第9話 お土産は、宿題?
「ただい…ま?ユキちゃん!どうしたの?」
リビングのドアを開けると、目を真っ赤にしたユキちゃんが
「うわあああああん。ボクも学校行きたかったよおぉぉ!」
と泣きながら飛びついてきた。
「おいコラ、つかさから離れろ」
「ユキくん、つかささんも疲れているので……」
「トラくんもケンタくんも、つーちゃんと一緒だったじゃん!みんなボクのこと忘れてたんだ」
これは、完全にスネている。
おもちゃが散乱したリビングのソファにはミドリ君が座っているんだけど、
「僕は今日一日、アイドルごっこを30回、かくれんぼを20回、絵本を10冊、しりとりに30分付き合わされました……」
と放心したようにつぶやく。
ユキちゃんが一日中ご機嫌ナナメだったことが、よーく伝わってきた。
「ただいま~て、なんやこれ、どういう状況なん?」
わたしたちより少し遅れて帰ってきたセキ君が驚くのも無理はない。
ユキちゃんが、わたしの膝の上で、ケンタにクッキーを食べさせてもらい、トラにはジュースを飲ませてもらっているんだもん。
「セキ君も、ボクとミドリ君を置いてけぼりにしたでしょ」
ぷりぷり怒るユキちゃん。
「そんな怒らんといてや。そや、ユキに土産あるから、機嫌なおし」
セキ君は、ランドセルをゴソゴソしたかと思うと、1冊のノートを出した。
「これこれ。なんや先生が宿題っちゅーもんくれたんや。これで、機嫌直し」
ひらりとユキちゃんに手渡したのは、……どう見ても宿題の漢字ノート。
「わー、すごい、学校のお土産だぁ!セキ君ありがとう♪」
いやいやいや、それ、”お土産”じゃないし!!
ユキちゃんも喜んじゃってるし、もう、どこから突っ込んだらいいの!
「……えっと、セキ君、それ、宿題だから、あげちゃダメだよ」
「?宿題?お土産と何が違うん?」
きょとんとするセキ君とユキちゃん。そこへ、
「そういえば、僕たちも、”宿題”、ありましたよね?」
「算数プリントとかいう、紙のやつな。ユキ、欲しいか?」
……この感じ、なんだかいや~な予感がしてきた。
「えっと、みんな、もしかして、”宿題”って、知らない……?」
うなずく3人と、セキ君の”お土産”を大事そうに抱えるユキちゃん。
わたしは、頭を抱えた。
次の日。教室に入ったわたしたちに、友梨ちゃんが、
「3人とも、どしたの?顔、ひどいよ?」
ってオバケでも見たみたいな顔で言った。
「うん……ちょっと寝られなくて」
結局、宿題が終わったのが夜中の2時だったから、仕方ない。
「犬丸君と猫宮君も……大丈夫そ?あんまり無理しないほうがいいよ」
そう言うと、わたしたちを気遣ってか、友梨ちゃんは自分の席に戻ってしまった。
わたしも、ランドセルを片付けると、そのまま自分の席に突っ伏した。
きのうわかったけど、この2人、勉強が、ぜんっぜんできないの!!!
――きのう、宿題とは何かを説明して、早速やってみたんだ。
セキ君は、漢字の書き取り。
ケンタとトラとわたしは、算数の小数のプリント。
セキ君は、「真似は得意やでー」ってスラスラ書いて……だから、セキ君の宿題は、わりと早く終わったんだよね。
問題は、ケンタとトラ。
「何で答えが全部5なの!?」
「5月なので、5を書いてみました!」
「トラは?何にも書いてないけど」
「だって、わかんねーもん」
って感じで、どうやら足し算から分かってないみたいで。
ミドリ君が、
「このままだと、いけませんね」
って2人に足し算の仕方から教えることになったの。
途中、2人があまりにも苦戦するから代わり解いてあげたかったけど、
「学校に行くんですから、自分で解けないと、困るのは2人ですよ」
ってミドリ君にピシッと言われて、仕方なくそばで応援することしかできなくて。
へそを曲げていたハズのユキちゃんも、宿題の大変さに怖気付いたのか、すっかりいつもの可愛いユキちゃんに戻っていた。
――そういえば、授業中は、2人はどうしてるのかな。
いつの間にか始まっていた1時間目は、算数。
わたしよりも後ろの方に座るケンタとトラを、ちらっと見てみる。
ケンタは、……前を向いて、手はお膝のいい姿勢で、先生の話を一生懸命聞いてます!って感じ。
って、よく見たらノート、全然書いてないよね??本当に話を聞いてるだけ!
トラは……寝てる!ダメだよ、眠いのはわかるけど、起きて、話聞いて!
ってわたしの気持ちは全く伝わらず、ゆうべの寝不足を取り戻すかのように、美しい寝顔で幸せそうに夢の中。
ああ、もう……でも、元はペットだし、仕方ないよね、ってことにしよう。うん!
そう思っていたのに。
1時間目の終わり、先生の
「来週、小数のかけ算のテストやるからなー」
の言葉で、顔が青ざめた。
休み時間開始のチャイムとともに、大勢のクラスメイトが外へ出た。
わたしは、サッカーに誘われる2人を何とか引き止め、席につかせる。
「2人とも、テスト勉強するからね!」
「?わかりました!」
素直に返事をするケンタ。……絶対分かってないけど、まあいいか。
「?何だよ急に」
大あくびをするトラ。めんどくせーっていうのが態度でわかる。
「先生が、来週テストって言ってたでしょ。だから、今から特訓しないと」
2人の分の算数ノートを広げたところへ、友梨ちゃんがやってきた。
「?3人で何してるの??」
「えっと、この2人、算数が苦手で……」
「へぇ~、何でもできそうなのにね。まあでも、合格しないと大変だから、勉強はした方がいいよね」
「どういうことですか?」
大変、と言う言葉に反応するケンタ。
「合格点が取れるまで、追加の宿題があるし、休み時間は毎日再テストってことだよ」
「マジか……」
昨日のことを思い出したのか、それとも休み時間に遊べないと気づいたからか、がく然とするトラ。
ため息をつきながら言う友梨ちゃんだけれど、どのテストも毎回ほぼ満点なのをわたしは知ってるんだよね。
「!あのさ……良かったら、友梨ちゃんも休み時間、一緒に勉強しない?今度のテストまででいいから!」
「え?でも……邪魔じゃない?」
わたしたち3人をチラリと見て遠慮したように言う友梨ちゃんに、わたしは観念して昨晩の宿題が夜中の2時までかかったことを話した。
テストまで1週間。
だけど、家では宿題でいっぱいいっぱいだから、学校でやるしかない。
2人のことは、わたしがちゃんと見ないと……って思う。
でも、この2人をわたしだけで教えると、合格はきっと夏休みまでかかる。
「というわけで、ほんとーに、おねがいっ!」
手をパンっと合わせて、友梨ちゃんを真剣に拝む。
友梨ちゃんは、一瞬、驚いた顔をしたけど、
「つかさにお願いされるなんて、滅多にないからね」
って笑顔でオッケーしてくれた。
こうして、強力な助っ人を迎えて、1週間後のテストに向けての特訓がはじまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます