第3話[子ガラスと言葉]

ピピピピピ…ピピピ………


静けさの中、

騒音を出す目覚まし時計に起こされる凛桜。


「…………7時。起きるか…」


今日は土曜日。

本来は気ままに昼まで寝るのが最高なんだが…

一人ではない今はそうもいかない。


「おはよう子ガラス。生きてるね?」


ベッド横に置いたクッションの上では子ガラスが寝ている。


そっと子ガラスを撫でる凛桜。

凛桜の手で目覚めた子ガラスは目をパチパチさせるとすぐに鳴き出す。


お腹でも空いているんだろうか?

…冷蔵庫には作り置きの野菜炒めしかない。


「肉の方が良いかもだけど、とりあえずこれ食べてみる?」


キョロキョロ辺りを見回している子ガラス。

凛桜の声に反応して少し動きを止めたかと思えば

ふいっとそっぽを向いてしまう。


……言葉がわかっている?

いやいや、相手はカラスだ。有り得ない。


だが、昨日も同じ違和感は感じた。


…………。


「うーん…お肉でも買いに行こうかなぁー…?」


試しに独り言を言ってみる。


瞬間、子ガラスは凛桜を凝視する。

まるで「早く買ってこい」とでも言いたそうに。

…いや、ただ声に反応しただけの可能性はまだある。


少し試してみるか。

凛桜は子ガラスの前に座って目を合わせる。




「にんじん。」

プイッ

「玉ねぎ」

プイッ

「ベーコン」

ジー……


1人と1羽の目が合う。


「豚肉」

ジー…

「牛乳」

プイッ

「………鶏肉」

ジー…




鳥肉食べるのか。共食いではないのか?


凛桜はゆっくりと立ちあがり、服を着替える。


「はぁ…わかったよ。何かお肉買ってくるね…」


ここまで試せばもう決まりだろう。

この子は人間の言葉を理解している。


言葉が理解出来ている理由は分からない。

だが、食べたいものを言うだけで

ちゃんと意思表示をしてくれるのは有難い。


「コンビニ行ってくるから大人しくしててね」


声を掛けながら玄関のドアを開ける


「っ…………?!」


瞬間、凛桜の視界が陰る


目の前の電線、アパートの塀には見渡す限りのカラス。

ざっと100羽はいるだろう。


「……忘れてた…」


昨日医者が言っていたのを思い出す。

…だがここまで多いとは思ってもみなかった。


凛桜は驚きつつもドアの隙間から様子を伺う。

しばらく目を合わせるがカラス達はそのまま動こうとしない。

どうやら襲われる事は無さそうだ…。


「あの…コンビニ行ってきます…んで。」


凛桜は小さな声でカラス達に声をかける。

子ガラスがあんなに言葉を理解している。

もしかすると仲間も同じように理解しているかもしれない。


異様な光景を横切った凛桜は小走りでコンビニへ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る