【3話完結ギャグ小説】「父さん、俺ちくわで食ってくよ」「そうか」

雪華将軍_設定厨

第一クワ 「チクワで食っていく」


「父さん、これからチクワで食っていこうと思うんだ」


 ——その日…僕は唐突にそう言った。


 というより、もう唐突にそう言うような状況だったのだ。




 就活全滅バイトも辞めた、友達はゲーム内にしかいなかった(強調)。



 だけど、だけれど…、






 冷蔵庫を開けたらチクワだけがあった。



 五本、そこに答えが…人生の全てがあった。




「そうか」


 父はテレビを見たまま返事をした。


 テレビには、幸せそうな笑顔で三度目の結婚を発表するタレントが映っている。


 ぼーーーっと、父は映る映像に興味なさげに鼻を鳴らし、僕の顔をちらっと見て言い放った。



「なら、チクワで食っていけ」



 …反応があまりにも普通すぎて、いやもう…なんか逆に怖かった。



○ちくわちくわちくわちくわちくわちくわ○



 僕はまず…チクワを焼いた。



 焼きチクワは…ああ、香ばしい…、でも、何だろうか、足りない。


 カロリーも味もそして何より…そう、夢がない。




 そこで考えた。






 「チクワを売ればいいんだ(?)」


 すべてのチクワには穴がある(?)


 この穴に、夢を詰め込めばいい。(いい事言った風)



 希望、

   ロマン、

      現金。






 翌日…僕は父にあくまでも平坦な顔で言ったんだ。


「父さん、俺、チクワ屋をやろうと思うんだ」

「そうか」



 またしても即答。あまりにも即答。



「それで場所なんだけどさ、駅前とかいいかなって──」

「もう手配しておいた。屋台もある」

「えっ」

「あとチクワの仕入れ先も紹介する、築地のチクワ卸し“山回蒲鉾(株)”だ。そこの親父とは高校の柔道部でな」



 何者だ。



 息子のチクワ人生になぜそこまで即応できる?


 もうなんか…そこまでいくとキモいぞ?



ちくわ  ちくわ ちくわ  ちくわ  ちくわ

 ちくわ  ちくわ  ちくわ ちくわ  ちくわ

  ちくわ  ちくわ  ちくわ  ちくわ  ち




 数日後…


 僕は駅前でチクワ屋を始めた。


 チクワ1本300円。高いか安いか分からない。僕も分からない、何となく高そうだけど屋台だから…こんなものだろう。


 でも、1人、また1人と、客が来た。



「懐かしい味だね」

「この穴に…人生が詰まってる気がする」

「…いけるな、チクワFX」

「ちくわ」


 口コミが広がり、「チクワ イン チューブ」という謎の商品まで開発された、僕はした覚えがない。


 父は黙って見守り…時折屋台の横に立ち、チクワを見つめていた、仕事はどうしたんだろう?



 ある日、聞いてみた。



「父さん、なんでそんなにチクワに協力してくれるの?」


 父は、少し空を見て言った。


「昔な、母さんが…チクワをよく作ってくれたんだ」




 ──母さんは料理が壊滅的だった。唯一まともだったのがチクワだった。




「……そうか」

「そうだ」


 僕らは黙ってチクワをかじった。

 駅前の雑踏の中で、懐かしいチクワの味がした。



 気がした。




 —多分、本当、気がした。




 ***




「……父さん、明日からチクワ専門学校を開くわ」

「教員免許…、用意しておいた…。」


「だから早くない?」


 父が背中にチクワ刀を背負いはじめたあたりで僕は、チクワで本当に食っていける気がしてきた。


 …気がした。

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【3話完結ギャグ小説】「父さん、俺ちくわで食ってくよ」「そうか」 雪華将軍_設定厨 @Sekka_general

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