シンデレラの日常


 朝陽の光が部屋に薄っすらと差し込む。

 鳥の囀りがどこからか聞こえる。 

 「ん~……」

 シンデレラはもぞもぞと動くと、ベッドから出た。

 (あいつがうるさいから掃除しておこう)

 起きだして掃除置き場に行くと、箒を取り出す。

 囀りが聞こえ、その方向を向くと青い鳥がいる。

 「ああ、鳥さんたち」

 青い鳥たちは嬉しそうにシンデレラの肩に乗った。

 「おはよう、今日もいい朝だな」

 「おい」

 あ。

 意地悪兄さんノアが立っている。

 その顔は底意地が悪そうで、更に苛立たしいものだ。

 「おいおい、シンデレラ」 

 ノアはわざとらしく暖炉の上を指でなぞると白い埃を見せつける。

 「埃があるじゃないか」

 「……」

 「ちゃんと掃除しないとダメだろう」

 「じゃあ……ノア兄さんがやればいいじゃないか」

 「ほう……」

 「……」

 「お前は居候なんだよな」

 「……」

 「そもそも……お前は住まわせてもらっている身分だろう」

 「……」

 「誰がこの家の主なんだ?」

 「……」

 「わかったら掃除をしておけよ」

 これはこれは人をイライラとさせる顔でノアは鍛錬に行った。

 「……そうだけども……」

 シンデレラは落ち込みながら箒をはいた。

 

 シンデレラの両親は幼い頃に亡くなった。

 そのため、シンデレラは父親の知り合いで、この村の格闘技道場の師範代のもとへ身を寄せた。

 師範代は優しく、慎ましい人で血のつながりが無いシンデレラを愛してくれた。

 だが……。

 シンデレラの日常が一変する出来事が起きた。

 ある日のこと。

 その格闘技の直系を名乗る男が来た。

 なんだか嫌な感じがしたが、まさにその通りになった。

 元々シンデレラが通っていた格闘技道場は分家であり、その男は本家の血を継ぐ男と言った。

 それが、ノアだった。

 ノアはシンデレラと同い年であったが、格闘技の実力や才能は師範代を軽々と上回っており師範代はいとも簡単に倒されてしまった。

 「先生‼」

 シンデレラが駆け寄ると、そこには流血し弱弱しくなっている師範代がいる。

 「今日から俺がここの師範だ」

 「なんでだよ‼ お前みたいなの認めないぞ‼」

 シンデレラが猛抗議すると、ノアがニヤリと笑う。

 「ほう……じゃあここの状況知らないのか」

 「え」

 「そいつはな……今、病魔に襲われている」

 「⁉」

 「こいつから連絡があった。だが……その師範がいなくなったら誰がこの道場を守る?」

 「それは俺たちが守るぞ‼」

 「そうか……そうか」

 なんだか含みのある声。

 「なんだよ」

 「ここは王家が援助しているところでな」

 「……」

 「だが、いつまで経っても『武闘会』に出るだけの者が出てこないと……な」

 「……」

 武闘会。 

 その会は格闘技を習っているものならば、全員が憧れるものだ。

 その選手に選ばれるのは誉れ高いことだ。

 「だが……一向にお前たちの道場には、そのような誘いがない、と本家のものから聞いた」

 「で、でも……」

 シンデレラが何か言いかけたが、そのまま口を噤んだ。

 確かにそうだ。

 この道場が設立されてからというものの、まだ選ばれたものがいない。

 流派を背負う以上、そのような事態はあまりいいものではないのだ。

 王家が援助しているが、いつまでも結果が出ていない。

 そうすると、援助が打ち切りになるし、存続の危機に瀕するのだ。

 勿論、それはこの道場に限ったことではない。

 こうして援助が打ち切られてしまい、道場がなくなってしまう、破門してしまうといったものは各地で起こっている。

 その中でも援助を受けずに、細々とやっている道場もあるが、それでもかなり厳しい。

 どうする?

 そんな視線が道場生たちの間に流れる。

 「そこでだ」

 「……」

 「俺がここの師範になろう」

 「ええ」

 「嫌そうに言うな」

 「……」

 ムカつくがこいつに従うしかないだろう。

 「おい、お前」

 「お前じゃない。シンデレラだ」

 「そうか。じゃあお前は俺の手下になれ」

 「なんで」

 「お前がここで一番強いと聞いたからな」

 「ええ」

 「嫌そうにするな」

 「……」

 「これから、お前は俺のことをノア兄さんと呼ぶんだぞ」

 「なんで」

 「そう呼べ」

 

 「なんだよ、ノア兄さんって。ブラコンかよ」

 シンデレラは箒を掃きながら、溜息をついた。

 

 

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