第28話 どちらが探していたのか。
掻い摘んだ事情をファビオから聞く事の出来たレンツォである。稼ぐよりも、捜索に集中する事となるのは当然だった。
山林の中で生活痕を探したり、戦闘などの痕跡を辿っているのだが、これがまた難しい。
「少し、考えが甘かったのかもしれないな」
「……そこまで焦ってはおらぬ。見つかれば儲けものくらいで構わん」
そうは言うものの、レンツォやファビオがカミラを殺せる機会は、エトナ中層にいるだろう今しかない。強がりなのは見え見えだった。
『機巧制限』の影響により、術師としての能力は中層では大きく阻害される。戦士ではない彼女だ。そこに付け入る隙がある。
とういう訳で探してみるのだが、広大な山林だ。簡単に見つかるものでもなかった。
それと当初の思惑も、残念ながら外れてしまっている。お互いに明言した訳ではないが、共通した認識があった。
恐らくでこそあるが、カミラは両性、若しくは同性愛者である。ファビオの話の中でさえ、その状況証拠は揃えられていた。
生殖の必要なく『血族』として増える彼等に強い性欲はない。必要ないからだ。
名こそ種族と呼ばれるものの、民族である彼等は種としての三大欲求を、ある意味では克服している。
そうなると趣味嗜好に走る者が増え、性的少数者となる者も少なくなかった。
前者であったのならば何とかなるかもしれないが、後者の場合、レンツォでは餌にならない。誘い出す為の手札が一つ封じられた。
なので、地道に足で探すしかなかった。人が潜伏するならば、その痕跡は辿れる筈だと。
カミラ一行がどういった構成なのか、正確には判らない。そこまでの情報は得られていなかった。
それでも判っている事がある。女性比率がやや高いものの、男女混成のパーティだという事だ。
多くは侍女服姿であったそうで、これに不思議はない。彼女は供回りに家人を何名か連れて屋敷を空けている。ファビオの調べだ。疑いはなかった。
この供となった女性達こそが、カミラの眷属なのだろう。全てか、殆どがそうである確率が高かった。
そして男達である。ファビオの様な騎士候補や眷属化した者が混ざっている可能性こそあるが、それは少数に過ぎないだろう。彼等は眷属達の為に連れて来られている筈だ。恐らくは糧として。
吸血種族における味覚の問題だ。一部カミラの様な例外こそあるが、異性の血こそが好まれた。
彼等ははザガリアの従業員であった者達かもしれず、カターニアなどで雇用された冒険者達なのかもしれない。
その素性や性質は問題ではなかった。彼等は眷属が糧を得るのに必要な者達だ。カミラが粗略に扱う事はないだろう。
となれば戦闘で犠牲とする訳にもいかず、その生活の為にも煮炊きなどは必要となる。睡眠だって必要であった。
その痕跡を辿る事が出来れば、見つけられる。そんな目算があった。
だからこそ二人は強化を駆使して走り回る。
別れれば探索範囲が広がるが、二人共そこそこの経験を積んだ冒険者。そんな愚行は犯さない。
「おうらぁ! そんなんじゃ、俺の盾は抜けねぇぞ」
叫ぶレンツォ。杭の如き鋭い枝が襲い来るも弾き、いなし、受け止める。
その射出元はハンノキの王、アールキング。
人類種へ怨念積もらす妖樹である。アールキングは再び枝を束ねた。
レンツォもまた片手であるが大斧を振りかぶる。
再び杭が打ち出されようとする瞬間。アールキングは停止する。
「……能無しめ。爆ぜろ」
ハンノキの王はその言葉の通りに爆ぜた。バラバラと崩れ落ちる木片。その場所には家の柱程もある、巨大な鉱物が在った。
それはビタロサ王国がトリノ州特産である、精錬されたペザントフエッロ合金の塊であった。
「えっぐ……。——ファビオっ! 後ろっ!」
「……判っている。任せるぞ」
ファビオの背中へもまた、アールキングによる杭打ち。この場には、もう一体が発生していた。
だがファビオに危なげはない。手にする剣により躱し、いなし、斬り落とす。足を止め、連打される杭打ちへと対応していった。
つまりはこの時、ハンノキの王は足を止めている。
というよりも樹木なので、大地に根を張っていた。
「足止めご苦労さん」
