第22話 新しい時代へ

ここはホワイトハウス。




政府の人1「大統領、ニュースです」


ルーズベルト「まさか、A社倒産したのか?」


政府の人1「いいえ。逆です。持ち直しました」


ルーズベルト「え?」


政府の人1「これで世界は恐慌を脱しました」


ルーズベルト「そうか、よかった……」


政府の人1「もう何も心配いりません」


ルーズベルト「でも、どうして急にA社は持ち直したんだ?」


政府の人1「モルガンがA社の保有する株を買い取ったんです」


ルーズベルト「株を?」


政府の人1「はい。鉄鋼業界の株です」


ルーズベルト「なんだって?」


政府の人1「モルガン、やっちゃいましたね」


ルーズベルト「ああ」


政府の人1「とうとう鉄鋼業界の株に手を出しましたよ」


ルーズベルト「バカなやつだ」


政府の人1「あきらかに反トラスト法に触れる行為です」


ルーズベルト「そうだね。ホント、バカなやつだよ」


政府の人1「チャンスです。告発しましょう」


ルーズベルト「そんなバカなやつに、反トラスト法を適用するのは、もったいないな」


政府の人1「え?」


ルーズベルト「告発は、やめておこう」


政府の人1「今、なんと?」


ルーズベルト「モルガン君を告発するのは、やめようと言ったんだ」




1907年11月4日午前。


ルーズベルト大統領は、反トラスト法をモルガンに適用しないことを宣言した。




ルーズベルト「モルガン君。ありがとう」


息子モルガン「こちらこそ」


ルーズベルト「君はアメリカだけじゃなく、世界を救った」


息子モルガン「たまたまです」


ルーズベルト「世界を救ったヒーローにこんなことを言うのも変だけど、本当は、一個人が君みたいな大きな力を持つべきじゃないんだ」


息子モルガン「そう言うと思ってました」


ルーズベルト「正直な話をすると、君がいるうちはOKだと思う」


息子モルガン「え?」


ルーズベルト「君は最高神ジュピターと呼ばれてるよね」


息子モルガン「そう言う人もいますね」


ルーズベルト「でも、君は神様じゃない」


息子モルガン「もちろん」


ルーズベルト「いつか、必ず死ぬ」


息子モルガン「はい」


ルーズベルト「世界経済が、一個人の力量をあてにしちゃダメだと思うんだ。だって、その人はいつか、いなくなっちゃうんだから」


息子モルガン「そうですね」


ルーズベルト「君が今回果たしてくれた役割は、本当はもっと公的な機関が果たすべきだと、おれは思う。人類の進歩には、それが必要なんだ」




これが、のちの連邦準備制度(日本でいう日本銀行のような、中央銀行制度)の構想に発展していく。




息子モルガン「20世紀は始まったばかりです」


ルーズベルト「うん」


息子モルガン「人類はこれからも一歩一歩発展して、きっと100年後には僕たちが想像もしないような未来を作り上げていますよ」


ルーズベルト「そう信じたいね」




1913年3月31日。モルガンは旅行先のローマで就寝中に死去した。


モルガンが死去したまさにその年、連邦準備法が制定された。


以後、一個人がモルガンほどの影響力をもって世界経済に君臨することは、二度となかった。




モルガン財閥・完

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モルガン財閥ができるまで J.P.モルガンの生涯 あーりー @toritamagox

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