【完結済】え、俺が玖村高校の名探偵だから事件を解決しろ? いやだ、俺は推理小説を読みたいだけなんだ!

久坂裕介

第一の事件:謎の落書き

第一話

 俺は三年A組の外側の壁にられた模造紙もぞうしの校内新聞を読んで、思わずため息をついた。

「あ~、だりぃ~」


 校内新聞の右上、つまり一番目立つスペースに書かれていた記事が、こういう内容だったからだ。


『我々、新聞部は体育館裏の壁に赤いスプレーで書かれた、「I want to be a 5tyuーbaー!」というなぞ落書らくがきを発見した! 


 落書きは軽犯罪法違反または建造物等けんぞうぶつとう損壊罪そんかいざいという、立派な犯罪である。なので我々は落書きをした犯人を我が玖村高校くむらこうこう名探偵めいたんてい、三年A組の鷲尾わしお秀哉しゅうや君にあばいてもらおうと思う。


 その結果は、後日の校内新聞で報告する予定である。新聞部部長 鶴田つるた亮平りょうへい


 俺、鷲尾秀哉は再びため息をついた。落書きをした犯人なんか、暴きたくなかったからだ。もちろん、面倒めんどうくさいからだ。

「あ~、だりぃ~」


 そして校内新聞の左上には九月からの生徒会の活動、下半分には九月に行われる学校行事の記事などが書かれていた。それらを読んだ俺は取りあえず、ミステリー部の部室に向かうことにした。でも校内新聞にむらがっている、野次馬やじうまたちは盛り上がっていた。

「おいおい、落書きだってよ」

「どういう意味なのかしら?」

「犯人は、誰なんだ?」


 今は今日の授業が終わった放課後なので、野次馬たちはいつまでも盛り上がっているだろう。俺はそれらを無視して、三階の階段を下りた。そして二階に下りると、やはり二年A組の壁に人だかりができているのを見つけた。それらから聞こえてきた声から、やはり校内新聞を読んだ感想のようだ。


 そして一階まで下りたが、やっぱり一年A組の壁に人だかりができていた。どうせ話している内容は同じだろうと思って、俺はすぐに左に曲がった。ちなみになぜ校内新聞が各学年のA組の壁に貼られているかと言うと、ちゃんと理由がある。


 この玖村高校には、一クラスに約三十人ほどの生徒がいる。そして一学年はA、B、Cの三つのクラスがある。更に一階には一年生、二階には二年生、三階には三年生のクラスがあり、階段はA組の横に付いている。


 だから移動する時には全ての生徒が、A組の横の階段を通ることになる。だから全ての生徒が通るA組の壁に校内新聞を貼るのが、最も効率的だということだ。


 そうして左に曲がった俺は各クラスがある本館から、渡り廊下ろうかを歩いて文化系の部室がある別館に移動しようとした。でもそこで、容赦ようしゃない太陽の日差ひざしを感じた。


 おいおい。もう、九月七日だぜ。『暑さ寒さも彼岸ひがんまで』の彼岸がある、九月だぜ。なのにまだ太陽は、真夏のようにギラつている。まったく、秋分しゅうぶんまでにはギラつくのを止めて大人おとなしくなれよな。


 と心の中で太陽に向かってボヤいてみたが多分たぶん、明日も太陽はギラつくだろう。なぜなら昨日きのう見たニュースの一週間予報でしばらくの間、晴れが続くと言っていたからだ。あ~だりぃ~。


 とは言え、俺のテンションは今はダダすべりというわけでは無い。いやむしろ、これからミステリー部の部室でエラリー・クイーンの推理小説を読めるので、むしろテンションは高い。今は事件が起きて探偵が調査をして、その結果これから謎解なぞときに入ろうというところまで読んでいる。だから自然とテンションが上がる。


 でも別館の二階のすみにあるミステリー部の部室のドアを開けた俺のテンションは、一気に下がった。そこには新聞部部長の、鶴田亮平がいたからだ。そう、あのふざけた校内新聞を書いた張本人ちょうほんにんだ。なので俺は一応、イヤミを言ってみた。

「おいおい、亮平。ここは、新聞部の部室じゃねえぞ。ミステリー部の部室だぞ」


 すると亮平は、パイプイスに座って、腕組うでぐみをしたままで俺を見て言い放った。

「そんなことは、分かっているよ。君だって僕がここにきた理由は、分かってるはずだぞ」


 いやいや。分かりたくねえー。分かってるけど、分かりたくねえー。すると亮平と机をはさんでパイプイスに座っている、結城ゆうき志織しおりも言い放った。

「そうだよ秀哉君! またこの前みたいに、事件を解決しようよ!」


 やれやれ。志織も、いたのか。つか何でお前がってんだよ。あ~、これじゃあ、エラリー・クイーンの推理小説の続きが読めねえじゃねえか。今、いい所なのに。あ~、だりぃ~。すると、そんなテンションダダ滑りの俺に、亮平が聞いてきた。

「校内新聞は、読んだかい?」


 読んでませーん。読んだけど読んでませーん。今、読んだって言ったら確実に面倒くさいことになるので、読んでませーん。とにかく、ここにいたら確実に面倒くさい展開になるので、部室のドアをそっと閉めて俺は家に帰ろうとした。すると志織は、はじけるような笑顔でパイプイスを指差ゆびさした。

「ねえねえ、秀哉君。早くここに、座ってよー。ねえねえ、早く!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る