ブラウニーとゆかいな仲間たちのこぼれ話

明太子聖人

ドラム式洗濯乾燥機

※田舎の冒険者ギルド編

アマンダ姉さんとチェリッシュのお洗濯事情



「この ドラム式洗濯乾燥機って魔道具、便利よねぇ」

「ですよねぇ~」


 ゴウンゴウンと稼働する洗濯機を覗き込みながら呟く。窓のような丸い蓋から見える衣類がぐるぐる回って洗われているのは、何度見ても不思議だった。

 それでも気になって、つい確認してしまうのは仕方がないだろう。


「いつもなら、下着類って手洗いじゃないですか? でも何度も洗うとすぐ傷んでたのになぁ。この魔道具で洗うと、全然傷まないから不思議ですよねぇ?」

「洗濯ネットとやらに入れて洗うと、傷まないんですって」

「乾燥までしてくれるから、干す必要もないし、盗られる心配もしなくて良いですよね……」

「下着類以外も、この洗濯機で洗えちゃうものね」

「おかげで洗濯屋に頼む費用が浮きましたよね……」


 リオンの不思議道具によって、彼女たちの洗濯事情は改善された。

 流石にレザー素材である衣類は無理としても、それ以外であればこの洗濯機によって乾燥までボタン一つで自動で行われる。しかも柔軟剤とやらで、ふんわりした仕上がりになるのだ。

 良い香りに包まれる幸せを知ったアマンダやチェリッシュは、この便利な洗濯機を手放せなくなっていた。




 以前洗い物はないのかとリオンに尋ねられ、家事妖精だからと流石に洗濯までさせるのは負担をかけすぎると思って断ったのだが、ディエゴと一緒に大量のシーツや衣類を運んでいるのを見かけて、こっそり後を付けたことがあった。

 男連中は図々しくもリオンに洗濯をさせているのかと、最初は叱るつもりでこっそりついて行っただけだけれど。

 そこで見た光景は、今やもうお馴染みとなりつつあるが、最初に見た時は驚いた。


 シルバやノワルはこちらに気付いているようだが何も言わず。ディエゴが辺りを見渡し一つ頷くと、リオンがリュックから何やら大きな箱を取り出し、箱の手前にある蓋のような扉を開けて、大量の洗濯類を押し込んでいたのである。

 そして箱を何度か指でトントンと叩くと、ピッピッと妙な音がして、やがてその箱から水の放出するような音がし始めた。

 アマンダとチェリッシュはお互い顔を見合わせ、洗濯をするにしてはおかしな箱を取り出し、そこにシーツなどを押し込んでいるだけの行動を見て首を傾げた。


「なにをやってるのかな?」

「わからないわ……」


 家事妖精のリオンのリュックには、見たこともない便利な道具が入っているのは知っている。

 だからと言って、妖精に何でもかんでも頼むことはできない。善意に甘え、欲をかいて妖精の怒りを買うことを恐れているからでもあるが、料理だけでも大変なのに、洗濯までさせるのは忍びなかったのだ。

 だがこれは何をやっているのか。洗濯をしているにしてはおかしい。

 箱に洗濯ものを押し込んだ後は、リオンもディエゴも椅子のような物を出してそこに座り、飲み物を取り出して飲んだり、図鑑を眺めて寛いでいるだけだった。


 このままその謎の行動の行方を見届けずに去ることも出来ず、二人はただひたすらに次の行動を待った。

 そうして待つこと一時間以上。アマンダとチェリッシュが痺れを切らしかけたその時。またもやピピッという謎の音がしたと同時に、図鑑を眺めていたリオンがやっとのことで動いたのである。

 そうして固唾をのんで見守る二人の目には、リオンが箱から洗濯物を取り出している姿が映った。

 水の音がしたのに、中に入っていた洗濯類は濡れておらず乾いたままだが、ディエゴはそれらを受け取りながら手早く畳んでいく。

 遠目から見ても判断が付かないが、長い間見ていただけに、アレは洗濯をする魔道具なのではないかと彼女たちは推測していた。


「やっぱり、洗濯してたのかな?」

「あれは、妖精の魔道具なのかしら?」


 リオンはこちらに気付くことなく、役目を終えたらしい謎の箱をリュックへと仕舞っている。

 そうして全ての洗濯ものを畳んだディエゴが、アマンダたちへとクルリと顔を向け、そしてニヤリと笑った。


「……やっぱり、気付いてるわよね」

「みたいですね」


 シルバやノワルがいるので、気付かれていない筈もなく。ここでじっと監視していたのを咎めるでもなく、寧ろ放置されていたことが悔しい。


「後で詳しく聞きましょう」

「ですねぇ。今出て行くのって、恥ずかしすぎますし……」


 そうして彼女たちは、すごすごとコテージへ戻って行った。

 後でディエゴを問い詰めてやると決意して。





「あ、洗濯が終わったようよ」


 お馴染みの電子音がして、アマンダは乾燥まで終了したのを知る。

 彼女たちもディエゴやリオンを見習って、洗濯中は椅子に座って寛ぐことにしていた。

 監視役のノワルが仲間以外の他人が近付くと知らせてくれる手筈になってはいるが、流石に下着類を洗濯しているのでその場から離れることが出来なかったのである。放っておいても洗って乾燥までしてくれるとはいえ、見張らずにはいられないのだ。

 流石に今は他の洗濯類はリオンに頼んでいるけれど、(一緒に洗った方が効率的だと言われた)下着はどうしても気になるのである。


「ノワル~洗濯が終わったって、リオっちに伝えて~」

「ワカッタ! ジャーキークレ!」

「だからそれはリオンに頼みなさいよ……」

「決まり文句みたいになっちゃってるよねぇ~」


 飛び立っていくノワルを見送りながら、リオンの持つ便利な道具の虜になっている自分たちを自覚しつつ。アマンダとチェリッシュは、良い香りのする綺麗に洗われた下着の手触りにうっとりとするのであった。




オソマツサマデシタ>('ω')ノ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る