四章 18話 

「今年暑すぎない?」


 下駄箱に着くなり深い溜息を吐きながら渚が外を見る。私もそれにつられるように前を向く。すると眩しい光が視界に飛び込み思わず目を細める。玄関が暗がりもあり、光がより強く感じると同時に熱を帯びた外気が一気に自身を包み、思わず顔がひきついた。そんな私の表情を一瞬笑ってみせた渚が口を尖らせる。


「それでもかのかは部活で慣れてるじゃん。陸上なんだし」

「まあ、幾分かね。でも私だって流石に堪えるよ」


 互いに顔を見合わせ再度、外に視線を向けつつ靴を履く。そして私達は外へと買い出しへ向かうべく玄関を後にしようとしていた。

 というもの、二週間後に高峰祭と言う山名高校文化祭があるという事で買い出し担当になってしまったのである。

 そんな背景もあり、授業もいつもより短縮しており、その準備に向けて動きだしているのだ。まあ中学とは違い高校となると、クラスでやれる事も一気に増えるうえに規模も大きくなる。しかもクラス出し物投票もあり、一番の得票だったクラスには金一封が頂けるのだ。そんな事もあり、各クラス気合いが入っている。因みにうちのクラスはお化け屋敷らしく、装飾もさることながら、備品も何かといる催しであり、かなりの過密なスケジュールなのだ。実際今必要な物を書いたメモを渡されたが、二人で買い出しが遂行できるか微妙ではある。が、人がさけない状況も理解しているので仕方がない。

 私は一回意を決するように息を吐く。すると背後から聞き覚えのある声が耳を掠めた直後。


「あれーー かのかちゃんとそのお友達じゃん」


 声のトーンと言い回しで赤砂だと理解し振り向く。案の定彼が笑みを称えていると同時に隣には碧映も一緒に立っていたのだ。そんな彼は私を見ると軽く手を上げる。いきなりの彼の行動にこちらも思わず手を上げ答えるも、すぐさま手を下ろし渚を見た。ある程度の経緯は彼女に話しているものの、こんなフレンドリーな感じだとは想像していないだろう。なので今のやりとりを見て渚に色々と聞かれる事に恥ずかしいさを覚えてしまうのだ。そんな事もあり彼女の様子を伺うものの、渚は赤砂に目がいっていたようで、こちらの仕草には気づいていないようだった。少し胸をなで下ろす中、彼等がこちらに近づいてくる。


「どうも、かのかの友人の柳原渚です」

「渚ちゃんっていうだ。俺は」

「赤砂君と、佐藤君だよね」

「俺等の事知ってるの?」

「有名人だもの勿論」

「いやーー 何だか恐縮だな」

「そんな事思ってないだろ修」


 その直後その場の全員が笑い、一区切りが着いた所で赤砂が私達を見た。


「で、二人は?」

「買い出し班。文化祭で使う備品を買いに駅までちょっと行かなくちゃいけなくて。本当なら、帰りにと思っていたんだけど、クラスでお化け屋敷やるから、手間とるというか。しかも人があまり割けない状況もあってね。今日はかのかも部活がないみたいだから行っちゃおうかなって」

「うん。私も陸上大会が文化祭後にあるから、放課後手伝える日が限られちゃうし」

「成る程なーー でも奇遇だな。俺等もレトロゲームやれるようにするとかでその備品買い出しで、今から外出するんだよな碧」

「ああ。でも二人だけでおばけ屋敷の備品…… なあ修。備品ってどこで買ってもいい感じだったし、俺等も駅前行かないか?」


 その言葉に赤砂は数回瞬きした途端、碧映の肩に腕を回し、楽しげに笑い声を上げた。


「おう構わないぜ。ついでにかのかちゃん達の荷物も持ってやろう」

「え、そんなの悪いよ赤砂君」

「なーに良いって事かのかちゃん。碧もそのつもりで話し振ったんだろうからさ。にしても、碧があんな気の利いた事言えるようになるなんて。いやはや友人として嬉しいぞ!!」

「い、いや。俺はっ」

「もしかして照れてるの碧?」

「はあ? んな事ないから。っていうか何だよその上から目線発言は?」

「いやレディーファースト的な事は俺の方が数歩前に行ってるし、碧はまだまだ足下にも及ばないけど、すげー良い傾向なんじゃねーの」

「何だか誉められても嬉しくないんだが」

「そんなーー 碧って時々俺に対してのアタリ強くない?」

「いや気のせいでしょう」


 軽快ないつもの二人のトークに思わず笑みが零れる中、碧映が私を見る。


「と言う事だから」

「うん。じゃあ一緒行こう」


 そう言い、私達は玄関を後にし、強い日差しの中に飛び込んだ。




 学校から駅迄は徒歩10分足らず。私と渚は日傘を差し、碧映達はネックファンをしていたものの、互いに汗が滲む。そんな中無事駅前の商業ビルに辿りつく。店内は涼しくエアコンの有り難さを実感した所で、待ち合わせ時間と場所を決め、それぞれの備品を買いに一回解散した。

 商業ビルは5階建てで、午後三時を回ったぐらいだったが、思った以上に人が行き交う。暑さを凌ぐ為に入店している人も多いのかもしれない。そんな中、最上階の日用品、手芸用品フロアへと向かい、着いた所でざっと周りを見渡す。様々なテナントが並び、店舗ごとの特色のある商品が並ぶ。且つ、日用品や手芸用品はこのあたりでは一番店が密集している為、必要な物が入手しやすいのだ。


(さてと、買っていきますか)


 持参したメモを制服の胸ポケットから取り出す。すると渚が紙を覗きこんだ。


「結構あるよね。探すもの」

「まあねーー どうする手分けする?」

「うーん。荷物持ちは必要だし、一緒でいいんじゃな」

「じゃあ。早速くり出しますか」


 笑みを浮かべる彼女に合わせ顔を綻ばせて見せると、店舗を見て回る。それなりの広さの上、売場面積もあるので、選び放題ではあるが品定めが難しい。そんな状況化で粛々と備品を購入していく事30分。パンパンになった紙袋を両手にかけ、布を物色する渚の背中を見つめる。そんな彼女の腕にも荷物があり、品を探すにも大変そうだ。私自身気持ち腕も怠くなってきた。無意識に荷物を持ち替え気を紛らわした直後、渚の手が止まり、私の方に振り変える。


「どうしたの渚?」

「うんーー 黒っぽい緑って書いてあったけど、これどう思う?」

「深緑っぽいけど黒っぽくはないよね」

「だよねーー でもこれって結構見たけどあまり見あたらなかったような……」

「うん…… とりあえず後これだけだし、ちょっと私も向こうの方見てくるよ。ローラー作戦的な。それでなかったらこれにしよ」

「了解。それよりかのかその荷物。大丈夫なの?」

「まあ。持てないわけでもないからさ」

「でもっ」

「良いから、良いから。それよりちゃちゃっと終わらせちゃお」

「わかった。じゃあ私向こうの壁から見てくるから、かのかはあの見えてる場所迄ね」


 軽く頷きその言葉に答えると、彼女はそそくさとその場を後にた。


(まああともうちょっとだしね)

 

 渚も私の荷物量のかみ合いから大きな移動を避けてくれたようだ。彼女の心遣いは非常に有り難い。いくら私が運動部とはいえ、流石に疲れは出てくる。まあ日頃こういった買い物をしないというのもあるのでいつもよりは疲労の溜まり具合が早いのかもしれない。だからといって探し購入しなければ終わらないのが実状だ。

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