第4話 D視点 王の器

代表ゴブリン視点


 森を進んで行く。その我らの後ろを、例のゴブリンがちょこまかとついてくる。


 侮れないな


 ボーッとついてきているように見えて、奴は周囲をチラチラと見回している。一見、初めて行くところで興奮しているだけにも見えるがそんな訳無い。きっと何か考えがあるのだろう。


 その時、先頭から敵発見の号令がかかる。


「ぐぎゃっ!ぐぎぎ、ぐーぎゃ!」

 訳:見つけましたっ!ホーンラビット、前方の草むら!


 我らは一斉に弓を構える。ふと、我は例のゴブリンの様子をうかがう。


 我と目が合う、その瞬間奴は微笑んだ。


「自分が出るまでもない」


 とでも言いたげな目だ。


 ならば、我らだけで倒すのが筋だ。そもそもホーンラビット程度ならば別に我らで倒せる。


 号令のゴブリンにアイコンタクトを送る。


 ブオオォォォ!


 角笛が吹かれる。引き絞られた弓からは、空気を切り裂いて勢いよく矢が飛んだ。


「ぴぎぃぃぃ!」


 ホーンラビットの断末魔。無事仕留められたようだ。


 仲間が草むらからホーンラビットを引きずり出す。おそらく、首に刺さった矢が致命傷だろう。


 その時だ。


 突然、例のゴブリンが違う草藪の先を指差す。


 皆は、なんだなんだとそちらを見つめる。奴は叫んだ。


「ぐぎゃっ!ぐぎゃぎ、ぐーぎゃ!」

 訳:見つけましたっ!凶兎キョウト、前方の草むら!


 思わず目が見開かれる。


 凶兎キョウト――――それは読んで字のとおり、凶悪な兎だ。ただの兎ではない。凶兎の成体は、一匹で我が村を滅ぼす力がある。これまでにも、いくつもの部族が凶兎によって滅ぼされた。


「ぐぎッ!?ぐげッぐげッ!」

 訳:嘘だろ!?誰か確認に行け!


「ぐぎゃっぐぎゃ!」

 訳:凶兎は嫌だっ凶兎は嫌だ!


「ぐげぎゃ!ぐぎゃっ!」

 訳:誰か見に行け!俺以外の誰か!


 皆が慌て、混乱の渦が広がる。最初は落ち着いていた者も焦り始めた。




――――ここは我が行くしかない。剣を抜く。


 奴が指差した方向へと駆け出す。続いて、他のゴブリンたちも我と共に駆け出した。


 草藪の先、居たのは長い角を持つ真っ黒な兎。目は紅く光っている。


――――凶兎だ。


 幼体なのが、せめてもの救いだろう。


「ぐぅぎゃあぁッ!」

 訳:鬼炎轟断!


 我が部族に伝わる秘技を一発目から放つ。こういう物は先手必勝だ。


 炎燃え盛る剣。凶兎はそれを





――――角で受け止めた。


 嘘だ、ろ?


「ぎ、ぎぐぎゃう!」

 訳:族長に続け!


 勇敢なゴブリンたちは、我が攻撃に失敗したのを見ても気にせずに突っ込んでいく。


「ぐぎぎゃっ!ぐげ、ぐぎやぎゃあ!」

 訳:我々が時間を稼ぎます!族長は、もう一度秘技の準備を!


 なんということだ。


 若いゴブリンたちは、次々に特攻しては跳ね飛ばされていく。すべて我の攻撃に賭けてくれているのか。


 だが、それでは足りない。我の秘技でも奇襲ですら容易に受け止められた。


 どうすればいいんだッ……




 その瞬間だった。黒煙が我の頭上を通り過ぎた。


 そして思い出す。もう一つの秘技、を。


 魔物を燃やした煙だろうか。大量の魔力を含んでいる煙だ。これなら、出せる。


 剣を掲げ、黒煙の魔力を吸収する。剣はやがて漆黒に染まる。


 我が身をも焦がしかねない黒炎が舞い上がった。


「ぐぃぎゃっ!」

 訳:離れろ!


 ゴブリンたちは一斉に散開する。これで、決める。


「グゥギャアァァッ!」

 訳:黒炎一閃ッ!


 剣が振り抜かれる。それは、音を置き去りにした世界。一瞬の遅れ、轟音が響く。


 凶兎は一瞬にして、骨まで黒炎に燃やし尽くされた。


「ぐ、ぐぅぎゃ。」

 訳:か、勝った。


 ゴブリンたちが胸を撫でおろす。

 同時に、いつの間にか消えていた例のゴブリンと、黒煙を出していた者の正体が俄然気になってくる。


 まさか……


 我は急ぎ足で、黒煙の火元へと急ぐ。





 辿り着く。そこには、例のゴブリンがホーンラビットを燃やしていた。超然とした笑みで炎を見ている。


 逃げたのかと思ったが、我らを助けてくださていた。


 姿の見えぬ努力、類まれなる頭脳。正しく、王の器か……


 王たるゴブリンは、ホーンラビットを手に取る。なんと、そのホーンラビットは光となって瓦解した。


 まるで、神話の一節のようだ。


 我はついに悟る。このお方は我らの王たる存在だと。


 我が最初にひざまずく。王が我らを見た。


「ぐぎゃ。ぐぎゃぐぎゃ。」

 訳:我らが王。ここに忠誠を。


 続けて、他のゴブリンたちもひざまずく。


 ここに、新たなるゴブリンの王が誕生した。








――――――――――――――――――――

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!


PVが増えているのを見るだけでウキウキです!


さて、次回は王(勘違い)と代表ゴブリンが巣穴に帰還します。


第5話『騎士の任命』


ぜひ、勘違いだらけのゴブリンワールドを

お楽しみください!


               丸兎 

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