魔術師の名家に生まれたけど、魔力が弱いせいで親から酷い扱いを受けていた女の子、イーリス。
彼女は親に魔法研究の実験体として扱われ、ウサギの姿にされてしまいます。
さらに、繰り返される実験の中で人間に戻れなくなったイーリスは、ある日とうとう捨てられてしまいました。
実の娘にこんなことをするなんて、とんでもない親です。
そんなウサギの姿から戻れないイーリスが出会ったのが、王国最強の魔術師の青年、セレ。
彼はイーリスが人間ということを知らずに保護し、たくさんの愛情を注いでくれました。
親から捨てられた後で素敵な出会いがあって、愛を受けるなんて数奇な運命です。
人間に戻れなくても、セレと過ごす時間はとても暖かく、彼に惹かれていくイーリス。
しかし最強の魔術師であるセレもまた、厄介な事件に巻き込まれていき、さらにそこにはイーリスを捨てた親も関わってくるのです。
本作の大きな特徴は、主人公が非常に長い期間、ウサギの姿でいるということ。
それ故にセレとは会話をすることはできませんけど、イーリスとセレがお互いをとても大事に思っている様子が、よーく伝わってきました。
ずっと苦しい思いをしてきたイーリス。
セレといっしょに、幸せになってください!
ある王国で、有名な魔術師の家計に生まれたイーリス。
しかし名家に生まれるというのは、必ずしも良いこととは限りません。
生まれつき魔力が弱くて魔術の才能のなかったイーリスは、家族から疎まれ、そればかりか苦痛を伴うような危険な魔術の実験台にさせられてしまいます。
まるで実験動物のような扱いであり、しかもそれをやっているのが実の親。それだけでも十分すぎるほど辛く苦しい事態ですが、悲劇はそれだけでは終わりません。
とある実験の結果、なんとイーリスは、ウサギの姿になってしまったのです。
それから待っていたのは、さらに過酷な日々。本当に実験動物となってしまったイーリスは、他の実験用の動物たちと共に死を覚悟する事態に陥ってしまうのですが、そんな絶望的な状況で、ようやく彼女にも救いの手を差し伸べる相手が現れてくれました。
その相手というのが、王国最強の魔術師と言われている、セレ。
セレは実験動物として酷い扱いを受けていたウサギを助けたのですが、そのウサギというのがもちろんイーリス。
イーリスはそのままセレに保護されたのですが、いくら最強の魔術師でも、助けたウサギが実は人間だとは思いませんでした。
もちろんイーリスとしては本当のことを話したいですが、ウサギの体では言葉を喋ることもできません。それに、助けてもらったお礼を伝えることも、何かしら大きな役に立つこともできません。
できることといえば、そばに寄り添うことくらい。
ですが、実はそれが一番大事なことなのかもしれません。
本作では、最強の魔術師であるセレ以外も、同じく優れた魔術師だったり、実はかつて意外な立場にいた人だったりと、色んなすごい人たちが登場し、協力してくれます。
ですが読んでいてその人たちを最も好きになったのは、優れた力やすごい立場にいたことではなく、誰かを助けるために、自分にできることを精一杯やってくれたこと。
誰かのために動く。何かあったら心配し、無事でいてくれたら心から喜ぶ。そんな心は、きっとどんなに優れた力よりも、人と人とを強く結びつけてくれることでしょう。
もちろんイーリスだってそう。特別な何かはできないかもしれない。それどころか、セレに自分の正体を伝えることすらできない。
ですが、そばにいて寄り添う姿は確かにセレの心に届き、彼の中でイーリスの存在がどんどん大きくなっていく。
もちろんイーリスだって、危ないところを助けてくれて、たくさんの優しさをくれるセレを、心から慕っていきます。
言葉を交わせなくても、膨らむ思い。
家族からも見放され一人で苦しい思いをしてきたイーリスが、大切な人達と共に幸せになる物語です。