ヒマワリ戦記

@GriffonFlame

第1話 序文

夏の終わりを告げる西風は、信風だ。空気中に長いこと立ち込めていた、蒸し暑い熱気をきれいさっぱりと吹き飛ばしてくれる。

豊の年も、干ばつの年も、毎年変わらず。

山と海の間に吹く風は、星や月の風よりも時間に正確だった。


西風は陽気な声を上げ、褐色の畑に積まれた麦わらの山をかすめ、葉が黄色く色づき始めた果樹を揺らし、薄暗い森を抜け、苔と雪衣に覆われた山頂の岩を撫で、寂れた草原を駆け抜けていく。そして、東の赤黒い砂丘へと向かう頃には、その声はヒューヒューという風切り音と、サラサラという砂の音の交響曲に変わっていた。


南に連なる山脈は、初秋の太陽によって犬の牙のような影を長く伸ばし、北の森と畑が広がる平原にその影を落としていた。山脈で最も高い峰は雲を突き抜け、その影は遥か遠くを指し示している。その影の果てから、さらに馬で半日も北へ進んだ場所、影と日光の境界線、草原と森と畑が交わる地点に、白い孤山がぽつんとそびえ立っていた。


その孤山の上に、垂雲堡(すいうんじょう)はあった。

黄金の古竜が新生して三十七年目、垂雲堡に秋が訪れた。



大学の賢者たちが言うには、赤ん坊の視覚は生まれたとき、本来は間違っているのだという。どんなものでも、その目に映る像は上下が逆さまなのだそうだ。

赤ん坊はベッドの足元にうつ伏せになり、暖炉の中で星のような火の粉を散らす木炭をじっと見つめていた。木炭はゆっくりと燻り、石造りの部屋に暖かさを添えている。もしかすると、彼の目には、逆さまになった木炭が頭上から降り注ぐ天の火のように見えているのかもしれない。だが、知らぬが仏というやつか、人間になってまだ数ヶ月の赤ん坊は、そんな理解不能な問題で泣き喚いたりはしなかった。


彼は指をしゃぶりながら、好奇心いっぱいに熊皮の寝具を撫で回し、時折、暖炉の上に飾られた六つの栗鸮の頭の剥製を見上げていた。栗鸮は大きな鳥だが、不器用で鈍重だ。そのくせ繁殖力が異常に強いため、絶滅の心配はまったくない。だから、素早い翼も鋭い感覚も宝の持ち腐れで、地上を走るウサギ同然、垂雲領の少年から老人まで、誰もが弓で狩る獲物となっていた。

垂雲の人々は、栗鸮の野蛮で奇妙な鳴き声が、赤ん坊の周りにいる悪霊を追い払う、というか、うんざりさせて追い払ってくれると信じているのだ。


「ねぇ、コサック……」

優しい両腕が背後から赤ん坊の胸元に回り、彼を抱き上げた。女は赤ん坊の薄い髪に下唇を押し当て、そっとため息をついた。

「今日もお父様、まだ帰ってこないのね。一体どうしているのかしら……」

言いかけて、心配が嗚咽に変わる。しかし、女はそれを気丈に歯の間で食い止め、ぐっと腹の底に飲み込んだ。


金色の、光り輝くような長い髪が、女の両肩に柔らかくかかっている。その髪の下の顔は、滑らかな額と、細く高い鼻筋を持っていた。女の眉宇にはまだ少女の面影が残っているが、その瞳には母としての強さと、妻としての憂いが宿っていた。


「奥様……」

赤ん坊を抱く女よりも二、三歳若く見える少女が、栗色の短い髪にメイドのヘアバンドを着け、まだ消えきらないそばかすの残る顔で声をかけた。彼女は手にしていた織物を置くと、抜き足差し足で壁際のティーテーブルに近づき、陶器のポットの温度を手で確かめてから、それを手に取った。ポットの中の温かい液体を、そばのティーカップに注ぎ入れる。