そしてレンツォは大斧を両手で以って振り下ろす。
唐竹割りというものだ。
真っ二つに両断されるアールキング。だが妖樹はこれが終わりでないから厄介なのだ。
しなる枝。回転しながら、獲物を貫かんと再び射出される王の槍。
その前にレンツォは大斧を薙いでいる。樹木を斬り落とす為の、横からの一撃であった。またもや両断されるアールキングの身体。
「……さっさと片付けろ」
「いや、ちっと見付からない。少し頼む」
「ど阿呆め」
四つに増えたといえど、ハンノキの王の手数は変わらない。軽い一撃ではファビオの剣による護りを抜けやしない。それが判っているレンツォだ。
「あったぜ。離れとけ」
そして丸い球体を投げ付けた。跳び退くファビオ、破裂する球体、飛び散るは内容物。
液体はアールキングを濡らし、独特の匂いが立ち昇る。踏み込んだレンツォが発火を発動すると、枯れ木の変生したハンノキの王は燃え上がった。
炭化してゆく妖樹。不死の怪物といえど、世界へ干渉する為の器がなくては無力なものだった。
液体は燃料ともなる可燃性の高い化合物。揮発性の高さから取り扱いに注意がいるも、安価で入手しやすいので、燃料としても広く使用されている。
冒険者二人は妖樹の遺骸を砕きながら霊核の回収を行った。一人は淡々と、もう一人は期待に満ちて。
「……何をニヤついている。気持ち悪いぞ」
淡々と毒舌を漏らしたファビオが顕現したままの巨大な鉱物へ手を当てる。そして少し長めの詠唱。
収納の術式である。僅かな間をおいて、比重二百三十四と結構な値を誇る鉱物は異空間へと消えた。
「気持ち悪いのはお前の技だよ。……まぁ、そうそう当たりはねぇよなぁ……」
「……夢を見るのは結構だが、一喜一憂なぞするな。鬱陶しい」
ファビオが一撃でアールキングを粉砕せしめたのは彼の得意とする「刀剣顕現」の応用だ。
技と呼ぶには単純で、収納を解除しただけである。
収納を解除し、現界した物品は元々そこに在った物として扱われる。それによる物理的な現象など、知れた事だった。
収納を行使可能ならば、誰にでも扱える技なのが恐ろしい。顕現させる物質によって必殺の凶器となる。
それなりに鍛えていれば、矛盾による論理破壊や物理的な破壊力を抑え込めるものの、誰しも鍛えているという訳でもないものだ。
ましてやファビオが顕現したのは巨大なペザントフエッロ合金である。比重二百三十四。とても重く、そして硬い。
例えエトナ中層の霊獣や怪物であっても、そんな物体が体内で突然に存在し、無事でいられる者などあまり多くはなかった。
「イイじゃねぇか、夢を見るくらいよぉ」
唇を尖らすレンツォだった。当たりという成功体験があるので、つい期待もしてしまう。
アールキングは旨味の少ない獲物だが、来いよスタンピード。などと不謹慎な願いも持ってしまうものなのだ。
万分の一の確率であるならば、万以上でもを狩ってやろう。そんな驕りが散らつく程に、ふたりの連携は取れていた。
エトナ中層の怪物は何も、アールキングに代表される様な植物系のものばかりではない。
鉱物や岩石に泥。そういった物質だって怪物化している。そういった怪物達への対処法も確立されている。基本は皆同じであった。
動きを止めて、弱点を突く。攻撃方法などは相手によりけりだが、それが有効なのだから仕方がない。
泥が怪物化したファンゴ エ マスティカーレなどの運動性は、保有する水分量に依存する。
動きを止めるのには吸水性の高い物質を呑ますのが最も簡単であった。
乾いた砂や枯れた草を大量にぶち撒ける。それで足りなければ、保存食用の乾燥剤だって使ってやった。
怪物の知能は低い。捕食するモノであり、闘うモノではない。単純に運動や衝撃へと反応し、近い場所から捕食する。となると、もう的でしかない。
二人共、倒せ得る力を持っている。
動きを止め、斧と剣による斬撃で霊核を剥き出しにすれば、完全勝利であった。
一人では狩れない怪物達も、二人であればなんとかなるものだ。
元々、エトナ中層でも魔銀以上のバディであれば美味い狩場であるとされていた。
レンツォとファビオの二人。赤金と魔銀であって、格としては少し足りていない。
