やばいドラゴンに転生しちゃった~魔法を追い求めるうちになんかいろいろ起こってた~
やまだのり
第1話 転生
この世界には、なんで魔法がないんだろう?
内在する魔力を、あるいは宙に漂う魔力を扱うのでも、精霊と心を通わせるのでもいい。一度でいいから魔法を使ってみたかった。
だがその願いは叶うことなく、僕の人生は終わりを告げた。
「転生?」
「はい。あなたの魂に宿る魔法適正と、魔法への情熱は素晴らしい。それ故、あなたを魔法世界へと招待したのです」
魔法適正?僕にそんなものがあったなんて!しかし、それよりも……
「魔法が使える!」
「はい、思う存分楽しんでくださいね」
「ありがとうございます!神様!」
すべてを包み込む慈愛の笑みと、たおやかな仕草。これを見て僕は確信した。この方こそが神だと。衝撃を伴った感謝があふれだす。
僕はすぐさま提案を受け入れ、見事、魔法世界への転生を果たした。
──ドラゴンとして。
目が覚めたとき、周りは草原だった。雄大な自然。神秘的とすら感じる、全周を囲う霊峰の数々。空は遥か彼方まで続き、世界が広がっていくような錯覚に陥る。感動と興奮を覚えた次に、僕の姿がドラゴンになっていることを認識した。
手の甲を鱗で覆われるがっしりとした指の先に、太く、それでいて鋭い爪。
体を曲げると見える、太く長いしっぽ。背から生えた翼は蝙蝠の羽のような形、しかしその大きさは全くの別物。頭から尾の先まで合わせた長さよりも、ずっと長く、大きい翼。
自分の意思に合わせてそれが動くことに、違和感を抱く。
しかし、同時に興奮も覚える。地球ではありえなかった生物。巨大で、神秘的で、ロマンに溢れた魔法生物。
──なんでドラゴン?
一瞬そう思ったけど、ドラゴンなんて魔法生物、魔法を使うならぴったりじゃないかと思い直した。
衝動のままに翼を羽ばたかせる。
一度目で土が舞い上がり、二度目で四脚に力を入れる。三度目で力いっぱい飛び上がると、見下ろす視界はぐんぐんと広がっていく。
意識せずとも本能的にバランスがとれ、さらに上空へ向かって羽ばたいた。
雲を飛び越え、再び地上を見下ろす。山頂に雪がかかった山々と、広大な空。青と白に包まれた世界の中にポツンと、そこにある緑。
いくら魔法に執心していたとはいえ、それ以外にも興味はあった。
動画サイトのおすすめに雄大な自然を映したサムネイルがあれば、思わずクリックしてしまうし、それ以外にも、洞窟の探検や川辺でのキャンプなどの自然の中からそれを映した動画には興味があった。
だがやはり、ここにきて魔法への憧れは限界突破した。
ここへ来る前、つまり神様に会っていたころ、僕は魔法を使えると聞いてそれについて考えた。魔法は、内在する魔力を使って発現するのか、宙に漂う魔力を利用するのか、それとも精霊と心を通わせて魔法を使うのか。
だがその疑問はすぐに氷解した。
この巨体、この重さを支えるには明らかに力不足の翼。それを支えるのは、身に秘めた魔法の力。それが作用しているのがなんとなく理解できた。
──これが魔法適正?
これは魔法によってより多くの空気を押し出しているのか?それとも重力を操っている?それとも、羽ばたくことで生み出した力そのものを魔法によって増幅しているのか?
