軽蔑と怒りが宿っていた。


「……あいつらが、こんな目にあうなんて……。」

ディルが低く呟く。


「……神様が……裁いたのか……。」

俺は虹の光に包まれる王都を見上げた。


「祝福と裁き……どちらも、神の試練……。」

サリウスがため息のように言った。


アルネアが俺の頬にすり寄る。


「キュー……(でも……カノンは、何を信じるの……?)」


俺は胸の奥で虹の星片を握りしめる。


「……わからない。けど――。」


瓦礫の街に差し込む虹の光を見上げ、俺は呟いた。


「……俺は、この手で道を選ぶ。」


ヴァルが低く咆哮し、フェリアとリューネリアも並んで見上げた。


――神の裁きと祝福の下、王都は歓喜と祈りに包まれる。

 だが俺たちの胸に残ったのは、複雑な誓いだった。

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