17:【企業案件】新たに生まれた廃ダンジョン

 今回は、生駒ダンジョン以外の廃ダンジョンを巡る約束をナツさんとしていた。場所は京都の鞍馬。実はここ、大昔からあるダンジョンだそうで、未開拓だったものを『廃ダンジョン』というコンセプトで開拓したらしい。こういうのって、開拓っていうのかな? ほとんど中身きれいになってないんじゃないかな。で、ここを運営しているのが、前に事務所の契約を迫ってきた小椋さんだ。


「今日はよろしくお願いしますね。椿さん」


小椋さんは、プレオープンに際して私たちを招待してくれた。しかも、オフィシャルでの配信を許可してくれた。これも、廃ダンジョン配信を続けて来た功績と言えるのだろうか......。なんにせよ、ありがたい話だ。


「フン......。ずいぶん偉くなりやがって」


「ええ、おかげさまで......。ああ。後、もう一つ。今日のプレオープンに参加しているもう一人の方を紹介します。配信事務所『株式会社ダンプロ』の最高(もだか)冬さん」


ダ、ダンプロ! ダンプロって言ったらナツさんたちが配属してた事務所じゃん! しかも、そのレジェンド級配信者のフユさん!? 配信で見るよりも、美しい!! それに、めっちゃいいにおいするー!!


「......。久しぶり、名月くん。それに、夏也だね......。本当に生きてたんだね、よかった」


「フユ......。お前も、偉くなったもんだな」


「そういうあなたは、ずいぶん落ちぶれたみたいね。まあ、裏方として頑張ってるみたいだど......。つばっちゃん、だったっけ? 夏也をよろしくね?」


そう言って笑みを浮かべると、先にダンジョンの中へと入っていった。女性ダンジョン配信者の元祖と言ってもいい人が、先攻プレイだなんて......。やっぱりオーラが違うな......。私も見習わないと!


「じゃあ、椿さんたちも始めていってね。 あ、あとコレお守り」


小椋さんは、私に宝石のようなブローチを渡してきた。これは、強制帰還魔法のお守り? もしかして、このダンジョンリスポーンがないとか......?


「え......。これ」


「大丈夫。お守りだから」


そう言って、小椋さんは手を振って私達と別れた。姿が消えて、ようやくホッとしたのか、ナツさんが悪態をつき始めるようなため息をついた。


「はぁ。断ればいいのによお......」


「私がどんな案件受けようが勝手でしょ? 文句言わないで」


「......。わかってるよ。だが、あいつは、名月は何考えてるかわからない。気を付けろよ」


「言っても、いままでの危険と隣り合わせの廃ダンジョンよりマシでしょ? 帰還用のブローチももらったし、なんとかなるっしょ!」


そう言って、私はドローンを飛ばして配信を始めた。すでに取っていた枠だったので、コメントは配信前から大盛り上がり。初めての企業案件てのもあるけど......。


:うおおお! 新ダンジョンオープンだと!!?

:興味ある

:どうせ配信者の食い物になって終わり

:俺らは見る専だから


『みなさん、こんつば~! 探索つばっちゃんの廃ダンジョン探索! 今日は、案件です! 小椋不動産様より、新規ダンジョン『京の廃ダンジョン』というコンセプトダンジョンが鞍馬にオープン致します! パチパチパチ!』


:ほおおお!

:さすが、ダンジョン不動産王

:オワコンなりかけなのによく探してくるな


『そのプレオープンに招待していただいたので、早速潜っていきたいと思います!』


私達はダンジョンの入り口から入っていくと、ボロボロな壁やコケが生えた床が廃ダンジョンに近い。けど、照明があり周囲が見やすい。あとは、敵が湧いてない? 少し静かだ。


『......静かね』


『なんていうか、気味悪いな』


静かな道を進んでいくと大きな影が、ずるずると引きずったような音を立てながら前を横切った。


『ねえ見た? 見た?』


:見た見た!

:知らんモンスター来た!


『あれ、なに?』


『俺が知るか』


まあ、知ってるわけないか。ただ、この機会を逃すと出くわす気がしない......。


『あの不明生物に迫ってみるか!』


私達はさっきの生物を追いかけるように曲がり、進んでいった。モンスターが手前に迫る。黒く、大きいもののこちらに気付いていないようだ。


『なんか、山みてえだな......。』


洞窟の天井に頭がつきそうな徘徊者は、こちらを気にも留めず、進んでいく。ここで、私は鞭を天井にひっかけて、それを補助に使いながら壁を伝ってモンスターを越えて行く。近くでその背中を見ると、ダンジョンと同じように緑色のコケが生えていた。頭には角が生えていて、ゴブリンに近い雰囲気だった。


『多分、こいつゴブリンだわ』


『これがかぁ!? デカすぎんだろ!』


どのゴブリン種でもなさそうだ。やっぱり、徘徊者として進化した? にしても、あの腕の長さはなんなんだ? それに、眼も......。あれは、あると言っていいの?


『どうした! 椿!』


『倒せるの? これ......』


それを見つめるごとに、私の戦意は削られていくのがわかる。足が震え、動かない。


「メツ......」


クソでかゴブリンから、鳴き声?のようなものが聞こえた。滅?

ま、まさか!?


「レタ......! レタ! ハイ、レタ!!」


私の頭をグッと掴み、持ち上げる。私の身体に力が入らない。逃げ出さないといけないのに......。頭が締め付けられていく。は、鼻血が......。


『チッ......』


舌打ちの瞬間、後ろからナツさんの剣がそのゴブリンの首を捉えて落としていった。

ゴブリンの手の力が抜けて、私が落ちて行く。それをナツさんが抱きしめてくれて助けた。いつもこうだ。


『だから嫌なんだ。なんの習性も知らない徘徊者のいるところは......』


やっと私の意識が正気に戻っていく。はっきりとしていく意識の中で、あの怪異の言動を思い出した。その心当たりを探していると、一つの回答を思いついた。


『多分あれ、ヤマノケって奴が徘徊者化したんじゃないかな......。ほら、入れた入れたって奴......』


『......。人の噂がダンジョンで具現化したってことかぁ? なら、ここは天狗もいるかもしれんな。鞍馬は天狗が有名なんだ。多分、相当いるぜ。こりゃ、厄介だな』


ヤマノケの次は天狗? また、私の精神がおかしくならなければいいけど......。

気を付けろよとナツさんに念押しされながら、私達は先へ進んでいく。

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