第21話 君津炎上《KIMITSU_Flare》

 千葉県君津市――

 深夜2時、工業地帯のはずれ。

 S13シルビアは、かつて製鉄所の送迎バスが出入りしていた朽ちた踏切を越え、林道の奥へと静かに滑り込んでいった。


 ヘッドライトが照らすのは、赤錆びた倉庫。

 その上空には、あり得ない“魔方陣”の光。――炎の結界。


 「ここが《KIMITSU_Flare》の発火点か」


 佐倉悠がARデバイスを確認する。表示されたミッション名はこうだった。


> 《炎神召喚:SATOMI_PROTOCOL》

敵勢力:魔導連環エンマ・アーカイブ

対象:炎属性アーティファクトの封印解除阻止

キーワード:“義堯よしたか”、ツイスト、炎




 黒石ユウトが、倉庫の壁に刻まれた文様を見つめながら言った。


 「――里見義堯の名がここで出るとはな。千葉を守った戦国の知将。

 “戦わずして勝つ”のが彼の信条だったが……これは、正面衝突しかないらしいぜ」


 そのとき――地鳴り。

 倉庫の屋根を突き破って現れたのは、全身を炎で包んだ巨大な“炎魔”。


 「お前らが……SATOMIの継承者か……」


 声は歪み、獣のようでもあり、どこか哀しげでもあった。

 ユウトがすっと前に出た。彼の手に、赤いルーンの刻まれた短剣が現れる。


 「こいつはSATOMIの魂に誓って言うが……てめえの好きにはさせねえよ」


 そして、ラジオが鳴り始めた。

 爆発音のようなイントロ――

 世良公則&ツイスト『銃爪(ひきがね)』。


> ♪ 寂しい女に〜なっちまったよ〜 ♫




 音楽と共に、炎の波が倉庫を包む。

 佐倉はYouTubeで見た、『太陽にほえろ!』のボギー刑事編を思い出した。ボギーを演じたのが世良公則だ。最後には殉職する。


---


 佐倉悠のARデバイスが瞬時に戦闘モードへ。

 彼の両手に、“蒼炎”のグローブが浮かび上がる。

 それは《SATOMI炎術》――古代房総に伝わる戦国魔法。


 「こっちも火遊びには慣れてんだよ……!」


 彼は両の掌から青白い炎を放ち、炎魔と正面から激突した。

 轟音。

 倉庫が崩れ、夜の君津に火の粉が舞った。



---


 一方、ユウトは炎魔の背後から斬撃を加える。

 ルーン短剣が赤く煌めき、“封魂”の文字が空間に刻まれる。


 「この地の“義”は……誰にも汚させねえ!」


 そして佐倉――

 彼の手に集まる、房総の“記憶の火”。


 「――SATOMI・終の型(ついのかた)《鳳焔・よしたか》!!」


 青白い火柱が天を突き、炎魔を包んだ。



---


 爆発のような閃光。

 やがて全てが沈黙し、立ち尽くす二人の背に、夜風が通り抜ける。


 君津の空に、月が戻ってきた。



---


 「……お前、派手にやったな」


 「“義”ってのは、時にこうでもしなきゃ守れねぇ」


 ユウトがふと笑い、車に戻る。


 ラジオからは、もう一度ツイストの声。


> ♪ トゥナイ、トゥナイト、トゥナイ、トゥナイト、今度こそ〜おまえを落としてみせる♪




 悠も笑い返した。


 「じゃあ、次はどこ行く?」


 「……南房総。海が見える場所がいい。そこに《次の炎》があるらしい」


 赤く燃え尽きた倉庫跡に背を向け、S13は再び走り出す。





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