第3話:家族というパーティーメンバー

この家に生まれてから、まだ数ヶ月。

ハイハイの速度も上がってきた今日この頃、俺はある疑問を抱き始めていた。


――なぜ、ラビッチュが俺の隣にいたのか。


この世界が「モンスターポケッツ」だという前提はもう疑っていない。背景の質感、モンスターの分類、NPCのセリフ回しまで含めて、見覚えしかない。


だが、プレイヤーキャラが転生してラビッチュが「最初から隣にいる」なんて仕様、聞いたことない。彼は本来、序盤草むらのレア湧きで出会う個体……。


「キュー!」


今も隣で俺のよだれを拭ってくれるラビッチュ。こんな個体、見たことがない。


その謎を解く鍵は、おそらく――俺の“家族”にある。


---


ある日、俺は母に抱っこされていた。抱かれたまま外縁の庭を散歩していると、ラビッチュがひょこひょことついてくる。母はそれを見て、ふわりと笑った。


「この子……カノンを気に入ったのね。ラビッチュっていうのよ。あなたの“運命のモンスター”なんですって。」


――運命?


「お父様の知り合いの占い師様がね、言っていたの。『この子が目覚めるとき、世界を変える“星のしるし”が隣にあるだろう』って。」


……ファンタジーお得意の運命論か。だがこの場合、その“しるし”がラビッチュ……つまり☆1ってことになる。


「本当は王都の魔法学院に引き渡す予定だったの。でも……ラビッチュが、ね。」


母の目が細められる。


「あなたが産まれた夜、籠の鍵を破って出てきたのよ。赤ん坊のあなたの枕元で、こうやって……。」


母はそのときと同じ動きで、ラビッチュを真似して羽耳で俺のほっぺを撫でる。


「くうくうって鳴きながら、ずっと、ずっと見守ってたの。」


……そのとき、すべてを悟った。


ラビッチュは、あの「+999」のラビッチュだ。


つまり――俺と共に転生した。


データがそのまま魂と化して、この世界に持ち込まれたというのか。いや、これはもう“宿命”のレベルだ。


「だからね、カノン。ラビッチュはあなたの一部なのよ。きっとこれから先も、ずっと一緒にいてくれるわ。」


「……キュー。」


ラビッチュが、俺の手をちょこんと舐めた。


ゲームじゃ絶対にしなかった動きだ。目が合う。その瞳の奥に、かすかに“意志”を感じた気がした。


---


その夜、父と母が食卓で話しているのを廊下の陰から聞いた。相変わらず俺はハイハイ移動。


「……どう思う、あの子。やっぱり、転生者なのかな。」


「さあな。だが、少なくともあのラビッチュは……尋常じゃない。診断魔法でも『測定不能』だったらしいし。」


「心配なのは……もし学院や王都に知られたら、また“徴用”されるかもって……。」


「そんなことはさせない。俺たちが守る。たとえ王命だろうと……。」


――守ってくれる。俺のことを、家族として。


その想いに、不意に胸が熱くなった。


たとえ言葉が出せなくても、俺はこの家の子だ。

ラビッチュと一緒に転生してきたのも、この家族のもとに導かれたのも、すべてが意味を持っている気がしてきた。


だからこそ、俺は誓う。


この家族を、ラビッチュを、この世界を、俺は守る。


たとえ☆1でも、やってやるさ。

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