ミルクと蜂蜜、そしてシナモンの香りが、部屋の中にゆっくりと漂った。


「どうぞ」

栗毛のメイドは、手にした温かい飲み物と引き換えに、女の腕から赤ん坊を受け取った。母親以外の人に抱かれるのは、赤ん坊にとって少し抵抗があるらしい。彼は新しい腕の中で数回もがいたが、メイドはそれを甘えているのだと勘違いし、かえって強く抱きしめてしまった。


「コサックが生まれてから、もう三ヶ月も経つのねぇ……」

奥様と呼ばれた女は、温かいミルクティーを一口啜ったが、すぐに食欲がないのかテーブルに置いた。彼女は無理に微笑むと、頬杖をつき、自分の息子に顔を近づけた。青い瞳が、まだしわくちゃな息子の小さな顔をじっと見つめている。

「お父様に本当にそっくり。なのに、まだ一度も会ったことがないなんて——ギャバンたちは……」


「奥様っ」

メイドは年相応の快活さを見せ、首を傾けて自分の顔を赤ん坊の顔の隣に並べた。そして、笑顔を作って主人を慰める。

「旦那様たちは絶対に無事ですよ。私、昨日の夜、松笠町を通ったときに、もう先発隊が帰還しているのを見ましたもの。服はちょっとボロボロで、馬も可哀想なくらい痩せてましたけど、町の前の十字路を通るとき、みんな楽しそうにおしゃべりしてましたよ」


「本当?」

メイドの慰めに、女の固く結ばれていた眉が少しだけ緩んだ。しかし、すぐに以前にも自分を慰めるためにメイドがでまかせを言ったことがあったのを思い出し、半信半疑になって問い詰めた。