だというのに、怪物達なぞ問題にならない快進撃である。
「ぶちかませっ! レンツォ!」
「どっせーい!」
力のレンツォに。
「石頭さんよ、俺にばっか構ってて良いんか? やっちまえ、ファビオ」
「ふん。……もう終わっている」
技のファビオ。
二人が良く噛み合っているからだ。
まったく特徴の異なる二人がそれぞれの力を把握して、補い合っているからだった。
どうやって、コイツの力を引き出そう。
どうやって、コイツの技を引き出そう。
二人の想いは一致していた。
青春の三年間を共にした仲間で友だ。
それぞれに、諦めずに続けている冒険者でもある。
「やるじゃねぇか、流石は三千殺ってか」
高揚してやがる。昔の話し方をするファビオに、ついレンツォも嬉しくなってしまう。
「その二つ名で呼ぶんじゃねぇよ」
通じ合わぬ筈もない。相棒なのだ。親友なのだ。
意気が上がって得物を振るう。息が上がっても、一息吐ける余裕があった。
獲物というには多少物足りないが怪物達を狩りながら、二人はエトナ中層を縦横無尽に駆け抜ける。
レンツォは思ってしまい、願ってしまう。
——コイツとなら、もっと高みに昇れるんじゃないか。もっとでっかい冒険が、出来るのでは。
そんな不相応な夢だって、描いてしまうのだ。
相棒がいる。それだけで心強い。お互いに負けたくないと望める仲間なんて、そうないものなのだ。
そして五日目もとっぷりと暮れた頃、二人は相当な数の怪物達の霊核を回収していた。
塵も積もればなんとやら。これだけあれば折半をしてもかなりの良い値段となる。
美味しい副収入であった。だというのに、レンツォの顔色は優れない。
「……そんな顔、するな」
「いや、だってよ。……三日くらいなら、なんとかなるぜ。もうちっと、探さないか?」
提案は苦笑と共に頭を振られた。
野営の準備を整えて、休息に入っていた。ファビオには必要なくとも、レンツォには必要な事だった。
その事実が胸を重くする。
もしも夜を徹して捜索していたのなら、何かしらの情報が得られたかもしれない。足を引っ張っているのでは? そんな気持ちが浮かんでしまう。
「自惚れるなよ。俺だって夜の山を駆ける気にはなれん。それに、ここまでの範囲内に何の痕跡もない事は不思議ではない」
本腰を据えて探索をしても新しい生活痕などは残されていなかった。古いものはあったが、それは除外の対象である。
レンツォ達が探すのはカミラの居場所であった。そこへ繋がる情報でなければ意味がない。そして、それを見つけられていなかった。
「何日か延長しないか? 食糧もあるし……」
レンツォがやけに大荷物だったのは、ファビオが食事を必要としない事を忘れての事である。浮かれて、吸血種族化している事を忘れてしまっていたのだ。
装備上では滞在延長も可能であった。
「お嬢さんを一人にする気か?」
正論に、何も返せないレンツォだった。
そんな真似は出来ない。騎士として、男としてもイラーリアに恥をかかせる訳にはいかない。だが、この機会を逃せば——。
「なぁ、どうしてカミラはアンブロシアなんて物を求めているんだ? 必要ないだろう?」
「あ? 欲しいからだろ。強欲なアイツの事だ。良い金儲けにでもなると……。待て、どういう事だ?」
ファビオの言葉では理に敵わない。
アンブロシアは不老長寿の霊薬に不可欠な素材であり、高値で取引されている。その物にも力があった。
貴重な霊薬の原料ともなるので、使用用途は多岐に渡る。故に需要も高く、非常に高額となり易い。
だが市場にも出ている商品であり、カミラ程の富豪が入手出来ぬ筈もない。
代金を割高に感じたとしても、冒険者でも雇えば良かった。彼女程の重鎮からの依頼ならば、宝石や上級登録者であっても無碍にはしない筈である。
「それが彼女でないならば、判らなくもない。老いや死を恐れる者は多いからな。だが、そうじゃない」
「……気紛れ。とは言えぬな。アイツがアンブロシアを欲する理由などそれしかないが、だがなんの為に? 山へ踏み入る方便か? いや、しかし……」
官憲の調べから逃れる為という線はある。
