第6話 

(あれは凄かったわ)


 改めて人気の高さを思い知らされると共に、そんな2人と作業をした自身の身を思わず案じ、一回身震いをした。するとその時、私の背後から女子が騒ぐ声がした直後だ。


「ねえ」


 聞き覚えのある声に振り向くと、ハーフパンツにクラスカラーの緑のTシャツを着た佐藤が立っていたのだ。その姿を見つめつつ、小首を傾げると、彼は手招きをした。瞬時に委員絡みと察し、立ち上がる。


「渚。ちょっと実行委員関係で出てくるね」

「うん。後承知してるとは思うけど、スウェーデンリレーまでには戻って来てよね。かのかが要なんだから」

「わかった」


 そう言う、その場から離れると、先に歩き出していた彼を追う。


「どうしたの?」

「この後2種目の障害物競走の準備が間に合わないと後藤先生が」

「そっかーー 後半にきてみんな疲れてきちゃってるもね」


 そう言い現場へ向かうと、蜂の巣をつついた様な状況になっていると共に、明らかに人員が少ない。


「手伝いに来たよーー にしても外の人は?」

「それが、具合悪くて保健室に行ったりとか、後、忘れているのか来なくて」

「わかった。とりあえずやっちゃおうか」


 そう言い障害物競走で使う物を運び出す。勿論彼も何も言う事なく作業をし、どうにか搬入は間に合った。が、この状態は由々しき事態である。この後も、きっと人手が足りなくなる。その時一人の同年の委員が声を掛けてきた。


「筒宮さん。この後って時間ある? 少し手伝ってくれませんか?」

「そうだね。これはちょっと大変かも。私もあと1種目あるけどその間ぐらいなら大丈夫だよ」


 そう言い作業を終わった佐藤に近寄った。


「佐藤君。私頼まれたから残っていくんだけど」

「俺は戻る」

「うん。佐藤君は良いよ。私だけで」

「…… 本当、お人好しだな。そんな事した所で自分が大変なだけだろ?」

「うーん。そうだけど。でも私が出来る範囲だから。それでその人が少しでも大変じゃなくなって、笑った顔見れたら良いじゃん」

「…… 何だよそれ。偽善者か? いや典型的な詐欺に遭う人……」

「そんな事ないよ!! 私だってそれなりに、人見る目あるし」

「人を盗撮犯と間違いといてね……」

「いや、それは本当御免ねだけどっ、私もやったからって見返りとか欲しく成る程の事やらないっていうか、それなら最初から手を出さないし……」

「ふーん」

「ま、まあ、そんな感じだから。後、戻るならちょっとお願いあるんだけど」

「何?」

「人員不足の事後藤先生に伝えもらっても良いかな?」

「別に、構わないけど」

「ありがとう」


 そう言い私はすぐさま次の準備に悪銭苦闘する人達の輪に混じり作業を始める。が、やはり人手が少なすぎる。彼にも言付けをお願いしたので、少しは人員を割いてくれると助かると思っていたのだが、その人が合流する気配がない。だが今は兎に角この少ない人員での乗り切るしかないのだ。

 そんな状況もあり、時間はあっという間に過ぎていく。と、生温い風に乗り、放送が耳に届く。どうやら私の出る種目の生徒達を集合させるアナウンスようだ。


(え、もうそんな時間!!)


 しかし私がここを抜けてしまったら、立ち行けない状態になる。


(どうしようっ)


 そんな事を思っているうちに再度放送が流れた。極度の危惧的状況に打開策が浮かばない。その時だ。


「おい」


 背後から声がした。その声は再度耳に届く。


「おい、筒宮!!」


 名前を呼ばれ振り向くと、息を切らした佐藤が私の背後に立った。


「佐藤…… 君?」

「お前がエントリーしてる種目だろ? 何してるわけ」

「え、いや。その……」

「先生、増員してくれてなのかよ。って言うかとりあえず」


 そう言い彼が来た道を見る。


「行けば」

「へ? だって」

「ここは俺が入るから」

「……良いの?」

「愚問だな」

「あ、ありがとう」


 そう一言言うと、周りの委員に声を掛け、私は足早にその場を立ち去った。


 どうにか競技も無事終わり、佐藤の所へと走って向かうと、明らかに人が多くいる。その中には、後藤の姿もあった。するとその視線に気づいたのか定かではないが、彼が私に歩み寄る。


「悪かった筒宮。競技間に合ったようだな」

「はい。どうにか。佐藤君が替わりにここの手伝いに入ってくれたので」

「そっか」


 すると、備品の搬入を終えた彼が戻ってきたのだ。私は彼に駆け寄る。


「佐藤君。ありがとう助かったよ」

「それはようござんした」


 そう言うと一瞬彼の顔がはにかみ笑いを浮かべた様に見えた。ほんの一時の事で見間違いかもしれない。


(だとしても)


 今回の事で、根っからの素っ気ない人ではないという事がわかった。


(まあ、私の思い出の写真撮れる人だから、そんな事はないか。でも追々あの写真の事聞ければ嬉しいかも)


 そんな事を思い顔が綻ぶ。その時、彼と目が合う。


「何?」

「うんん。別にーー」

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