第2話 違うぜ系男子は異世界転生の夢を見るか

 影美えいみとは高二にあがって同じクラスになった。

 だけどクラスが同じだってだけで、僕たちが会話をする理由にはならない。まして友達になるだなんて。現に僕たちは六月のあたま、つまりはつい二週間前まで、ほとんど一度も話したことがなかった。


 影美は美人なわりにイマイチあか抜けていない、流行に無頓着な子供っぽいやつで、だから一軍とか二軍っていうよりは、そんな俗世の序列からはいっさい疎外された皇室の御方みたいな雰囲気があった。サブカル男子と邦ロックの話をしたり、豚だなんて平然と悪口を言われてるオタクたちとも新作のアニメの話で盛りあがったりしていたが、一方で自分を〈女〉として消費しようとするエロいまなざしには、しっかりと「気持ち悪い」とヘイトを飛ばす純粋さがあった。


 僕はといえば、見てるアニメとか着ている服とか、つまりは単にお客さんとして利用しているものだけで、ありもしない個性を表現しようとしている時代の感じ(主語がでかい上に曖昧だ)が全体としてぜんぶ気に入らなかった。

 つまり僕は痛い奴だった。

 

 でも周りに痛い奴だとは思われたくなくて、べつにアニメだって過不足なく見てるし、音楽も流行りのものをほんとにまったく知らないってことはないし、つまりはほとんど疑う余地もなく、僕だって単なるお客さんだった。


 言いわけすると、僕にだって好きなものはあるし、夢中になってるものも実はある。だけどそれは、偏差値だとか学歴だとか、コスパだとか年収だとか、そういったものとは無縁の活動だ。多くの人たちにとっては無価値なものだし、もっと言えば、コストの面ではマイナスですらある。

 

 のどかな日々を怠惰と言ったり、芯のある人を町の変わり者みたいに阻害したり、僕はそんな時代の空気がたまらなく不快で嫌いだし、そんな社会を作った当事者のくせに被害者ぶってる大人たちも本当に嫌いだ。まったくもって尊敬できない。


 それにこんなことを、クラスの友達に打ち明けるでもなく、カクヨムで吐き出すことしかできない自分だって。まったくもって肯定できない。


 だからはじめは影美にだって、僕の趣味を明かす気はなかった。わかってもらおうなんて夢にも思っていなかった。わかってもらえるとも思わなかった。でも幸か不幸か、神のいたずらか悪魔の暇つぶしか、僕と影美は友達になった。友達――、たぶんそう呼んだって間違いじゃないはずだ。


 影美もたぶん、余白のない合理的な世界にうんざりしていた。

 優しいふりして余裕のない大人たちに幻滅していた。


 だから僕たちは友達になった。なろうと意図してなったわけじゃなく、たぶん角でぶつかるとか、異世界転生するくらいに自然でリアルな成り行きで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る