追放された俺の【鑑定】スキル、実は神の遺物で最強でした~聖女様も女騎士も俺の本当の力に気づいて溺愛してくるけど、もう遅い~
境界セン
第1話 追放と鑑定
「――以上だ。レオン、貴様を本日をもって王立騎士団より追放する」
冷え切った声が、雨音に濡れる練兵場に響き渡った。
見下ろしてくるのは、俺がかつて仲間と信じた連中。その視線は、まるで汚物を見るかのように冷たい。
「当然の結果だろ? お前の【ゴミ鑑定】スキルじゃ、魔物の素材一つまともに鑑定できねぇんだからな。遠征のたびに足手まといなんだよ」
嘲笑を浮かべるのは、同期のカイン。その手には、俺が鑑定に失敗したミスリル鉱石が握られている。ただの鉄クズと鑑定してしまった、あの日から全てが始まった。俺の評価は地に落ち、誰からも相手にされなくなった。
「レオン……あなたの存在は、聖騎士団の沽券に関わります。それに、これはあなたのためでもあるのです。実力もないのに戦場に出れば、いたずらに命を落とすだけですから」
聖女エリアーナが、悲劇のヒロインみたいな顔でそう言った。その瞳には、憐憫の色なんて欠片もない。ただ、厄介払いができてせいせいすると言わんばかりの冷たさだけが宿っていた。
「……」
何も言えなかった。
いや、何も言う気になれなかった。反論すれば、さらに惨めになるだけだと分かっていたから。
雨が、騎士団の紋章が入った俺の肩章を叩く。もう、この紋章を背負うこともない。
「荷物をまとめて、日没までに王都から出ていけ。いいな?」
最終通告を突き付けたのは、第三騎士隊隊長、セレスティア。氷のような美貌を持つ彼女の視線が、まるで鋭い剣のように俺の心を貫いた。かつては憧れ、その背中を追いかけてきたはずの人が、今は誰よりも冷たい視線を向けてくる。
「……承知しました」
絞り出した声は、自分でも驚くほどか細く、雨音に溶けて消えていった。
背を向け、歩き出す。
後ろから聞こえる安堵のため息と、侮蔑の笑い声を聞かないフリをしながら。
騎士団の寮に戻り、わずかな私物を鞄に詰め込む。三年間、ここで暮らした。血の滲むような努力をした。剣の腕を磨き、誰よりも訓練に励んだ。それでも、神から与えられたスキルという絶対的な価値基準の前では、俺の努力など何の意味もなかった。
【鑑定】スキル。
その中でも、ガラクタしか鑑定できない俺のスキルは【ゴミ鑑定】と蔑まれた。
降りしきる雨の中、俺は王都の門をくぐった。門番の兵士たちも、事情を知っているのか、目を合わせようともしない。行く当てもない。ただ、この場所から離れたかった。
泥濘に足を取られ、みっともなく転ぶ。泥だらけになった俺を見て、通りすがりの商人たちがクスクスと笑う。
「ちくしょう……ちくしょうッ!」
何が聖女だ。何が騎士団だ。
結局、誰も俺のことなんて見ていなかった。俺の努力も、想いも、何もかも。
「もう……誰も信じない」
雨に打たれながら、ずぶ濡れのまま裏路地に座り込む。
鞄から転がり落ちた手鏡が、泥水の上で鈍く光る。そこに映るのは、絶望に染まった情けない自分の顔。
「はは……なんだよ、この顔……」
自嘲の笑みがこぼれる。
「どうせなら、全部鑑定してやる……こんな俺自身もな」
ヤケクソだった。
手鏡に映る自分の瞳を、睨みつけるように見つめる。
「鑑定――」
いつもと同じように、脳内に鑑定結果を示すウィンドウが浮かび上がる。どうせ『レオンの瞳。濁っている』とか、そんな結果だろう。
だが。
そこに表示された文字を、俺は最初、理解できなかった。
【対象:レオン・アークライトの右目】
【鑑定結果:???(封印状態)】
【???を鑑定しますか? YES/NO】
「……は?」
封印状態? なんだ、これ。今まで、こんな表示は一度も見たことがない。
震える指で、虚空に浮かぶ『YES』の文字に触れる。
その瞬間、まるで頭蓋骨の内側でガラスが砕け散るような衝撃が走り、視界が真っ白に染まった。
「ぐっ……あぁっ!」
脳に直接、膨大な情報が滝のように流れ込んでくる。痛みと混乱で、息ができない。
【封印を解錠。スキルが解放されます】
【鑑定スキルが進化しました】
【スキル:神眼(しんがん)を獲得しました】
「……神、眼……?」
意味が分からなかった。
息も絶え絶えに、呆然と、もう一度、手鏡に映る自分の瞳を鑑定する。
さっきまでと同じ、絶望に濁った瞳。だが、その奥で何かが静かに、しかし力強く輝いているような気がした。
そして、再び表示されたウィンドウの文字に、俺は息を呑んだ。
【対象:レオン・アークライトの右目】
【スキル名:神眼 LV.1】
【効果:万物の真価、隠された情報、未来の可能性を視認する】
【詳細:古代の神が遺した至高の鑑定系スキル。対象の過去・現在・未来、全ての情報を読み解く。レベル上昇により、視認できる情報の範囲と精度が向上する】
「なんだ……これ……?」
雨音も、街の喧騒も、何もかもが遠くに聞こえる。
俺のスキルは、【ゴミ鑑定】じゃなかった……?
震える手で、泥だらけの地面に落ちていた、ただの石ころを拾い上げる。
「鑑定」
【対象:ただの石ころ】
【詳細:道端に落ちているごく普通の石。三日後、貴族の馬車の車輪に踏まれ、弾き飛ばされた先でチンピラの額に当たり、逆上したチンピラが商人ともめる原因となる】
「……は?」
未来? 石ころの、未来だと?
信じられなかった。
もう一度、今度は自分の左手に握りしめていた、古びた短剣を鑑定する。父さんの形見だ。
【対象:錆びた短剣】
【詳細:一見すると価値のない短剣だが、内部に高純度の魔鋼が使用されている。名のある鍛冶師が打ち直せば、国宝級の魔剣『星砕き』として蘇る可能性を秘めている】
「……嘘だろ」
膝から崩れ落ちそうになるのを、必死で堪える。
俺のスキルは、ゴミじゃなかった。ただ、本当の力に気づいていなかっただけだ。何者かによって、封印されていたんだ。
どうして。なぜ。
疑問が次々と湧き上がる。
だが、それよりも先に、腹の底から熱い何かが込み上げてきた。
それは、怒りだった。
俺を無能と決めつけ、蔑み、追放したあいつらへの、どうしようもない怒りだった。
「……そうかよ」
俺はゆっくりと立ち上がる。
泥だらけの服を払い、雨で濡れた前髪をかき上げた。
「面白いじゃないか」
口元に、いつの間にか笑みが浮かんでいた。
【神眼】
この力があれば、俺はもう誰にも見下されない。誰にも利用されない。
いや、違う。
俺は、俺自身の力で、俺の価値を証明する。あいつらが間違っていたと、証明してやる。
雨はまだ、降り続いている。
だが、俺の心に立ち込めていた暗雲は、今、確かに晴れ始めていた。
「見てろよ、お前ら……」
俺の本当の人生は、ここから始まる。
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