第5話 クリミア戦争と投資

1854年10月。


J・S・モルガンは、ピーボディ商会の役員となった。


このJ・S・モルガンこそが、モルガン財閥の直接の始祖となる。




ピーボディ「J・S君。これからは投資の時代だ」


J・S「はい。ピーボディさん」


ピーボディ「将来性のある産業に投資すれば、お金が何百倍にもなって返ってくる」


J・S「その通りです」


ピーボディ「そこで、君をテストする」


J・S「はい」


ピーボディ「ここに現金がある。どさっ」


J・S「おお~! 大金!」


ピーボディ「君なら、これをどんな産業に投資する?」


J・S「そんなの、ニュースを見ていれば簡単ですよ」


ピーボディ「そうだね」


J・S「去年から、クリミア戦争が始まってます」


ピーボディ「いいところに目をつけた」




クリミア戦争(1853年~1856年)とは、ロシアとトルコが聖地イェルサレムをめぐって争った戦争のこと。




J・S「これを知っていれば、投資すべき産業はおのずと明らかです」


ピーボディ「そう、武器産業だね。正解だ」


J・S「え?」


ピーボディ「ん?」


J・S「武器産業に投資するのは初心者ですよね?」


ピーボディ「え……」


J・S「ピーボディさん、しっかりしてください」


ピーボディ「あ、なんだ~。君、上級者の会話、オッケーなタイプ?」


J・S「オッケーですよ」


ピーボディ「いきなりレベルの高い会話しても、君が困ると思って、ちょっと初心者向けの会話しちゃったよ~」


J・S「お気遣い、ありがとうございます」


ピーボディ「じゃ、ここからはがんがんレベル上げて話してくよ」


J・S「お願いします」


ピーボディ「で、君の考えは?」


J・S「戦争が始まると穀物が不足しますよね」


ピーボディ「うん。穀物の値段があがる」


J・S「ですから、投資すべき産業は……」


ピーボディ「そう、穀物産業だね。正解だ」


J・S「え?」


ピーボディ「ん?」


J・S「それも芸がないですよね」


ピーボディ「う、うん。よく気づいたね」


J・S「もっと会話のレベル、上げてもらっていいですよ」


ピーボディ「わ、わかった」


J・S「穀物が不足すると、不足地域に穀物を輸送しなくてはなりません」


ピーボディ「そうだね」


J・S「その際の輸送手段は、鉄道です」


ピーボディ「うん。そうなると、鉄道の需要が上がるね」


J・S「はい。というわけで投資すべきは……」


ピーボディ「鉄道!」


J・S「……」


ピーボディ「と見せかけて、これもじつは違う……よね?」


J・S「いえ、鉄道であってます」


ピーボディ「だ、だよね、そうだよね。もちろん、わかってたよ」




1854年。J・S・モルガンは鉄道に投資した。

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