頭が魔法一色に染まり、雄大で神秘的な自然のことはすでに忘れていた。
地上に戻り、他にできることを探す。もちろん魔法にかかわることで。
たとえば、ドラゴンときたら──
──口から、地面を焦がし赤熱させるほどの炎を吐いた。
──その炎を意のままに操った。
──咆哮は火を消し飛ばし、空に響いた。
──風を操り、視線の先にある山の頂上へ、一瞬で到達する速さを生み出した。
これはもしかしたら、ドラゴンの肉体なら魔法を使わずとも可能だったかもしれない。
しかし、そんなことはもはやどうでもいい。思うままに魔法を使うことができる。
熱望していた、魔法を知ることができた。触れることができた。
その事実に自然と涙がこぼれ、しばらく感傷的な気分に浸った。
魔法を使って遊んでいると、陽が傾き始めた。
もうそんなに経ってしまったのか──一瞬、そう思った。だけど今はもう、そんなことは思わなくていいんだ。
金を稼ぐために、規則に縛られて働く必要などない。この自然には規則なんてものはなく、ただ自由に生きるだけでいい。
規則に縛られない解放感と、雄大な自然の中にある感動と、魔法を手にした興奮でどうにかなってしまいそうだ。
夜になると、自分のそばに炎を浮かべ、足元を照らす。
炎をいくつも作り出し、方々へ飛ばし、一帯を明るくさせた。
雲を操ってドラゴンの形にしてみたり、土を操って小屋を建ててみたり、星の海を泳いでみたり。
どんな魔法があるのだろう。魔法はどこまで出来るのか。もっと魔法を知りたい。
魔法は手段であり目的だ。
魔法を使うのなら、目的はなんだっていい。
その先にまだ見ぬ魔法があるなら、何でもする。
それが、僕が再び生まれた理由だ。そう感じた。
しばらくは、ここで魔法を研究していよう。世界を回って色々な魔法を知るのはそのあとがいい。
そう考えてから、数日が経った。魔法生物であっても、食事と睡眠は必要らしい。
空を飛んで獲物を探し、毛むくじゃらの牛みたいな動物を食べたり──初めての生肉は、舌がドラゴンのものになっていたからか、とても美味しく感じた。ただ、それほど頻繁に見かけるわけではないから、数を減らしすぎないようにしよう。──小さいベリー見たいなものを、その枝ごと食べたりした。
魔法で穴を作ってそこに排泄し、土をかぶせて処理する。
やわらかい土を集めてベッドを作ったり、粘土を焼いて陶器を作ってみたりした。
魔法を使う度、内在する魔力が減っていくのを感じるが、それは食事によって補えるものだった。しかしながら、ここら一帯にはそれほど食料がないため、消費した分を十分に補給できているとは思えない。とはいえ有り余る魔力は、底を見せないが。
魔法について、何かを”操る”という念動力のような使い方ができることが分かった。
あとは、火を生み出すということ……いや、これは熱を操っているのか?これは地球でいう物理的な法則にしたがった”火”と同一の物でいいのか?熱を操るなら物を凍らせたり、溶かしたりもできるのか?
今のところ、炎を除けば何か物を生み出すことはできていない。例えば土とか、水とかそういうものだ。炎は言い換えれば燃焼という現象で、物ではない。
これは、魔法では物を生み出すという行為はできないということだろうか?
それとも、操るのとはなにかやり方が違っていて、僕がまだそれを知らないだけ?
疑問が解決すると、一つの好奇心が満たされ複数の疑問が広がっていく。探求心は際限なく広がっていった。
ところで、魔法と言ったら戦闘は欠かせないだろう。大出力の光線で山を消し飛ばしたり、隕石を落としたり。迫力のある魔法はそれだけで美しい。
質量をもった結界を張ってみたいし、ゴーレムなどを生み出してみたい。
あとは、魔法陣や魔道具に魔法を込めて、自分が魔法を使わずとも自動的に魔法が発動する仕組みは作れるか。魔法で植物の成長を促進できるか。
あるいは創作などでよくある、奴隷を扱う時のような強制的に他者を従える魔法はあるのか。
他にも、体を小さくしたり、人間に化けたりする魔法はあるのか。それらはどうやったらできるのか。
興味は尽きず、時間は驚くほど速く進んでいった。
季節は廻り、やがて1年が過ぎた。この世界の1年が何日あるのか分からないが、それほど地球と変わらないような気がしている。
春夏秋冬の季節はあったし、梅雨だか雨季だかもあった。
この一年で、たくさんの魔法を使えるようになった。物を生み出すこともできるようになったし、炎や風を操るのだって、ずいぶん上達した。
──もっとも、物を生み出す魔法は、時間がたてば溶けるように消えてしまうが。
そろそろ旅に出ようと思う。
まだまだ試していない魔法は山ほどあるし、技術を極めたとはとても言えないが。
それでももう、好奇心を抑えることができそうにない。
他の人が作った未知の魔法。伝承にだけ残る魔法とかあったら、それはもうなんというか……すごいロマンだ。
効率を極めた魔法とか、地図を書き換えるほどの威力を放つ魔法とか。
生活を便利にする魔法にも興味がある。
それに、ちょっとだけ戦闘してみたいという気持ちもある。こう聞くとどんな野蛮人だとかバトルジャンキーかよ、とか思われるかもしれないが、魔法を実戦で使ってみたいのだ。
実戦の中で磨かれた地味な魔法とか、かっこいい。
この高原にはドラゴンに匹敵するような動物はおらず、そもそも肉食獣が少なかった。魔法戦をやろうと誘ってみても──逃げる先に火を吐いた──乗ってくる動物は皆無だった。
だから、少しの戦闘欲と、その他多くの魔法への好奇心や探求心が、抑えられなくなった。
さて、この世界にはどんな魔法があるのかな。──そのすべてを僕のものにするまで、とまれそうにない。
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