第二話 共鳴
(オープニング)
【前回のダイジェスト映像。曰く付きの洋館でのMV撮影。そして、編集スタジオで発見された、窓ガラスに映る不気味な少女の顔がスローモーションで再生される】
ナレーション(落ち着いた男性の声):
「新曲『虚ろなマリオネット』のMVに映り込んだ、説明のつかない“何か”。スタッフはこの事実を胸にしまい込み、MVは公開された。しかし、それは終わりの始まりに過ぎなかった。彼女たちの日常は、この日を境に、静かに、そして確実に侵食されていくことになる」
(MVの反響)
【完成したMVを、メンバー全員で食い入るように見ている楽屋のシーン】
ユナ:「すごい……! いつもの私たちと全然違う!」
ヒナノ:「映画みたい! この世界観、エモすぎません!?」
ミサキ:(安堵したように)「良かった……。みんなの新しい魅力、ちゃんと伝わるよ」
【MVは公開後、瞬く間に話題となる。SNSのタイムラインが流れる映像】
「レヴリの新曲、神すぎ……」
「ダークなコンセプトもいけるとか無敵か?」
「再生回数の伸びがエグい!」
【しかし、その中に不穏なコメントが混じり始める】
テロップ:ネット上のコメント
「待って、1:23のとこ、窓に誰かいない?」
「うわマジだ……ミサキの後ろに女の人の顔みたいなのが……」
「これってわざと? 心霊演出?」
「公式が何も言わないのが逆に怖い」
マネージャーのインタビュー映像
マネージャー:「ええ、その噂は耳にしました。正直、話題になるなら好都合だ、くらいにしか……。否定も肯定もしないのが一番伸びますからね、ああいうのは。我々もプロモーションの一環として静観していました。まさか、あんなことになるなんて、この時は思いもしませんでしたよ」
(音の怪異)
【場面はレコーディングスタジオ。メンバーはカップリング曲の収録に臨んでいる】
【ユナがブースに入り、ヘッドフォンをつけて歌い始める。数テイク録り終え、彼女はヘッドフォンを外してコントロールルームにいるエンジニアに話しかける】
ユナ:「すみません、今、歌ってる途中で、女の人の吐息みたいな声、入りませんでしたか?」
エンジニア:(コンソールを操作しながら)「え? 声? いや、こっちでは何もモニターされてないけど……。自分の声の反響じゃないかな? ちょっと聴いてみる?」
【エンジニアがユナのボーカルトラックだけを再生する。そこからはユナの澄んだ歌声だけが聞こえてくる】
ユナ:「……気のせい、かな。すみません」
エンジニア:「疲れてるんだよ。はい、次行こう!」
【数日後。深夜のレコーディングスタジオ。あの時のエンジニアが一人でミックスダウン作業をしている。彼は大きなヘッドフォンをつけ、目を閉じて音に集中している】
【彼が、問題のユナのボーカルトラックを再生した、その時だった】
ユナの歌声:「♪〜〜〜〜」
不明な声:(吐息のように、すぐ耳元で囁くように)「……ワタシも……」
エンジニア:「うわっ!」
【エンジニアは驚いてヘッドフォンを椅子に投げ捨てる。心臓を押さえ、荒い息をつきながら、恐る恐るもう一度ヘッドフォンを手に取る。再生し直すと、そこにはやはり、消えるはずのない異質な声が記録されていた】
エンジニアのインタビュー映像(後日、顔にモザイクがかかっている)
エンジニア:「幻聴じゃなかったんです。はっきりと……女の声が……。機材トラブルだと思いたかった。いや、そう思い込むしかなかった。だから……その部分は、ノイズとして、僕が消しました。誰にも、言えませんでしたよ。あんなこと……」
(鏡の怪異)
【場面はいつものダンスレッスンスタジオ。年末のフェスに向け、メンバーの練習は熱を帯びていた】
ダンスコーチ:「もっと揃えて! 4人で一人に見えるくらいシンクロさせて!」
【4人は横一列になり、鏡に向かって新曲の激しいダンスを繰り返す。汗が飛び散り、息が上がる】
【曲のサビ、4人が同時に腕を突き上げる振り付け。その瞬間だった】
【鏡の中のアカリの姿だけが、一瞬、他の3人とは違う、まるで左右を反転させたような動きをした】
ミサキ:「えっ!?」
【隣で踊っていたミサキが、違和感に動きを止める。それにつられるように、ユナとヒナノも動きを止め、全員が鏡を凝視する。音楽だけがスタジオに響き渡る】
アカリ:(息を切らしながら)「……何? どうしたの、急に止まって」
ヒナノ:(怯えた声で)「い、今……アカリ先輩の動き、鏡の中だけ……逆じゃなかったですか……?」
アカリ:「は? 何言ってるの。そんなわけないでしょ。疲れて見間違えたんじゃない?」
ミサキ:「でも……私も見た。確かに、一瞬だけ……」
【アカリは「くだらない」と吐き捨て、ドリンクを取りに行く。しかし、残されたメンバーの間には、重く、気まずい沈黙が流れる。誰もが鏡に映る自分たちの姿から、目を逸らしていた】
ミサキのインタビュー映像
ミサキ:「気のせい……だと思いたかったです。でも、確かに見えたんです。アカリの動きが、鏡の中のあの子だけが、私たちとは違う意思を持っているような…。練習に集中しなきゃいけないのに、あの日から、鏡を見るのが少し、怖くなりました」
(エンディング)
【練習を終えた楽屋。メンバーたちは疲れ果てた様子でソファに座ったり、スマホをいじったりしている】
【カメラは、少し離れた場所で、一人静かにしているユナの姿を捉える。彼女は自分のスマートフォンを、何かに向けてじっと構えている】
【カメラがそっと近づき、彼女のスマホの画面を覗き込む。カメラモードになった画面が映しているのは、楽屋の隅にある、誰も使っていない薄汚れたロッカーだった】
ディレクターの声:「ユナちゃん、何撮ってるの?」
【声に気づいたユナが、ゆっくりと振り返る。その表情は、少し夢見るようで、どこか虚ろだ】
ユナ:「……歌が、聞こえるんです」
ディレクター:「歌?」
ユナ:「はい。あそこから。……すごく、きれいな歌」
【ユナはそう言うと、ふわりと微笑んだ。カメラの角度が変わり、彼女のメイク道具が置かれたテーブルが映る。その隅に、見覚えのあるものが置かれていた。】
【あの月影邸で見つけた、アンティークの手鏡。】
【楽屋の照明を受け、その手鏡が、キラリと意味ありげに光を反射した。】
ナレーション:
「聞こえるはずのない歌声。それは、次なる怪異の序曲に過ぎなかった。そして少女たちは、まだ気づいていない。あの洋館から持ち帰ってしまった“何か”が、既に彼女たちの日常に、深く根を下ろし始めていることに――」
【不穏なメロディーが流れ始め、画面がブラックアウトする】
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