第2話 第2の刺客

 でもなんだろう……?

 このシチュエーション、な~んか覚えがあるんだけど。


 こういうのデジャブっていうんだよね。この既視感、めっちゃヤバいやつっぽいんだけど。


「最近のあの方、おかしいのよ……!」


 ――ふと、目の前の怒れるマダム・エレオノーラ様が声を荒げた。


「だって、あなたのことばかり話すのよ? 『新しく入ったミリア君は、仕事の覚えが早くて助かる』だの『彼女の発想は素晴らしい』だの! あげくの果てには、『彼女に似合うと思って』なんて、高価なネックレスまで買おうとしていたわ! この私にだって、そんなもの何年も贈ってくれていないのに!」



 あぁ……それ完全に私、巻き込まれ型のやつじゃん。子爵が地雷踏んでるパターンだよね。


 エレオノーラ様の目からは涙がぽろぽろ落ちる。でもその奥で瞳は光ってる。

 その光は悲しみというより――ギラギラした、めっちゃ殺意強めなやつ♡


「違うんです、エレオノーラ様! 私たちはただの上司と部下で……!」

「黙りなさい! その純真そうな見た目で、あの方を騙したんでしょうがっ!」


 お、おぉぉ……詰んだ。

 彼女、話通じないよ。


 エレオノーラ様のナイフを握る手に、ぐっと力がこもる。

 

 そしてそのまま禍々しいナイフを振りかぶる。


 はい、終わった。

 2回目の人生も、刺されて終わりまーす。


 ルカ……ごめんね。私は先に逝きます。

 ああ、せっかく素敵な彼氏ができたのになあ。

 せめて夜ご飯だけは食べたかった……。


 私はぎゅっと目をつぶった。

 さよなら、私の異世界生活。



 ……あ、思い出しちゃった!!


 脳みそに「バチョーン!」と電撃が走るような記憶の逆再生。


 忘れたいのに、むしろ一生忘れられないやつだよこれ。

 前世の、あの忌まわしき出来事がフラッシュバックする――。


 そう、あれは私が現代日本にいた頃。

 地味な会社で地味ぃ~に事務員してた。地味な女だった私の物語……。


 

 そろそろ三十路って年齢に両ひざまで突っ込んだある日のこと。


 自宅アパートの玄関先で同僚の奥さんに「夫を寝取ったでしょッッ!!」と叫ばれて、いきなり刃物を突きつけられた。


 ……ええ、もちろん浮気なんてしてませんとも。むしろ恋愛の「れ」の字もしてなかったくらいなんだけど? 

 

 何か問題でも?

 言ってて悲しくなるから、もうやめていい?

 

 でさあ、この奥さん。

 エレオノーラ様とセリフまで完全にユニゾンしてるでしょ?


 え? 不倫?

 いやいや、してないから! ほんとにしてないからッ!


 ……でも弁解の暇もなかったなあ。

 スーパーサイヤ人状態の奥さんにそのままグサッと刺されて、あっけなく人生終了。


 で、異世界転生したのにまたこの展開って……ねえ、ちょっと神様ぁ?

 こんな転生者特典なんて望んでませんけどぉ!?


 いやいやいや、これもう特典ってレベルじゃないでしょ!?

 めっちゃ趣味悪すぎませんかねえ!?


 と、脳内再生していた――その瞬間。

 

「ちょっと待ったぁあああああ!!」


 耳を突き破るような、やたら芝居がかった声が響いた。


 え、なに?

 今度は何ごと??


 思わず目を開けると、廊下の向こうからド派手に現れたのはタキシードをびしっとキメた長身の男。


 彼は大股でズカズカとこちらに歩いてくる。そして、なぜか一輪の薔薇を持っている。


「な、誰ですの、あなたは!」

「あら、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね」


 どこかで観たような演技力全開の声色で、彼はエレオノーラ様の前へと進み出る。


 妙に芝居がかった口調の男性――ジュリアンさんは私の目の前まで来ると、くるりと回ってエレオノーラ様に向かって優雅に一礼した。

 

「わたくし、このミリアという女を、恋敵としてマークしている者よ。以後、お見知りおきを♡」

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