「じゃあ……彼らの旗はどんなのだった?」


「ええとですね、確か……うーん、黒と白の二頭の鹿で、角と角を突き合わせて、喧嘩してるみたいな感じでした」

それだけでは説得力がないと思ったのか、彼女は付け加えた。

「そ、それに、兵士さんたちの中には、黄色い地に緑の格子のサーコートを着ている人もいました」

メイドはくるりと目を一回転させ、ぱちりと瞬きをして奥様を見た。


「ええ、オーベルランド辺境伯のお家の軍隊ね」

このメイドの知識では、普段、垂雲領からいくつも辺境領を隔てたこの家門について、知る機会はないはずだ。

メイドが今回は嘘をついていないと確信し、奥様は安堵の息を長く吐いた。そして、独り言のようにつぶやく。

「ギャバンが言っていたわ。オーベルランド家の軍は一番の二流どころで、徴兵期間も一番短いって——」

それから彼女はメイドの方を向き、瞳の輝きを一層増した。

「そうだわ、アンナ。あなたはさっき、彼らは馬にしか乗っていなかったと言ったわね?」


「はい」

メイドは素直に頷いた。

「グリフィンは馬よりずっと速く飛ぶもの。もし時間が同じくらいなら——」

奥様が嬉しそうに話していると、彼女の耳がぴくりと立った。

「しーっ……」


奥様とメイドは静まり返った。部屋の中には、木炭が時折パチッと微かな音を立てるだけ。そして——

「うわぁぁぁ〜〜〜!」

メイドの腕の中の赤ん坊が、突然大声で泣き出した。


「うわぁん、うわぁん」

奥様はメイドの手から泣き叫ぶ息子をひったくると、彼を抱いて窓辺へ向かった。水晶を嵌め込んだ窓は光を通すが、外の景色をはっきりと見るには不十分だった。

「待ってて、今行くから……」

「ううっ——」

メイドは心得たとばかりに窓を開けた。秋風がヒュッと暖かい部屋に逆流し、風の唸り声と赤ん坊の泣き声が一つになった。


しかし、もうそんなことを構ってはいられない。奥様は子供を抱いたまま、必死に背伸びをして窓の外を覗き込んだ。


「グァァァ——!」

けたたましい鳴き声が、風の音と泣き声をかき消した。巨大な影が、窓の外の光を遮る。

鷲だと言うには、その姿はあまりにも巨大すぎる。獅子だと言うには、どうして空を舞っていられるのだろうか。


「カタリナ、カタリナ!」

部屋の外から、張りのある力強い男の声が、部屋にいる女の名を、奥様の名を呼んだ。

「ギャバン!」

母になったばかりのカタリナ奥様は、愛しい人を目にした瞬間、少女のような快活さを取り戻し、つま先立ちで外に向かって呼びかけた。


カタリナは見上げる。

窓の外に影を落とす猛獣は、象牙色の首と翼の先、濃い茶色の胴体と翼を持ち、顔には隼のような鉤状の嘴、四肢には狼や熊のような鋭い爪を持っていた。

猛獣は奥様を見ると、背中の乗り手と同じくらい嬉しいのか、翼を羽ばたかせて窓の外をくるくると回り、喉の奥で「グル、グル」と低い音を立てた。

「イカロス」

奥様は猛獣の挨拶に応えながら、猛獣の翼の付け根から背中の方へと視線を移した。


「ギャバン!」

ついに愛しい人と視線が合ったとき、彼女は腕の中の赤ん坊を高く掲げた。


「こ、これは——」

赤ん坊が初めてこの男を見て戸惑うのと同じように、無精髭の騎士もまた、どうしていいかわからない少年のように、慌てて首をすくめた。

「あなたの赤ちゃんよ!」

しかし、喜びに満ちたカタリナ奥様は、強い意志で、初めて我が子を見た夫を捕まえ、自分が誰かの父親になったという事実を直視させた。


「う、うん——」

ギャバンは口ごもりながら後頭部を掻き、そして開かれた窓に目をやった。

「カタリナ、それにアンナも、少し後ろに下がってくれ」


男は猛獣の首に固定されていた自分の両脚の鞍を解くと、彼は足元の相棒を軽く叩き、小声で言った。

「いつものように頼むぞ、イカロス」

「グァッ!」

猛獣は再び一声嘶くと、空中で鋭く半回転し、窓に向かって飛んできた。


「ギャバン、あなたまた……」

カタリナはぷっくりと頬を膨らませて目を丸くした。夫の無茶に対する文句は、これが初めてではない。しかし今、女の言葉では男の冒険を止めることはできず、彼女はアンナと一緒に部屋の奥へと素直に下がるしかなかった。


猛獣は窓に衝突する寸前で急上昇し、城の外壁に沿って垂直に駆け上がり、優雅に空高く舞い上がった。


そして、その背に乗っていた騎士は、猛獣と窓の距離が最も近づいた瞬間に、しなやかな身のこなしで空中を前方に跳躍し、窓から滑り込んだ。絨毯の上を二回転して勢いを殺し、そして立ち上がる。

軽鎧をまとった騎士は、ゆっくりと兜を脱ぎ、乱れた暗灰色の髪と瞳を現した。はっきりとした輪郭が戦士の冷静さを描き出し、暗灰色の瞳には妻の全身が映り込んでいる。


「ギャバン——」

夫の無謀さに対する憤りは、何日も会えなかった寂しさに比べれば、取るに足らない。カタリナは駆け寄り、以前のように凱旋した夫に抱きつこうとした。しかし、二人の体が近づいたとき、間に小さな人間が挟まっていることに気づいた。


「……」

夫婦は顔を見合わせ、思わず腕の中の赤ん坊に視線を移した。赤ん坊は父親の到来を察して大泣きしていたが、いつの間にか静かになっていた。

「この子がコサックよ。もう三ヶ月になるの」

カタリナは腕の中の赤ん坊を前に差し出した。

「ああ……そうか、そうなるのか」

ギャバンの目は、子供と妻の腹の間を何度か行き来した。出発前、少し膨らみかけていたお腹の中にいた命が、今や父親の腕の中で大きな目を見開き、口から絶えず泡を吹いている我が子となっている。


彼は妻から差し出された子供を震える手で受け取り、不慣れながらも慎重に腕で胸に抱いた。父親の目と息子の目が交錯する。そして、ギャバンは赤ん坊の脇の下に両手を置き、彼を頭上高く掲げた。


カチカチ——

燻るはずの熾火が、崩壊の爆音を立てて弾けた。

ゴウゴウゴウ——

野を駆ける烈風が、白い石壁を必死に喰らおうとする。


「我が息子……」

父親は息子の名を呼んだ。

「コサック・ヒレンルード」

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