第16話 エリアーナとの闘い
「……やめてくれ」
俺は、思わず叫んでいた。
カーミラが、驚いたようにこちらを振り返る。
「……なんですの、騎士様。わたくしの食事の邪魔をするおつもり?」
「……そいつは、俺がケリをつける」
俺はリナをセレスティアの隣にそっと降ろすと、ゆっくりとエリアーナの方へ歩き出した。
「レオン……?」
セレスティアが、戸惑ったような声を出す。
「あんたは、リナを頼む。必ず、地上まで連れて行け」
「……分かった」
彼女は短く応えると、リナの肩を抱き、まだ安定している壁の穴へと向かう。
「レオン様……! ご無事で……!」
リナの悲痛な声が、遠ざかっていく。
俺は、狂乱するエリアーナと、面白そうにそれを見ているカーミラ、そして俺自身、三人を残して崩壊していく空間を見渡した。
「さて、と」
俺は『星砕き』を構える。
「エリアーナ。お前が俺にしたこと、俺は忘れちゃいない。だが、ここで死なせるつもりはない」
「何を……何を言っているのですか……!」
「お前の罪は、こんな場所で死んで償えるほど、軽くないだろ」
俺は静かに告げる。
「生きて、俺がお前を裁いてやる。王国でも、帝国でもない。この俺が、だ」
「ふざけないで……ふざけないでよォォォッ!」
エリアーナが、残った魔力の全てを杖に注ぎ込む。
「あなたなんかに、わたくしが……!」
【神眼】が、エリアーナの未来を映し出す。
――魔力が暴走し、自爆する。
「……そうはさせるかよ」
俺は床を蹴った。
狙うは、エリアーナではない。彼女が持つ、『堕天の涙』。
「【石化の邪眼】!」
俺は、宝核から得たばかりのスキルを発動させた。
俺の瞳が、禍々しい光を放つ。
「ひっ……!?」
エリアーナの動きが、一瞬だけ止まった。
その隙を見逃さず、俺は彼女の懐に潜り込む。
そして、『星砕き』の柄で、彼女の手首を強く打ち据えた。
カラン、と。
『堕天の涙』が、エリアーナの手から滑り落ちる。
「あっ……!」
俺はそれを空中で掴み取ると、すぐさま鑑定する。
【鑑定:堕天の涙】
【弱点:純粋な聖属性の魔力に極端に弱い。聖なる魔力を注ぎ込むことで、内部の呪いを中和し、破壊することが可能】
「……聖属性の魔力、か」
生憎、俺にはそんなものはない。
だが。
俺は、隣で腕を組んで見物している吸血鬼に、ニヤリと笑いかけた。
「おい、カーミラ」
「なんですの?」
「あんたがさっき吸い取った、リナの呪い。まだ、あんたの中に残ってるだろ?」
「……ええ、まあ。わたくしにとっては、極上のデザートですわ」
「その呪いを、こいつにぶつけてくれ。ありったけな」
俺の言葉に、カーミラは一瞬きょとんとしたが、やがて全てを理解したように、楽しげに笑った。
「……なるほど。毒を以て毒を制す、という訳ですわね。面白いことを考えますわ、わたくしの騎士は!」
カーミラが、俺の手の中にある『堕天の涙』に向かって、指先を向ける。
彼女の指先から、先ほどリナから吸い取った『血の呪縛』が、黒いオーラとなって放たれた。
「さあ、存分に味わいなさいな。王家の呪いを」
二つの強大な呪いが、杖の中で激しくぶつかり合う。
杖が、悲鳴のような甲高い音を立てて、激しく振動する。
「まずい……!」
俺は杖を、崩壊してできた奈落の底へと、全力で投げ捨てた。
直後。
地下迷宮全体を揺るがす、大爆発が起こった。
凄まじい爆風が、俺と、力の抜けたエリアーナの体を吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
俺はエリアーナの体を抱きかかえ、どうにか壁に激突するのだけは避けた。
「……終わった、のか……?」
見ると、迷宮の崩壊は、奇跡的に止まっていた。どうやら、呪いの爆発が、うまい具合にエネルギーを相殺したらしい。
「……レオン……」
腕の中で、エリアーナが、か細い声で俺の名を呼んだ。
その瞳は、元の穏やかな青色に戻っていた。
「……なぜ、助けたのですか……?」
「言っただろ。お前を裁くのは、俺だってな」
俺はそう言うと、気を失ったエリアーナを肩に担ぎ、立ち上がった。
「さて、女王陛下」
俺は、無傷で瓦礫の上に立つカーミラに向き直る。
「あんたのおかげで、助かった。……礼を言う」
「ふふ。せっかくの騎士様ですもの」
彼女はそう言うと、俺に手を差し伸べた。
「さあ、帰りましょうか、レオン。わたくしたちの、新しい寝床へ」
その言葉に、俺はただ、黙って頷いた。
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