第18話「天地の基が」

 僕たちはあれから山道を登り続けていた。僕たちは疲れ果てていたが、それでももうすぐ橋に到着すると言う期待で動き続けていた。そして橋には到着した。到着したけれど、結論から言うと僕たちは今、廃工場の中で雨宿りをしている。楽しいじゃないか。


 真っ暗の廃工場の中でライトをつけ、何とか座れそうな場所を探してみる。建物はボロボロなのに、どこか新しさも感じて、怖さと楽しさ両方だった。

「怖いですねー、怖いですよ。」


 角に座り込んだダーヤマはタオルで髪を拭いている。

 

「この雨はマジでやばい。帰りどうすんの?」

「どーすっかなぁこれ。まさか雨が降るとはねぇ。」


 出発前に天気予報を見てきたが、雨の予想はなかったはずだ。だが外は急に降ってきた凄まじい雨と風。工場の中で何とか雨がしのげる場所を見つけた。勿論傘は持ってきていない。いやそれよりもまずいのは、スマホも電波が繋がらなくなって、いつ止むのかがわからない。帰りをどうするのかと言うことだ。

 この雨の中、夜の山道をまた何時間もかけて下って帰るのは流石に不可能レベルだった。


「イッチの兄ちゃんに電話して車で迎えに来て貰うのは?」

「それも考えたけど、仮に兄ちゃんに来てもらうと僕たちが肝試しに来たことがバレて、クソ親に超怒られる。それと兄ちゃんの車は軽だから、自転車が持って帰れない。そもそも電波が繋がらない。」


 出発の時は勢いでどうにかなると思っていたけど、実際に困ると自分たちの力だけでは解決ができない。近くまでは来られたけれど、橋の方にはまだ行けていない。肝試しもできていない。非常に困った。


 しばらくすると中を探索していたしいたけが戻ってきた。

「何かあったか?」

「何にもなかった。」

「だろうね。」


 しいたけはあまり怒らない奴だが、今は少し苛ついているようだった。言葉にはしなくとも、雰囲気でわかった。それ以上余計なことは訊かないようにした。


「肝試しできないね。」

「行かない方が良いってことなんじゃねーの?知らんけど。」


 ダーヤマが一番楽しみにしてたはずなのに、今はテンションが低い。でも文句を言うつもりはなかった。ここに来て何となく感じるものがあったんだ。幽霊が怖いとか、肝試しが良くないとかそう言うことじゃなくて、もっと別なものへの恐怖。うまく言えないけれど、何かを感じたんだ。

 何かが僕たちを止めようとしているとか、まさかとは思うけれどね。


 これからどうするか途方に来れていた時に、ダーヤマがリュックからお菓子やゲーム機を取り出した。


「腹減った。」


 ダーヤマはポテチの袋を雑に開けて、ポテチを食い始めた。それに続いてしいたけも俺も食べるといい、パンを食い始めた。

 僕もそれを見ていると腹が減ってきたので、コンビニで買ってきたおにぎりを食べることにした。


「これじゃ肝試しじゃなくて遠足じゃねーかよ。」

「それ笑」


 僕はすごく不思議な感覚になった。僕たちが今やっていることは客観的に見れば、休みの日の夜中に自転車で山登りをして、雨の中人の土地に勝手に入って飯を食っていると言うことだ。これが生産的かそうでないかと言えば、完全に不毛でくだらないことをしている。

 でも今僕たちは、3人でこの瞬間、この時間、この体験を共有している。とても有意義な時間なんじゃないのか?僕はとても不思議な感覚だった。


 飯を食い終わると、ダーヤマがリュックから更に何かの本を取り出した。


「あ、そう言えばさ。オービタル没収される前にネットの知り合いからエロ本買ったんだよね!」

「まじ!?!?」


今まで不機嫌そうにしていたしいたけが急に元気になり出した。

 

「お前急にすげー食いつくじゃん。」

「見たい!」


 見てみると生身の女が表紙に大きく載っている。AI生成じゃない本物の女だ。発行年数を見てみると2029年になっている。

 

「20年前のエロ本じゃねーかよ!」

「はえー。」


 エロ本はクソ親が子供の頃、昔はまだコンビニとか店舗で出回っていたらしいけど、クソ政府の規制が進んで店舗での販売が禁止になってからは絶滅したものだと思っていた。これはその時代の生き残りのようだ。

 

「すげー。ガチレアものじゃんか。」


 2029年のエロ本なんて時代遅れも良いところだ。オービタルがあれば夢で実際にできるじゃないか。それでも2人は食いついている。

 

「あぁー良いっすね。」


 2人が話を聞かなくなったので、僕はライトを持ちもう一度工場内を探索してみることにした。今まで行っていなかった奥に進むと、階段があるじゃないか。

 

「僕奥に行ってみるから。」


 2人に声をかけても、聞いているのかわからない。僕は廊下の奥にある階段に進む。怖さはあったが、何かあれば叫んで戻れば良いだろう。

 階段を登るとそこには小部屋が1つあった。階段を登りきって、部屋の扉を開けようとドアノブに光を当てると、ドアノブが水で濡れていた。

 僕はこの時雨漏りだと思ったが、扉を開けるとそれが雨漏りではなかったことを知った。

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