第19話 ラストシーン
―出雲・国道9号線 夜の峠道にて―
戦いが終わった。
廃港のドローンたちは沈黙し、アマゴ・レガシーの兵装も起動を停止した。
佐倉悠のARデバイスは徐々に暗転し、最終ミッション完了のメッセージが淡く表示された。
> 《KAGAMIYAMA_Protocol》
完了
―報酬:記憶に残る“義”の片鱗―
夜の山道に、静けさが戻る。
黒石ユウトがシガレットを取り出し、車に背をもたせかけて空を見上げた。
「終わったな、鏡山の亡霊」
「いや……ここから始まるんだ。俺たちの“道”が」
悠はそう言いながら、キーを差し込み、エンジンをかけた。
咆哮をあげるのは、彼の相棒――
黒のS13シルビア。
テールランプが赤く灯り、車体がゆっくりと前を向く。
ラジオから流れ出すのは、布袋寅泰『ラストシーン』。
ギターが切なく空気を裂くように響き、二人の沈黙に染み込んでいく。
> ♪ さよならさえ 言えずに
胸の奥で 燃えるよ… ♫
ヘアピンカーブの連続する峠道。
霧が少しずつ晴れ、月が谷間に姿を現す。
「乗れよ、ユウト。今日くらい、俺が送る」
ユウトは煙草を踏み消し、助手席に滑り込んだ。
「じゃあ、爆走頼むぜ、相棒」
---
―Drift Quest:鏡山ステージ・走行開始―
アクセルを踏み込む。
エンジン音と共に後輪が滑り出し、S13はカーブを描くように峠道をドリフト。
タイヤが路面を焼き、土煙を巻き上げながら、クレーンと霧の中で交わしたすべての記憶が後方に流れ去っていく。
車体の傾きに、ユウトはふと横を見る。
佐倉悠の瞳はまっすぐ前を向いていたが、その横顔は、どこか儚く、そして強く、月光に照らされていた。
「お前さ……変わったよな、昔より」
「そうか?」
「うん。ずっと前から、俺……お前のこと……」
言葉の代わりに、ユウトの手がそっと佐倉の首筋に触れた。
ブレーキ。急停止。
カーブの外れ、見晴らしのいい展望台に車は滑り込む。
エンジン音が止み、世界は再び静寂に包まれた。
---
―ラストシーン―
二人の視線が交差する。
言葉は要らなかった。
ユウトが身を乗り出し、悠の頬に手を添える。
そして――激しく、深く、確かめるように唇が重なった。
風が吹いた。
月が二人の背中を照らしていた。
ディープキスの余韻の中で、ラジオは再び布袋のギターソロを奏でていた。
> ♪ 永遠(とわ)なんて信じなくてもいい
今だけを こうして 焼きつけたいんだ ♫
やがて唇が離れる。
佐倉悠は少し笑って、呟いた。
「……じゃあ、次はどこ行く?」
ユウトも笑った。
「決まってる。俺たちの“戦場”は、まだ終わっちゃいないだろ?」
彼らの旅は、再び始まった。
---
To Be Continued...
🚗💨🎧 「ラストシーン/布袋寅泰」再生中
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます