19:選択
帰還の疲労から目が覚めると、そこは病院の上だった。体のあたりにぬくもりと重みを感じる。起き上がると、そこにはフミがすっかり私を枕にして眠っていた。髪の毛を上げると、泣きつかれたのか目元が腫れていた。心配、かけちゃったな......。
「ごめんね......」
彼女の背中をさすると、彼女はようやく起き始めた。私が目覚めたことに気付いて、彼女は慌ててナースを呼び込んだ。すると、ナースと一緒に今回のダンジョンの運営で、企画してくれた小椋さんが挨拶しに来た。
「体調はどうだい?」
「まだ、よくわからなくて......」
「今はとにかく休んで。色々整理ついたら、私に連絡してほしい。今回のことは、本当に申し訳なかった。反省してる」
そう言うと、彼は手を挙げて帰っていった。威嚇するような目で彼を見つめるフミに、私は手を添えた。
「彼をあまり責めないで? 今回は、出て来たモンスターが危険すぎただけだから」
「でも、そういうの管理すんのも運営でしょ? あそこ、しばらく閉鎖みたいよ? そんで、あんたは死ぬ気だったの? もっと、自分のこと大事にしてよ! 身寄りもいないんでしょ? 私、どれだけ心配したか......」
彼女は泣き崩れていく。私は何も言えず、ただ彼女の頭を撫でるだけだった。しばらくして私は少し眠たくなって目を閉じて静かに考え事を始めた。......そういえば、フユさんとナツさん、どうなったんだろう。私と同じく、無事だといいんだけど......。そういえば、小椋さんが話があるって言ってたな......。もしかして、二人の事?
「配信ってどうなったんだろ」
ぼそりと私は呟いた。
「え? 今その話する?」
涙ぐんだ声で、フミがスマホを見せつける。
プレオープンで探索失敗という話題に、SNSの住民が騒いでいた。ひいては小椋さんの会社への炎上に繋がってる。別に彼が全面的に悪いってわけじゃないのに......。
「こんな感じで、大炎上よ。で、ここぞってところでダンジョン配信は危険だから失くせって......。話題になってるよ」
「リスポーンできるんだから別に一緒じゃん」
「一緒じゃないんよ。ゲームと違って、死にかけるのが自分なんだから......。あんたは魔法があったから早めに助かったけど......」
「じゃ、じゃあ! 二人は!」
「ごめん、そこは正直ウチは知らない。でも、あの社長なら知ってると思うよ。その話しようとしてたみたいだけど、私が止めたんよ。起きた途端に変な話すんなって」
私はようやく頭がすっきりし始めて、むくりと体を起こした。
「どこいくの?」
「その社長のとこ」
「話聞いてた? 安静にしてなって」
「二人がああなったのも、私のせいってのもあるから」
私が「なんとかなる」とか思ってたばっかりに、二人を危険な目に合わせまくってしまった。私のせいで、余計な傷を増やしてしまった......。私は、病室前の壁に背中をよりかける小椋さんに話しかけた。
「小椋さん。ふたりは......。 ナツさんと、フユさんは?」
「一応無事だね。冬は治療中。ただ、おじさんが曲者で......。だって、一度死亡した人間でしょ? いろいろ手続きとか大変だったよ。それに、ダンジョンで生活する中で変に魔法で治しすぎたせいか、逆に医療薬が効きづらくなってて大変だったって......。まあ、今はびっくりするくらいピンピンしてて、屋上でタバコ吸ってるよ」
呆れたような顔をしながら語る小椋さんは安堵感で笑顔を見せていた。でも、言い切れぬイライラ感を目に宿していた。やっぱり、新規事業がうまくいかなくてしんどいのかな。
「あの、ごめんなさい......。私」
「きみの落ち度ではない。私の管理ミスだ。ただ、君も少し軽率だ。それでも私は君の相棒と未熟な君自身を助けた。 私は君たちに期待しているからね。 だから、今僕を助けられるのは、君たちしかいない」
「な、何が言いたいんです?」
「私の事務所に所属してください。そして、今後は私の言う通りに動くこと。それが条件です。あなたはもう一人で気ままに探索する探索者じゃない。それはもう、十分お判りでしょう?」
その言葉は、ずっしりと重く私の心にのしかかった。
彼は私の肩に手を置き、まじまじと私を見つめる。
「さあ、契約書にサインを」
悪魔のような笑みで小椋さんが迫る。私は、彼を守るために......。
「よし、これで成立。 ご結婚、おめでとうございます」
「はい......。 はい?」
「あれ、言ってませんでしたっけ? 夏也さんは、独り身。さらにはすでに戸籍が消えた人。なら、再度個人として証明するには誰かが家族にならなければならない。では、誰が面倒を見るか。それは、あなたですよ。春野椿さん」
「は、はぁああ!!!???」
私は、その契約書を手にナツさんの元へ走りだしていった。屋上で夕陽を見ながらタバコを吸っていたナツさんは、慌てて来た私を見て目を見開いていた。
「お、おい......。どうしたんだよ」
「私達、結婚しゅる!?」
ナツさんは、何も言わずタバコを落とした。
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