第18話 夜の女王の別荘

貴族街は、俺が住んでいた騎士団の寮や、リナと出会った市場とは、空気からして違っていた。


静かで、清潔で、どこかよそよそしい。


そんな街の一角に、カーミラの別荘はあった。


「……でかいな」


高い鉄柵に囲まれた広大な敷地。その中央にそびえ立つのは、城と見紛うばかりの巨大な洋館だった。


「ふふ、驚いていますの? まあ、わたくしにしてみれば、ただの寝床の一つにすぎませんけれど」


カーミラは得意げに言うと、重厚な鉄の門にそっと手を触れた。


ギィィ……と、錆びついた蝶番が悲鳴を上げる。


「何百年も放置していましたから、少し手入れが必要ですわね」


俺たちは、雑草の生い茂る庭を抜け、洋館の玄関へとたどり着いた。


「さて、と」


俺は担いでいたエリアーナを、そっと玄関のポーチに降ろす。


「こいつ、どうするんだ?」


「そうですわね……。とりあえず、客室にでも放り込んでおけばよろしいのではなくて?」


「……まあ、そうだな」


カーミラが巨大な扉を開けると、中は分厚い埃に覆われていた。だが、調度品の一つ一つが、素人の俺でも分かるほどの一級品だ。


「リナ、お前は休んでろ。顔色が悪い」


「で、でも、お掃除を……」


「掃除は後だ。あんたは病人なんだから、大人しくしてろ」


俺はリナを促し、近くの客室の一つへと案内した。


「ありがとうございます、レオン様……」


「いいから、寝てろ」


リナが部屋に入ったのを確認し、俺はエリアーナを別の客室へと運ぶ。


ベッドに寝かせ、念のため手足を軽く縛っておく。


「……ん……」


エリアーナが、小さく身じろぎした。その寝顔は、どこか幼く見える。


こいつが、あの傲慢な聖女だったとは、にわかには信じがたい。


俺は部屋を出て、鍵をかけた。


ホールに戻ると、カーミラが一人、月明かりの差し込む窓辺に佇んでいた。


「……終わったか?」


「ええ。ご苦労様ですわ、騎士様」


彼女は振り返ると、妖艶に微笑んだ。


「さて、レオン。あなたのお部屋も用意してありますわよ」


「……俺のか?」


「当然ですわ。わたくしの騎士ですもの。最高の部屋を用意させましたわ」


彼女が指差す先には、二階へと続く大階段があった。


「……あんたは、どうするんだ」


「わたくしは、主寝室を使わせていただきますわ。……ああ、そうだわ」


カーミラは、何かを思い出したように、悪戯っぽく笑った。


「わたくし、一人で寝るのは、あまり好きではありませんの」


「……は?」


「夜は、長いですわよ? ……もし、寂しくなったら、いつでもわたくしの部屋へいらして? 歓迎いたしますわ」


彼女はそう言い残すと、ヒラリとスカートを翻し、階段を上っていった。


後に残された俺は、ただ、その場で呆然と立ち尽くすしかなかった。


一人になったホールで、俺は自分のステータスを改めて確認する。


【対象:レオン・アークライト】


【称号:夜の女王の騎士、追放された騎士】


【レベル:60】


【スキル:神眼 LV.5、未来視 LV.1、剣術 LV.6、吸血鬼化 LV.2、眷属支配 LV.2、石化の邪眼 LV.1】


とんでもないことになっていた。


スキルも、レベルも、数時間前とは比べ物にならない。


だが、それと同時に、言いようのない渇きが、体の奥底から込み上げてくる。


血への渇望。


これが、吸血鬼になったということか。


俺は窓の外、煌々と輝く月を見上げた。


俺の人生は、一体、どこへ向かっているのだろうか。


答えなんて、どこにもない。


ただ、一つだけ確かなことがある。


もう、後戻りはできない。


俺は、夜の世界の住人になってしまったのだから。



コンコン。


不意に、背後で扉をノックする音がした。


振り返ると、そこには、いつの間にか階段を下りてきたカーミラが、薄いネグリジェ姿で立っていた。


その手には、銀のトレイに乗せられた、二つのグラス。


グラスの中では、真紅の液体が、妖しく揺らめいていた。


「……眠れないのですか、騎士様?」


彼女は、抗いがたい魅力をたたえた笑みで、俺を誘う。


「よろしければ、一杯、いかが?」

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追放された俺の【鑑定】スキル、実は神の遺物で最強でした~聖女様も女騎士も俺の本当の力に気づいて溺愛してくるけど、もう遅い~ 境界セン @boundary_line

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