だがそれも不自然な話であって、アルトベリ男爵が訴え出たのはついこの間だ。カミラ達は夏の終わりに入山している。
実に腹立たしい話だが、機巧販売のザガリアが売買契約を成立させたのは男爵のみだった。他からの訴え出の線もないだろう。
もしも最初に予測していた様に、逃亡の為ならば態々山へと篭る理由もない。追われている訳ではないので、普通に島を出れば良かった。
「理由がない。五年も付き合ってきたお前さんだ。何か気付く事はないのか?」
「いや、アイツがエトナに興味を持つ理由なぞなかったと思うのだが……」
二人して、何も思い付かない。
カミラにはアンブロシアなど必要ないと思い、疑問を述べただけである。ファビオならば何か気付くかと期待もしていたが、そうでもなさそうだった。
「商売人なんだから、何かしらの意味はあるんだと思うんだがなぁ。……もしや、ボケとか」
嘆息の後につい呟いてしまい、慌てて口許を押さえるレンツォ。
幸いにもファビオに失言は聴かれていなかった様であり、彼は黙り込んでいた。真剣に何事かを考えている様だった。レンツォもまた、頭を働かす。
つい「ボケ」などという失礼な言葉が漏れたのには訳がある。ボケとは痴呆の状態を指した。
個人差もあることながら、人類種の本来の寿命は概ね百年程度だとされている。
一部例外や長命種などがあるものの、カミラはそのどちらでもない。両者に吸血種族と成る理由がないからだ。
寿命まで、若い肉体を保つ種は幾つもある。民族でこそあるが、吸血種族などもそうだった。
それでも、そういった種族の寿命も百年前後なのだとされている。学説によれば、魂に定められたモノであるらしい。
人は寿命が近付くと、死への恐れから防衛本能が働くらしく、認識能力などが低下するのだと言われている。それがボケだとされていた。
そしてカミラがファビオの言う様にガムラン創業者その者だとすれば、現在年齢は百二十を超えている筈である。かなりの高齢だ。思考能力が低下していてもおかしくはない。
レンツォは商売や商売人に詳しい訳でなくとも、やはり今のカミラの行動は「らしくない」とも感じていて、その疑いから「もしや」と考えてしまったのだ。
それで何かを思い付く訳でもないのだが。
「……レンツォ、アンブロシアが採取可能な区域に当たりはつくか?」
「幾つかなら。どこも結構遠いぞ」
「……明日はそこらから探してみるとするか。もう寝ておけ」
仕方なしに素直に従う事となる。考えてどうなるという訳でもないからだ。
レンツォとて、賢い奴等の思惑を見抜けるなどとは考えていない。いないながらも、どうにかならない物かと考えてしまうのであった。
この日は朝から雪がチラついていた。そう勢いがあるではないが、ゆっくりと穏やかに降り注ぎ、昼前には既に山肌を白く覆っている。
「見つけたな」
吐く息は白い。気温は氷点下にあった。
「……そうとも限らんがな。指針としては悪くない」
格好付けのファビオは賢しら振っているものの、高揚が見て取れた。当然だ。求める獲物の手掛かりを得られたのだから。
険しい獣道の中に、大勢の人数が踏み入った様な跡がある。
それを辿って来てみれば、野営の跡地や戦闘痕などが見つかった。比較的最近のものである。
レンツォの知るアンブロシアが採れるだろう区域は四つ。その一つに『常春の森』と名付けられた区域があった。
この獣道はそこへと繋がる道である。四つ山を抜けた先の盆地に繁る森林で、名の通り季節と関係なく環境は常に春と似ている。
「確かにアンブロシアが生りはするのだが、収支が見合わんぞ。やはり、何らかの意図がありそうだ」
「……」
『常春の森』の気候は良い。その為に冬眠から逃れた中層の霊獣達が数多く棲息している。冬場であっても獣達の楽園であり、その環境は過酷であった。
その上で、『罅』と呼ばれる現象が多数目撃される場所でもある。『罅』は質量も体積もなく中空に揺らいでいる。結界と似た存在であり、地点を繋いだ。
中層に出現する『罅』は、上層にある結界の出口である。可能性こそ低いとはいえ、上層から霊獣や怪物が降臨する為の門として機能していて危険であった。
