テオのふしぎ発見

 世の中は不思議に満ち溢れている。

 そうテオが思ったのは、子供の頃に妖精を見たからだ。


「しゃべるネコがいる……」


 真昼間から薄暗い納屋の中で、酒を飲みながら楽しそうににゃははと笑い合っていた。

 笑い合っているというのは、三匹ぐらいいるからだ。

 たまに町中でうろついているのを見かける。タキシードとトラとサビーの三匹だ。

 よくご近所さんに愛想を振りまいては、何かとエサを強請っている姿を見かける。


「こっから三軒隣のぐうたら旦那がいんだろ?」

「おうおう、いつもかみさんにケツひっぱたかれてるよナァ~」

「でもあのおかみさん、ボクらには優しいよ~」

「骨っ子くれるもんな~」

「でも旦那はダメだけどナァ~」


 薄暗い筈の納屋の中だけれど、猫のいる場所だけは細かい埃が舞って、板の隙間から差し込む隙間から光が反射して幻想的な空間になっている。

 隙間から差し込む日差しがキラキラと光ってとても綺麗だ。

 話している内容については綺麗でも何でもないけれど。


「ギャンブルにはまっちゃおしめぇよな」

「しかも毎度負けてるときたもんナァ」

「だってイカサマじゃん。胴元にハトにされてんだもん」


 ハト=騙されやすいという意味は、テオでも判る。

 そうか、あの旦那さん、騙されてんのかぁ。可哀想だな。でもギャンブルはダメだって、母ちゃんが言ってた。ロクな大人にならないそうだ。

 そんなことを思っていると、話題は他のことに移っていた。


「しっかしこのマタタビ酒うめぇなぁ」

「ロッコの面倒見てたばあさんが、漬けたまま忘れてるのを拝借してきたんだよ」


 盗んだ訳じゃなくて、娘夫婦の家に世話になる時に忘れて行った置き土産だと、サビーが得意気に酒瓶を掲げた。


「あ~ロッコのばあさんか。そういやアイツ、ばあさんにしゃべってんの見られたから、他所に移っちまったんだっけ?」

「しょうがねーよ。そういう決まりだもん」

「オレらも見られないように気を付けようナァ」

「せっかく楽しい町だものね。離れるのはめんどうだもんね」


 ロッコのばあさんというのは、多分六つのブチの柄の猫のことだ。

 そうか。あの猫がいなくなった理由は、しゃべっているのを見られたからなんだな。

 周りの大人は、猫がしゃべったと騒ぐばあちゃんがボケたって言ってたけど。

 それで娘さん夫婦が心配して、一緒に暮らすことになったんだっけ?

 でもばあさんはボケてなくて、本当に猫がしゃべっていたんだ。

 事実テオの目の前では、三匹の猫が楽しく酔っぱらいながらべらべら喋っていた。


「ボクもこの町から離れたくないんだよね~」

「でもそろそろ潮時かなぁ」

「そうだな」


 寂しいけれど、そういう決まりだからな。そう言って。

 じっと黙って見ていただけのテオに気付いている筈がないと思ってたのに。

 後日。タキシードとトラとサビーの三匹は、いつの間にか町の中からいなくなっていた。




「――――っていうことがあったんすよねぇ」

「それは妖精ではなく、ケットシーという幻獣だな」


 妖精と勘違いされている、猫の姿をした幻獣だとディエゴが言った。


「特に害のない幻獣だが、人語を話しているのを見られると、その場からいなくなるそうだ」

「やっぱ、そうっすよね」


 子供の頃の思い出話を語りながら、テオはしょんぼりと肩を落とした。


「そういうことがあったのに、お前さんやたらとリオンに話しかけようと必死だったよなぁ?」


 寧ろそっとしておく方が逃げられないとギガンが指摘した。


「だからっすよ。せっかく妖精に会えたのに、二度と見られなくなるのって嫌じゃないっすか」


 どうせいいなくなることが前提であれば、話したいし触ってみたい。

 あの時のようにただ黙って見ているだけでは、妖精――――今では幻獣と知っているが、ケットシーに出会った事すら嘘だと笑われるだけで終わりだ。


「俺、チャンスは逃したくなかったんす!」


 たとえその場で逃げられたとしても、みんなが見ているところで証明してみたかったとテオが言い切った。


「まぁ、逃げられなかったのは僥倖ではあるがな」

「たまに大胆な行動に出るよな、テオは」


 二人ともテオは夢見がちだなと思っていたが、子供の頃の出会いが彼をふしぎ発見の旅をさせていたのだろうと知る。そうしてやっと本物の妖精――――ブラウニーと出会えた。

 何故ブラウニーだと思ったのかは、何となくの直感だから説明はできないけれど。

 ケットシーと同じように、何かが違うと野生の勘で察したのである。


 そのブラウニーは、ディエゴの従魔であるシルバと暢気にお休み中だ。

 夜中に起きて家の中の仕事をすると言われているが、実際は早起きだし昼間に仕事をして夜には寝る。規則正しい生活をしていた。


「事実は物語りより異なり……だな」


 実際は物語で語られている内容とは異なると、ディエゴはしみじみ実感して言った。


「ペットでも人間と一緒に生活すると、サイクルを人間に合わせるのがいるのと一緒なんじゃね?」

「……最初から早寝早起きだったようだが?」

「ってことは、そういう習性なんだろ?」

「まぁ、そう言われればそういうタイプのブラウニーなのかもな」


 なんにしてもテオのおかげでリオンと巡り会えたことは確かだ。

 リオンが保護を求めていたとしても、テオがブラウニーだと言い張らなければ保護はできなかっただろう。

 怯えて逃げ出さないよう、慎重に交流したからこそ近付いてきたのだから。


「今思い出してみると、リオリオの周りがちょっと光って見えたんすよね?」


 あれはケットシーを見つけた時となんか似ていたような気がすると、テオは呟いた。

 ケットシーの周りがキラキラ光って見えたのは、ホコリが光に反射していただけのようにも思うが、リオンの時は日が暮れていただけにそれは違うような気がした。


「まぁ、妖精だからな」

「そういうこともあるだろうな」

「ふしぎっすよねぇ」


 ケットシーからは詳しい話を聞けそうにもないし、喋っている姿を見れば消えるとなると、永遠にその真実を知ることはできないだろう。

 でもリオンにその事実を確認しようとしたら、それはそれで消えてしまうような気がして、訊ねるような愚行は冒さないと心に決めた。

 テオは真実よりも、そこに妖精がいるという事実の方が大事だったからだ。


「だからディエゴさん。俺、もっと妖精について詳しく勉強したいっす!」

「逃げられねぇようにか?」

「怒りを買わないようにする方が先決だがな」

「そうっす」


 必死にディエゴから学ぼうと、いつになく真剣なテオの意気込みに気圧される。


「他のことも、コレぐれぇ真剣に学ぼうとしてくれりゃいいんだがなぁ」

「興味があるとないとでは、学ぶ姿勢は変わるものだ」


 そこから少しでも勉強の楽しさが学べればいいなと思いながら。

 今後のことも考えて、ディエゴはテオの意欲が損なわれない内に、妖精について研究されている内容を語るのであった。


 だが規格外であるリオンのブラウニーとしての習性や行動は、一緒に暮らしていく内に修正されることになるのだけれど。

 それはそれでまた新たな学びと気付きを得ることとなり、テオには楽しい『ふしぎ発見』な日々となっていくのであった。



おわり

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