第9話、(進もう2人で!)



真由美の「罪なんてない」「奇跡よ」という言葉が、俺の胸に深く、深く染み渡った。長年俺を縛り付けていた罪悪感の鎖が、音を立てて砕け散る。涙が、止めどなく溢れ出した。それは、悔恨の涙ではなく、解放と、そして深い感謝の涙だった。


俺は、真由美の手を強く握り返した。彼女の温かい手が、俺の心を癒していく。

この瞬間、俺たちは、過去の悲劇によって繋がれただけでなく、互いに赦し合い、未来へと向かう、新たな絆を築き上げていた。


その時、病室のドアが、わずかに軋む音がした。


「コホンッ!」


わざとらしい咳払いが聞こえ、警官が戸惑った様子でドアを開けようとしていた。どうやら、俺たちの会話の一部、あるいは、すべてを立ち聞きしてしまったらしい。顔には、驚きと、そして少しの気まずさが混じり合っていた。


警官は、俺と真由美が手を取り合っているのを見て、フリーズしたように動きを止めた。そして、何かを言おうとして、結局何も言えず、頭を掻いた。


「ちっ!たく、入れねーだろ、こりゃ(笑)」


彼は、やれやれといった風に呟くと、大きくため息をついた。その言葉には、からかいと、しかし同時に、二人の間に生まれた特別な絆を察したような、配慮が感じられた。


「もう一服してくるか!(笑)」


そう言って、警官は再びドアを閉め、足早に遠ざかっていった。彼の足音が、廊下の向こうへ消えていく。


病室に、再び俺と真由美の二人きりの空間が戻った。だが、先ほどまでの重い沈黙とは、まるで違う。そこにあるのは、真実と赦しによって浄化された、清々しい空気だった。


真由美は、頬の涙を拭うと、俺の目をじっと見つめた。その眼差しは、もう過去の絶望に囚われていない。そこに宿るのは、未来への、確かな光だった。


「私、もう、死にたいなんて思わない」


彼女の声は、力強く、決意に満ちていた。


「妹の分まで、生きる。そして、あなたに助けてもらったこの命を、大切に、大切にするわ」


その言葉は、俺への、何よりも深い感謝と、そして、彼女自身の再生の誓いだった。俺の行動は、彼女の命を救っただけでなく、その魂をも救い上げたのだ。そして、彼女の赦しは、俺の魂を、長年の苦しみから解放してくれた。


俺は、真由美の手をもう一度強く握りしめた。


「ありがとう、真由美」


俺は、生まれて初めて、心からの感謝を、この言葉に乗せて伝えた。


彼女は、はにかむように微笑んだ。その笑顔は、俺が初めて彼女を抱きしめた時の、虚ろな表情からは想像もできないほど、輝いていた。


この出会いは、確かに奇跡だったのかもしれない。十年の時を経て、魂の因縁に導かれ、互いを救い合うために引き合わされた二人。過去の悲劇は、決して消えることはない。しかし、その悲劇を乗り越え、赦し合い、共に未来へと歩み始める強さが、今、ここにある。

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