第12話 大きな木

佑、祐子、和夫、真琴、幸の五人が野間さんの家につくと、野間さんはクッキーとお茶を用意して小屋で待っていてくれた。もちろん、テーブルの上にはキラキラしたビーズ玉が置かれていた。

「こんにちは」五人は大きな声で挨拶をすると、野間さんに招かれて小屋へ入っていった。

「わぁ。良い感じの小屋。こういう秘密基地、ほしいわね」祐子が小屋を見渡しながら言った。佑も大きく頷いて、「欲しいよね」と相槌をうった。

ほかの三人も同じ気持ちだった。

「いらっしゃい。先生からお電話いただいて、事情は聞きましたよ。ビーズ玉を探してたの?」

「ちょっと違うんだ。」佑が説明をした。

「そうなの、探しているぬいぐるみはチャーリーっていうのね。このダイヤモンドはチャーリーの首輪についてたのね」野間さんは考えるように深く頷きながら返事をした。

そして「でも、小屋にはこのダイヤモンドしか落ちていなかったのよ。先生があの梁のところもハシゴをかけて見てくださったから、上にもないと思うの」と続けた。

「そうか。チャーリーは別のところに隠してるのかな」真琴が言った。

「でもカラスはダイヤモンドが欲しかったんでしょ。だったらチャーリーはどこかに捨てちゃったかも」そこまで言って、祐子は幸を振り返った。幸は不安でいまにも泣きそうな顔をしていた。

「まずは、ひといきついてちょうだい。あとで、わたしも探してみようとおもうところがあるから、ついてきて」と野間さんが言った。

「えっ、カラスが隠しそうなところを知ってるの?」祐子と佑が同時に叫んだ。

「いえ、知ってるってわけじゃないの。でもカラスはあの天井に空いた隙間から宝物を持ち込んできたみたいなのよ。だとしたら、それまでにチャーリーの首輪からダイヤモンドだけを取り外したことになるでしょ」

「たしかに」真琴がクッキーを頬張りながらうなずいた。

「庭の奥に、大きな木があるのよ。カラスやモズがよく止まっているし、お気に入りの場所なんじゃないかと思うの。そのあたりを探してみるのもどうかな、と思ってね」と野間さんが大きな木の存在を教えてくれた。

五人はいますぐにでも飛び出したい気持ちだったけれど、野間さんの焼いたクッキーがおいしくて、残して行く気にはなれず、無言で、急いでほおばることにした。

「うー、本当なら味わいたいよなー」真琴はつぶやきながら口に運ぶ手を休めようとはしない。

「わかる」幸が言った。その発言があまりにも幸にしては珍しかったせいで、四人の手が止まった。「あとでまた寄ってくれればいいわ。まだ焼いたものがあるし、もどってくるころにはブルーベリークッキーも冷めているころだから」と野間さんは五人の食べっぷりを嬉しそうに眺めていた。

五人はお皿のクッキーを食べきると、野間さんに案内されて庭の奥の大きな木のところへと急いだ。足元はきれいに草が刈られているから、地面にチャーリーが落ちていたらすぐに見つかるはずだ。

大きな木の根元まで下を向きながらやって来たけれど、途中にチャーリーはいなかった。

「いないのかしら」幸が小さな声で言った。

「いや、待てよ。あれ!」和夫が木の枝が重なって影になっている部分を指さして言った。

「よく見えないわね」祐子が見上げながら言った。

「登ってみるか」真琴が言った。

「だめだめ、それは危ないわ。ハシゴでもちょっと届かないかもしれないわね」野間さんが数歩下がって、木の枝の影を探るように見上げながらつぶやいた。

そして、少し考えたあとで「二日ほど待ってくれるかしら」と言った。

「二日? どういうことですか」佑が尋ねた。

「さっきの小屋の天井に穴が空いていたでしょ。そこからカラスが出入りしていたようなの。さっき先生と相談して、また危ないものを持ち込んでも困るから塞いだほうがいいだろうってことになってね。明日、明後日と大工さんが来てくれるのよ」と野間さんが説明をした。

「そうか、大工さんなら高いところも登り慣れているかもってことね」祐子が言った。

「チャーリーかどうかはわからないけれど、何かひっかかっているのはたしかだし」と幸。

「明日も明後日も来てもいいですか」和夫が聞いた。

「迷惑だよ。そりゃ、明日から三連休だし、僕たちはいいにしてもさ」珍しく真琴は遠慮気味に言ったつもりだったけれど、四人は笑いながら大きくうなずいていた。

「来たいですって言ってるみたいだ」佑がからかうように言うと、みんなで笑ってしまった。

「いいわよ。明日はマドレーヌ焼いちゃおうかしら」野間さんはちょっとうれしそうに返事をした。

「いいんですか」幸が言った。

こうして五人は明日と明後日、野間さんの小屋で過ごすことになった。

野間さんの家からの帰り道、佑がひとりごとのように言った。

「チャーリーだったらいいな。」

「チャーリーだったら、うれしい。でも、野間さんの小屋にまた行けるのもうれしいわ」幸が言った。四人は少しおどろいた。

「でもチャーリーじゃなかったら、」祐子は言いかけて「あとの手がかりがないわ」という言葉を飲み込んだ。

佑、和夫、真琴も同じ気持ちだった。

「いいの。それはそれで、いいの」幸が言った。

五人はそれ以上、お互いに何も言わなかったけれど、「それはそれでいい」と思った。

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