第23話 真鶴ダンジョン《MANAZURU_LABYRINTH》

 神奈川県・真鶴半島。

 夜の港町には、潮騒とともに忘れ去られた“記憶”が息づいていた。


 佐倉悠と黒石ユウトは、S13を町の外れに停め、崖沿いの古いトンネルを進んでいた。

 その奥には、地元の漁師すら立ち入らない“封印された地層”――人工の地下迷宮、すなわち《真鶴ダンジョン》が口を開けていた。



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 ARデバイスが指し示す任務は、かつてない異質さを放っていた。


> 《MANAZURU_LABYRINTH_Protocol》

対象:封印された毒薬兵器USAMI_Poisonsの回収および破壊

キーワード:宇佐美定満、尾崎豊、毒薬、封印




 「宇佐美定満……越後の武将だ。戦国の世に“毒と幻術”で勢力を支配した男」

 ユウトが警戒を強めながら呟いた。

 

 宇佐美定満は「宇駿」「宇佐美駿河守」「宇佐美駿河守定満」「宇駿定満」の名で一次史料に登場し、その活動が確認出来る。越後守護上杉定実に味方して、守護代長尾為景と抗争していた宇佐美弥七郎房忠は、永正11年(1514年)越後岩手城にて敗死。新沢佳大はこの時に城より逃げ落ちた「弥七郎息」を定満に比定し、従来、定満の祖父とされてきた宇佐美孝忠と父とされてきた房忠は同一人物であり、房忠は孝忠の晩年の名前であったとする。


 岩手城落城の約20年後、定満は為景と守護上杉家一門上条定憲との抗争(越後享禄・天文の乱)において定憲側の武将として登場する。当初為景側であった定満は離反した後、諸方へ計略を巡らせ、天文4年(1535年)5月に上田衆・妻有衆・藪神衆・大熊氏らと共に定憲側に集結した。宇佐美・柿崎勢は天文5年(1536年)4月10日に行われた三分一原の戦いで為景勢に敗北しているが、この戦いの後に為景は隠居しているため、定満にも相応の成果があった戦いと言える。一説には定満率いる宇佐美勢はこの戦いで為景を討ち死に寸前まで追い詰めたといわれている。なお、この時期「宇佐美四郎右衛門尉」なる人物が定憲側の武将として活動している。新沢はこれを定満に比定しているが、『越佐史料』や『上越市史資料編3古代・中世』では別人として扱っている。


 天文17年(1548年)に長尾景虎(上杉謙信)が家督を継ぐと定満はこれに従い、景虎と対立した上田長尾家の当主長尾政景に備えて要害に入る。天文18年(1549年)6月、景虎の家臣平子孫太郎に宛てた書状によると、定満は政景側の計略や脅迫を受けており、まだ自身に力が無く、家臣も士気が低下しているため、自分達だけに備えを任せれば後悔するであろうことを訴えている。


 一時景虎より離反するが、後に復し、天文20年(1551年)正月には政景側の発智長芳・穴澤長勝らと交戦。一方、同年夏頃に定満と平子孫太郎の間で多劫小三郎の遺領を巡っての対立が発生したらしく、孫太郎や大熊朝秀・直江実綱・本庄実乃ら景虎の奉行人に対して裁定への不満を訴えるとともに、知行の加増が無く、家臣の戦意も失われている状況を嘆いている。


 その後、景虎と政景の抗争が終結すると定満の名は確実な史料上から消える。高橋修は定満は景虎に重用されず宇佐美家は没落したとする。 ただし宇佐美家そのものが断絶したわけでは無く、永禄10年8月、武田信玄の信州侵攻への防備強化に携わった者の中に「宇佐美平八郎」の名が見えている。一説に、長尾景虎(上杉謙信)の地位を確固たるものにするために、長尾政景を舟遊びに誘い、政景と共に溺死したというものがある。引き揚げられた政景の死体には、刀傷があったという。



 「どうやら、奴の“研究資料”が今も地下に眠ってるらしい」

 悠の声が、迷宮の薄闇に沈む。



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 ダンジョン内部は異様な静けさ。

 壁面には、五百年前の手彫りと思しき“毒草”の図譜。

 そして床に並ぶのは、謎めいた装置と“命を吸う植物”の標本群。

 ――ここは、かつて宇佐美定満が作った“毒薬製造所”だった。


 突如、重たい扉が自動的に閉まり、薄緑色の霧が噴き出す。


 「毒か!? マスク!」


 二人は瞬時にフィルターマスクを装着。

 霧の中から、古びた戦国鎧のような“アンドロイド”が現れる。


 その額には名が刻まれていた――《USAMI_X03》


 「貴様らが……宇佐美家の遺志を汚す者か……」



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 激しい戦闘が始まる。

 USAMI_X03の攻撃は、“毒を媒介する衝撃波”。

 地形が味方をしないこの閉塞空間で、佐倉とユウトは苦戦を強いられる。


 そんな中、ユウトのラジオが突如起動。

 スピーカーから流れ出すのは――尾崎豊『卒業』。


> ♪ 仕組まれた自由に 誰も気づかずに

 あがいた日々も 終わる ♫




 「……俺たち、何度でも自由を取り戻すだけだろ」


 ユウトがそう叫び、毒霧の中へと飛び込んだ。



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 彼の手には、特製の中和液と封印札。

 USAMI_X03の背後から、制御中枢に直接刺し込む!


 「――終わりだ、毒の系譜!」


 バチッという火花。

 装置が焼け付き、ダンジョンに満ちていた毒素がゆっくりと薄れていく。


 倒れたUSAMI_X03の躯から、一冊の書が転がり落ちる。


 表紙には、宇佐美定満の家紋と、こう書かれていた。


 > 《最終毒素:命を問うもの》


 佐倉が静かに手に取る。


 「……これは、“殺すための毒”じゃない。“生かすための毒”だ」



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 地上に戻る頃には、空がわずかに白み始めていた。


 ラジオが再び尾崎の声を届ける。

 まるで、地下で失われかけていた何かを見届けるように。


> ♪ 自分の存在が 何なのかさえ

 わからず震えていた夜 ♫




 「なあ、悠。もしこのまま、全部の遺構を回ったら――

 俺たち、“誰か”になれるのかな」


 「もうなってるさ。少なくとも、“今の自分”にはな」



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 次なる行き先は、静岡・由比ヶ浜――

 だがその前に、ひとつだけ回避不能の任務が残っていた。


 ARデバイスが示す、真紅の警告。


 > 【最終警報】

 > 《KANTŌ_BLACKBOX》解錠に必要な鍵:“涙を失った魔導師”



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⚠️ To be continued...

🎧 「15の夜/尾崎豊」再生中



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