世界最強の杖、その名はマジカルチ◯ポ(全年齢版)

わさび醤油

マジカルチ◯ポと愛を奪う魔の魅了

その日、雷に打たれる馬鹿がいた

 マジカルチ◯ポ。

 それは世界を支配していた混沌の女神様をたった一夜で堕としたと、この世界の起源とされた創世神話ミルスにて語られ続ける英雄の宝である。


 曰く、それはそこにあるだけで、如何なる女でさえ堕とすと決定づけられたものであると。

 曰く、一つ姿をさらせば最強の女神でさえ怒りを収め、そのイチモツ以外目が入らなくなると。

 曰く、一つ鼻先へ嗅がせれば脳さえ貫き、どんな不感症の女でさえも欲情に抗えなくなると。

 曰く、その矛を持った男と一夜を共にすれば、混沌の女神の怒りさえ愛へと変えてしまうのと。

 曰く、堕とされた女はたとえ女神であろうと肉体から魂に至るまで、マジカルチ◯ポを持つ男のために作り変わると。

 

 その他諸々エトセトラ。数多の逸話を持つ最強にして無敵、絶対にして至高のマジカルチ◯ポ。

 人の夢の最奥、人が拒む怨敵。世界で一番純愛で、最も汚らしい恋愛譚の象徴と謳われた宝。或いは世界で最も下世話な下ネタと揶揄されるものこそ、究極の女殺しとされるマジカルチ◯ポなのだ。


 まだ幼い少年だった頃、珍しく飲み過ぎて酒に酔った父からマジカルチ◯ポの伝説を聞かされた俺は、そんなそれはもう心を奪われてしまった。

 別に大層な理由なんてものは、一つもなかった。

 例えば幼気な子供が英雄に、賢者に、貴族を夢見るのと同じように。例えば隠された金銀財宝の伝説へ夢想を広げるのと同じように、俺はマジカルチ◯ポが欲しいと思った。それだけだった。

 

 それからの俺は、その宝を手に入れるために日々を努力した。

 筋トレをした。走り込みをした。勉強をした。なにをすればいいか分からなかったが、とにかく色々頑張った。

 

 別に堕としたい女なんていなかったし、誰かに夢を語れば笑われ、引かれ、軽蔑されることもたくさんあったけれど。

 それでもマジカルチ◯ポを手に入れたいと心から願っていた俺は、ただひたすらに努力を重ねた。


 だが当然、そんな程度の研鑽ではマジカルチ◯ポを得ることなどなく。長閑ながらもたいした発展のないちんけな村の中でどうすればなんてアイデアさえ思い浮かず。

 得た物としては、健康で水面に映ったとき惚れ惚れするほどのシックスパックを併せ持つ肉体くらいで、肝心のマジカルチ◯ポに繋がるような成果は一つとてなかった。

 

 俺は焦った。このままでは、俺はマジカルチ◯ポの手がかりさえないまま生を終えるのではと。

 

 両親からは早く孫の顔が見たいとせっつかれ。

 友人は夢と筋肉ばかりにかまけてないで、いい加減結婚した方がいいぞと窘められ。

 何より眠る度、マジカルチ◯ポなんてあるわけがないと自分の内に突きつけられ続け。


 そうして夢は所詮夢でしかないと、大人しく諦めてしまおうと折れかけた。

 そんな頃だった。たまたま縁の出来た魔女に、魔法や薬という未知の領域を提示されたのは。


 それから俺は全部を捨て去る覚悟をして、魔女へと付いていきマジカルチ◯ポを追い求めた。

 魔法について学んだ。薬や毒について学んだ。才能はなかったけれど、魔女は『今まで出会った人の中でも愉快な生き物』だと面白がりながら探求に手を貸してくれた。


 そして今、俺は追求の総決算としてこの地に立っている。

 この決して晴れることなき分厚い黒雲が覆う、世界の中身にある谷の中央、大クレーターに。

 

 千年に一度必ず落ち続けているとされている大雷霆。

 かつて英雄のマジカルチ◯ポに即堕ちした混沌の女神が、百年目の夫婦喧嘩の際に落として以来振り続けているとされた激昂の紫電。この世で最も高出力の現象と謳われた、災厄と奇跡の両象徴。


 俺の長い年月を費やした研究は、この大雷霆こそマジカルチ◯ポに最も近いと到達した。

 この無限とさえ思えるエネルギーを自らの物に出来たチ◯ポこそ、それは無限の可能性を宿した究極のチ◯ポに他ならないのだと。


 魔女の協力の下、完成させたここの集雷スキン。

 雷を集めるという単純な効果のみもたらすそれを自らのチ◯ポに装着し、それ以外の衣類を着ることなく、大クレーターの中心に仰向け大の字となって雷の到来を待ち続けていた。


 空模様はまさに絶好の千年に一度の雷日和。

 普段であれば黒雲の中は妖しく光り、ゴロゴロと鼓膜が千切れそうな振動音がひたすら鳴り響くのが常な果ての谷。

 そんな地獄のような場所であるにもかかわらず、黒雲は僅かに光を漏らすばかりで、異常と豪語出来るほど静けさが場を包み込んでいる。


 嗚呼、まさに嵐の前の静けさ。千年に一度の大現象、それが我が生と重なったのはまさに奇跡よ。

 

 恐らく混沌の女神もこう言っているのだ。

 この雷を受けて、お前も英雄と同じマジカルチ◯ポを宿せと。お前には手にする資格があるのだと。

 

 漠然としながら、どこか確信を得たような高揚感。

 不確かながらも麻薬のような全能感に浸りながら、今か今かと待ち続けて空を眺めていた。その瞬間だった。


 光ったと、そんな認識さえ追いつくことなく、遙か天から振り落ちた落雷に呑み込まれる。

 轟音は全身を引き千切り、極光は全身を溶かし尽くし。

 けれどそれら全ての感覚が追いつくことない魂に至るまでの全てが消失する刹那の余韻。永遠とも言える瞬間の間、妙にハッキリとした思考でこの身の末路を悟った。


 嗚呼、上手くいかなかった。俺はついぞマジカルチ◯ポを手に入れることが出来なかった。

 だけど悔いはない。未練はあるが、後悔はないのだとも。

 例え自らの生に何一つ価値がなかったとしても、俺は生涯をかけてマジカルチ◯ポを、自分の夢を追い求めることが出来たのだから──。


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また、今日は二話投稿です。次は二時間後に投稿します。

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