また君と笑えたら。

天春恋羽

第1話 屋上の上で

あの日は、暑かった。

いつもより蝉の声がうるさくて、風が吹いてもぬるい温泉に入っているようだった。

お昼休み、いつも通り弁当を食べるために屋上へ向かった。いつも通りうるさい廊下を抜けて、屋上への階段を走ってのぼり、息が切れながら押した重い扉。そこには、橙色のヘアゴムで腰まである長い髪を結わえた女子が、扉の音を聞いて誰かを待っていたような目で俺を見た。

「翔ちゃん〜!おそいよぉ〜!5分の遅刻だよ!」

彼女は明るくて暑さをふっとばすような声で俺に言った。

「ごめんって、4限目の授業が長く続いちゃってさー。」

俺は苦笑いで返した。

「まぁ、それはしょうがないね!でも5分遅刻したせいで、食べる時間なくなっちゃったじゃん〜!」

「5分くらいいいだろー!」

「よくない!」

いつも通り、こんな会話をして、弁当の蓋を開き、

「いただきます!!」

一緒のタイミングでご飯を食べる。これが9年目だ。

彼女とは、小学校からの幼馴染で、こうやって毎日昼休みに集まって昼食を食べている。彼女の名前は、三川恋春(みかわ こはる)。恋春は、明るくて素直で学級委員をやっている。一人称はボクで、小学校の時からそうだ。

「あ!聞いてよ翔ちゃん〜!こないだのテストでね〜____」

翔ちゃんとは、俺のことである。花咲翔也(はなさき しょうや)。いつの間にかあだ名が付けられていた。

「ちょっとー!翔ちゃん!聞いてる〜?」

「ぁ、ごめん聞いてなかったー」

「人が話しているときは、ちゃんと聞くんだよ〜!」

「そんなことわかってるよ!!」

くすっと恋春が笑う。俺は恋春の笑顔につられて俺も笑う。俺は恋春の笑顔が好きだ。ずっと笑っていてほしい。

そんな事を考えていると、急に恋春が真剣な顔になった。

どうしたのだろう。虫でも顔についていたか。

「恋春?どうし…」

「あのさ、翔ちゃん。ボクが死んでも翔ちゃんは笑っていてね」

俺の声は恋春の言葉で消えた。

「…は?」


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