生体兵器【シルバーワーム】

 目覚めたレイの視界はぼんやりとしていた。


「ん、目覚めたか」


「ブラウン先生」


 後頭部にはブラウンが出したクッションがあった。


「あれ?腕が」


 右肩の部分を見ると切り落とされたはずの腕がくっついていた。


「一応応急措置だが縫い合わせた。まあ今日中は無理でも、明日ちゃんとした医者に見てもらうと良い」


「縫い合わせたって……、そんな簡単に直ってることじゃないでしょう?」


「まあ完全に切断されると少し面倒だが、魔力さえあれば身体が繋いでくれる。今は俺がやってるが……出来るか?」


 レイは魔力を流してみる。


「そう、そんなに多くしなくても良い。そのくらいだな」



 少しして足音が聞こえる。現れたのはグレンだ。


「グレン……」


「レイ、なんで寝てんだ?」


「ちょっとコウモリと戦ってね」


「ふーん……。なあブラウン先生、上には何がいるんだ?」


「さあ、俺もまだ見てないからな。ところであの鎧男には勝ったのか?」


「ぼろ負け、あいつ水魔使いみたいで剣に纏った水で俺達の火が消えるわけ。相性最悪だよ」


「水か、奴からは魔力の溜まりを感じなかったがな」


「ブラウン先生そんなんわかるの?」


「通りすぎる際にこれを奴に当てたからな。結果は無反応だったからな」


 白い紙片を見ながら言う。


「まじか、あいつにそんな事できんのかよ」


「多分別に問題じゃないと思ったんだろ。それにしても魔力もないのに水か、魔力に似て非なる力というやつだな」


「はあ、よくわかんねえな……」


「まあ気にしなくても良い。じゃあグレン、お前は少しここでレイの様子を見ておけ」


「先生は?」


「上で少し危険物の排除をな。なんだったら少し休んでてもいいぞ、あいつとの戦いで少し疲れたろ」


「まあそうだけど、俺達残すんならちゃんと全部片付ける前に迎えにこいよ?」


「分かってるさ」


 10階、軍の兵士は銃を手に祈るような気持ちで柱からその様子を見る。


 その空間には銀色に鈍く輝く巨大なミミズがいた。

 ミミズの身体のあちらこちらから触手が生えており獲物を探してる。


「なんでこんなことに……」


 学者達や仲間は既にミミズの腹の中である。


 残っているのは自身と3階で警備に残った兵士のみ。


 助けも呼べないこの状況は彼にとって絶望的だった。


「くそ、早くこんなとこ出たいのに」


 彼は柱に隠れたまま動けなかった。

 腰が抜けたというのではなく今動けば確実に見つかると感じたのだ。


 しかしいつまでもここにいるわけにもいかない彼は意を決して走り出す。


『ギグアァァァ!!』


 この世のものとは到底思えない叫び声が聞こえる。


 後ろから触手が迫ってきている。

 だが止まったところで彼の持つ銃などでは触手に傷一つつけることは出来ない。


 彼にできるのははひたすら走るだけだった。

 やがて階段が見える。


「やったぞ!!」


 しかし現実は甘くなく、壁を突き破って触手が現れる。


「なっ!!」


 彼は絶望した。

 触手を銃で撃つが効いている様には思えない。


 彼は弾切れを起こした銃の引き金を必死に引き続けた。


「い、嫌だ!助けてくれ!」


 必死に懇願するが意思なき触手は彼を殴り捕らえた。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだー!!」


 彼の叫び声は誰にも届かない。


「まじかよ……」


 ブラウンは目の前に見える銀色のミミズを見て驚いた。

 このミミズは魔物ではない、生体兵器といわれるものだ。


「この国にこんなもんがあったとはな……。いやマコイが造ったのか?」


 いずれにせよ先に進むには目の前にいるミミズを排除しなければならない。


 幸いなことにまだ気づかれてないようなのでブラウンはここから攻撃することにした。


(雷よ、我が応えに応じたまえ。その天を震わしし力……)


 心の中で詠唱をする。


(……。その形、我が望みし形となれ。)


 いつの間にか雷の獅子が現れていた。


(地を駆け、獲物狩る獅子になりたまえ。)


「纏え雷、王雷魔【サンダーレオ】……!!」


 現れたのは獅子の形をした雷、それが雷の獅子を呑み込む。


「ギャレオン、行け」


 ブラウンがそう言い放った次の瞬間、雷の獅子ことギャレオンは飛び出した。


 ミミズの顔目掛けて体当たりをしかける。

 強烈な光に手を目で覆い、収まった後にはギャレオンがミミズの死体の上でくつろいでいた。


「趣味が悪いな、おっと」


 まだ動いていた触手を雷で撃退する。


「触手はミミズの生命力を吸ってはいるが別個体か、面倒だが死体処理はちゃんとしないと厄介だからな」


 そう言いながら動いていた触手を処理する。


 時々ギャレオンが襲いかかってきた触手を噛み千切って食べているのを見て、腹を壊さないのかある意味で心配なブラウンであった。

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