【短編集】おやすみ世界

片霧 晴

1〜10話

1.世界のはじまり ⚠

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 人によって不快に感じる描写があります。


 主に、終末世界、紛争、世界の終わりを想起させるような文章が出てきます。


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 今日世界が滅びるというしらせは、とても静かに始まった。昼前には既に全局が有人放送をやめ、どの局も同じテロップを延々と流し続けている。



「ねえ、母さんも爺ちゃんと伯父さんに電話したら?」

「そうね。でも繋がるかしら」



 世界が終わるのは赤い夕焼けが白くなった瞬間だという。先程まで紛争地域のような有様だったが、十五時を過ぎたあたりから嘘のように静まり返っていた。


 一体、何組の家族が此処に留まったのだろう。むしろ近くに大事な人がいない限り、動くことは無意味に思えた。交通網は壊滅していたし、自転車ですら通れないほど一時は混乱していた。それに情報が正しければ滅亡は夕方だ。何処にも行けはしない。

 


「困ったわね。ちょっと繋がったら呼んでくれない?」



 そもそも電話が繋がるとは思えなかった。提案してみたのは、運が良ければくらいのことで、まさか電話丸投げで何処かへ行くとは思ってもみなかったのだ。



「いやいやいや」



 空を見ると、報道された滅亡時刻までもう時間はなさそうだ。こういうときって、普通家族の団欒を楽しむやつではと些か疑問に思っていると、七度目のコールで向こう側から声が聞こえた。祖父だ。慌てて母を呼んだところで、わたしの意識はぶつん、と静かに途切れた。



「ほら起きて。もうすぐお婆ちゃんたちの家に着くよ」



 ふと気がつくと、記憶の深い場所にいた若い母が目の前で笑っている。わたしの手はとても小さく、母の体は大層大きく感じた。


 不思議に思いながら先程までのことを思い出そうとすると、どうしても霞がかり、抜け落ちるようにじょじょに思い出せなくなってしまった。



 世界は、同じことを繰り返しているのかもしれない。世界のバグがなおるまで永遠に同じことを繰り返しているかのように。車の窓から見える広大な海を眺めながら、わたしはなにも思い出せなくなった頭でそれだけを考え、それすらも忘れていった。



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