境界の外へ…

名無しのちくわ

アバターダイブ:ヴィクトリア

※残酷表現、はっきりとはしていませんが性描写、暴力表現があります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。

※この作品はAI生成された文章に作者が手直しを加えた作品です。AI作品が苦手な方はブラウザバックをおすすめいたします。


俺は焼けた砂塵の只中で、ヘルメットの奥で小さく舌打ちをした。眼前に広がるのは、爆炎と銃火で赤黒く染まった荒野だ。遠くで友軍の断末魔が聞こえるが、今は自身の持ち場を守るのが精一杯。潜行(ダイブ)した屈強な肉体は、かつての華奢な己とはまるで違う。重く、力強く、そして容赦ない。この感覚に慣れるまで、随分と時を要した。


「各員、陣地を死守せよ。敵の侵攻を許すな」


無線から響くは、エリスの声だ。「私」という一人称が、彼女の冷厳なまでの冷静さを際立たせる。彼女もまた、この戦場にいる。俺と同じく、男の躯に意識を移して。彼女の的確な命令は常に正しいが、その声には一切の感情が宿っていない。まるで、盤上の駒を操る遊戯を眺めているかのようだ。


エリス。高適応値を持つ彼女は、常に最前線で危険な任務を遂行する。その剛毅さと冷酷さで、多くの兵士から畏怖されている。俺とは違う。彼女は、この男の躯を、あたかも己がもののように完璧に駆使しているように見える。


また一発、近傍で炸裂音が轟いた。衝撃が、潜行した躯を揺さぶる。心臓が早鐘のように打ち、全身のアドレナリンが沸騰するのを感じる。ああ、この感覚。恐怖と昂揚が混じり合った、生の実感。


「ヴィクトリア、左翼の増援に向かえ。敵兵数が多い」


エリスの命令だ。躊躇している暇はない。俺は深く息を吸い込み、地面を蹴り上げた。この借り物の躯を、俺の意志で動かす。生きるため、家族のため、そしてこのどうしようもない衝動のために――戦うのだ。


右手に握る自動小銃の冷たい感触が、戦場の喧騒の中で唯一の頼りだった。視界の端で閃光が走り、土煙が舞い上がる。爆風で吹き飛ばされた小石が、俺の装着する複合装甲の肩部に音を立てて当たった。その衝撃は、生身の肉体ならば骨を砕くものだっただろう。だが、今この躯はびくともしない。


敵兵の姿を捉えた。土嚢の陰から這い出し、こちらに向かってくる。一瞬のためらいもなく、引き金を絞った。振動が腕を伝わり、鉛の弾丸が空間を切り裂く。甲高い悲鳴が上がり、敵兵の身体が大きく揺れた。確認はしない。この場所で躊躇は死を意味する。


「ヴィクトリア、目標は南西約二百。単独行動は許されない」


再びエリスの声。冷静すぎるほど冷静な響きが、俺の脳裏に焼き付く。南西約二百。そこには、さらに大規模な敵部隊が集結しているはずだ。増援に向かえと命じられたが、この状況で単独突入は無謀に思える。だが、エリスの指示に疑念を挟む余地はない。彼女の判断は、常に俺たちを「勝利」へと導いてきた。たとえ、その過程でどれほどの犠牲が出ようとも。


俺はふと、遠い故郷の妹の顔を思い出した。障害を抱えながらも、いつも笑顔を絶やさない健気な妹。病に臥せる母と、後遺症に苦しむ父。俺の給料だけが、家族を繋ぎ止める細い命綱だ。この戦場で、俺は彼らのために生き残らなければならない。だが、それだけではない。この胸の奥底で渦巻く、暴力を振るうことへの「快感」が、俺を戦場へと駆り立てているのも事実だった。


「クソッ!」


短く吐き捨て、俺は荒れた地面を蹴り、指示された方角へと走り出した。足元で弾ける小石、耳を劈く銃声、焦げ付くような硝煙の匂い。全てが、俺の肉体と精神を研ぎ澄ませていく。借り物の躯の中で、俺は確かに生きている。そして、俺自身の中に潜む獣が、この血塗られた舞台で目覚めようとしていた。



左翼への増援は、地獄の一歩手前だった。駆けつけた俺の視界に飛び込んできたのは、壊滅した敵陣の残骸と、その中で蠢くエリスの部隊の姿。いや、部隊というよりは、暴徒と呼ぶべきか。


焦げ付く匂いのする瓦礫の陰から、呻き声が聞こえた。近寄ると、そこにいたのは、怯えきった様子の若い女性と、その髪を掴み引きずり出そうとする屈強な男たち。彼らの表情には、戦場の狂気が宿っていた。


「やめろ!」


俺は怒鳴りつけた。喉の奥から絞り出すような声だった。男たちの何人かが、ゆっくりと俺の方を向く。その顔に浮かぶ嘲笑に、体中の血が沸騰するのを感じた。


「なんだ、ヴィクトリアか。お前も楽しみに加わるのか?」


リーダー格の男が、下卑た笑みを浮かべながら言った。そいつの目は、獲物を前にした獣のようだった。傍らには、既に息絶えた男たちの躯が転がっている。彼らの衣服は乱れ、財物が散乱していた。略奪の痕跡だ。


「貴様ら、何をしている!」


俺は銃を構え、男たちに照準を合わせた。手が震える。この借り物の肉体で、仲間に銃を向けることへの葛藤。だが、この光景は、俺が絶対に許せないものだった。


その時、一人の男が俺に襲いかかってきた。大口を開け、狂気じみた眼差しで。俺は迷わず引き金を引いた。轟音と共に男の身体が地面に沈む。周囲の空気が、一瞬で凍りついた。


「何だ、貴様」


背後から声がした。冷たく、それでいて有無を言わせぬ響き。エリスだった。彼女もまた、ダイブした屈強な男の肉体で、俺たちの様子を静かに見下ろしている。その瞳には、一切の動揺が見られない。


「エリス! 貴様の部下が何をしているか、見えないのか!」


俺は荒い息で詰問した。怒りで、身体中が熱くなる。


エリスは一歩、俺に近づいた。その男の躯から放たれる威圧感は、俺のそれをも凌駕する。


「ああ、見えているさ。私は彼らに、テロリストの尋問を命じただけだ。情報を得るためならば、いかなる手段も正当化される」


彼女は淡々と答えた。その言葉に、俺は血の気が引くのを感じた。テロリスト? この怯えきった女性が?


「嘘をつけ! これは尋問などではない! ただの凌辱と略奪だ!」


俺は叫んだ。目の前の光景を、彼女が「尋問」と称するその厚顔無恥さに、吐き気がした。


エリスは微かに口元を上げた。それは、嘲りか、憐憫か。


「感情的になるな、ヴィクトリア。この女も、そこに転がっている男たちも、我々に武器を向けたテロリストだ。我々の兵士を殺し、我々の故郷を脅かす存在。女であろうと男であろうと、敵は敵だ。戦場において、性別など関係ない」


彼女の言葉は、まるで氷の刃のように俺の心に突き刺さった。彼女の言う「勝利」のためならば、人間性は、倫理は、どこへ消え去るのか。この借り物の肉体に宿る俺と、この戦場の支配者であろうとするエリス。二人の男の姿をした女たちの間で、互いの戦う「志」が激しくぶつかり合っていた。


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