上層の霊獣や怪物達は強大だ。一体でさえ中層の生態系を崩しかねず、パーティでの討伐も現実的ではなかった。冒険者達には逃走が推奨されていた。
単純に強く、厄介な性質を有するからである。
近年において被害の大きかったモノだけでも、あらゆる武器を通さぬ獅子や、雲の性質を有する肉食の巨大馬、そして竜種などが確認されている。
それらは上層での生存競争に敗れた個体だが、脅威である事に変わりはない。
『常春の森』へと続く山には砦が築かれていた。
元々は森、ひいては『罅』を監視する為にあったのだが、現在は使われていなかった。放送機器の発展により、人員が常駐する必要がなくなったからである。
今では森を目指す冒険者達の休憩所となっていた。
森にせよ砦にせよ、滞在していても危険が先行するものだ。得られる対価と比べ、収支が見合わない。
それをシシリアの冒険者であるレンツォ達は知っているので、確認を後回しにした場所だった。
商売人がそんな無謀な真似はしないだろうと。
だが現実として生活痕は増えてゆき、同時に戦闘の痕跡も。とすると、残されるのは。
「こいつ、冒険者だろうな。だが、精々が若木か?」
「……ここと別を一緒にするな。こいつらは錬鉄よ。見た事のあるカンパニアの冒険者だが、随分と余裕がないな」
不自然に盛られた土を掘り返せば、現れるのは遺骸である。埋葬のつもりである様だった。
山道の傍に埋められていたのは戦闘での犠牲者らしく、そう古いものでもなかった。冬場という事もあって、損傷の少ないソレらは見られる死体であった。
「成仏してくれや……」
遺骸を燃やしてやり、埋め戻してやる。
火葬は異界へ潜る冒険者達の嗜みだった。遺骸が元の姿に近い程、
それを防ぐ為に燃やし、遺骨も仲間の物ならば骨壷に詰めて持ち帰る。怪物の一種であるスケルトンと化するのを防ぐ為だった。
流石に、仲間のものでもなければ、そこまではしない。人骨は結構嵩張る物であり、荷物を犠牲にしてまで持ち帰る義理もなかった。
異界内で見つけた遺体の火葬と埋葬の習慣は、冒険者達の都合と優しさによる、妥協の産物であった。
「この様子じゃ、砦にいそうだな。どうする?」
この山を越えれば『常春の森』へと辿り着く。その山頂に築かれているのが砦である。
既にレンツォは、そこにカミラ達が居るのだと確信していた。そうなると、必要なのは作戦だった。
機巧兵団からの情報によると、六名パーティが十組だ。加えてカミラの六十一名で入山している。道中では四つの遺体を見つけているので、最大五十六名か。
これらを抜いて、カミラを殺す。中々骨の折れる仕事であった。
「……俺が潜入し、アイツを殺す。レンツォは待機していてくれ。もしも俺がしくじったならば、逃げろ」
「それって作戦じゃねーよな。ちったぁ考えろ。あと逃げねーよ。敵は討ってやる」
ファビオの無策さに呆れるレンツォであったが、彼とて別に策はない。出たとこ勝負でしゃあねぇかと腹を据える。
「んじゃよ。俺が突っ込んでって、一暴れするわ。陽動くらいにゃなるだろう。その間にぶっ殺しちまえ」
そう言ってやれば、ファビオからは呆れた様な吐息が漏れた。仕方がない。作戦なんて、そんなものだ。
「それも作戦じゃねーよ。ま、俺らの頭じゃそんなんしかねーしな。陽動頼んだぜ、相棒」
「任せろや、しくじるんじゃねーぞ、相棒」
二人して笑い合い、掌を叩き合っていた。
「それには及びません。我が主人がお二方をお待ちです。僭越ながら、ご案内いたしましょう」
そんな二人の背中へ声が掛けられる。若い女のものだった。振り返る、レンツォとファビオ。
そこには侍女服姿の女がいる。恭しい、淑女の礼を取っている。
男二人はパクパクと口を開けるも、何の言葉も発せない。
「騎士ファビオ。お久しぶりですね。カミラ様がお待ちですよ」
顔を上げた侍女。微笑みを浮かべ、開かれる唇。
そこから覗くは白いモノ。今なお降り積もりつつある雪よりも白きモノ。
それは吸血種族の身体的特徴を表す、白い牙だった。
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