超イケメン男子たちと、ナイショで同居することになりました!?
またり鈴春
第1話 男子四人と、女子一人⁉
茶色のセミロングヘアをフワフワ揺らしながら。私こと千里(ちさと)ひなるは、まだ新しさが残る校舎を、先生から案内されていた。
「あなたが繰り上げ合格になったラッキーガールなのね」
「はい! 本当に嬉しいです!」
二月初め。可愛い制服で有名な「私立南都中学校」を二月受験した。数年前まで「私立冬夏(ふゆか)中学校」という名前だったんだけど、生徒数が多すぎて学校は半分コされることに。そして「南都(なつ)中学校」と「普由(ふゆ)中学校」が誕生した。
勉強を重んじる普由中学校。好きな事を極める南都中学校。
私は「とある理由」から、南都中学校を受験した。だけど結果は「不合格」。憧れの中学校だっただけに、通知を見た時は号泣だった。落ち込む私にチャンスが回ってきたのは、通知を受け取った数日後。
お母さんのスマホに電話がかかってきて「繰り上げ合格になった」って分かった!
「お母様も喜ばれたでしょう?」
「はい! といっても、不合格と思っていたのに急に合格になったので、気持ちが追い付かなくて……」
お母さんと二人、頭にハテナを浮かべながら入学手続きに行ったことを覚えている。本当に本当? これは夢? なんて。頭の中で、何度も問いかけた。
「でも事実だからね。今日からあなたも南都中学校の生徒よ」
「はい!」
「ふふ。いい笑顔ね」
もしかしたら一生分の運を使い果たしたかもしれない。だけど後悔はなかった。だって本気で私はこの学校に入学したかったから。
「先生、お聞きしたいことがあるのですが」
「何かしら?」
「この学校に入ったら、好きな部活を作って良いんですよね?」
これこそが、私が南都中学校を受験した理由。私の中学校生活でやりたいこと!
「えぇ、好きな部活を作っていいわよ。ただし条件があってね……あぁ!!」
いきなり大きな声を出した先生は、先生用のタブレットを操作していた。見るからに慌てている感じ。どうかしたのかな?
「い、いいい、今から千里さんの部屋を案内するわね!」
「お願いします?」
先生の横顔を流れる汗。それに気づくことなく、私は隣を歩いた。南都中学校と普由中学校は「共同の寮」があり、希望者は寮で生活することが出来る。県外から受験する子もいるから、意外に多くの寮生が集まるらしい。私もその一人。
だから入学手続きの時に「寮希望」って学校に伝えていたの。だけど、校舎を出て寮に向かう先生の足取りはおぼつかない。ばかりか、寮館に入ったというのに、女子寮からどんどん離れて行く。なんで遠ざかっているんだろう?
「はい。到着しましたよ~……」
「わぁ! さすが四人部屋だけあって大きいですね! でも、どうして女子寮じゃなくて特別寮なんですか?」
特別寮って、寮母さんが寝泊まりするところじゃなかったっけ? しかも寮にしては豪華だし、大きいような。不思議がる私をスルーした先生は「いい?開けるわね?」と。何度も確認した後、ゆっくりとドアを開けた。
「は? なんで女子がいるの?」
「え……だ、男子⁉」
勢いよく扉を閉める。
「先生、お聞きしたいことがあるのですが」
「な、何かしら~?」
真っ白になった頭をなんとかしゃっきりさせ、先生を見る。すると私が喋るより早く、先生がタブレットの画面を私に見せた。
「ごめんね千里さん! 学校側のミスで、女子寮にあなたのお部屋がないの!」
「へ、ええ⁉」
見ると、映画のチケットを買う時の座席シートみたいに。女子寮すべての部屋が「満員」と赤字で書かれている。じゃあ私、寮に入れないって事⁉
「困ります先生! 私の実家は電車で三時間かかるんです!」
「でも退学も嫌よね⁉」
「もちろんです!」
即答すると、先生はホッと胸を撫で下ろす。そして「皆にはナイショよ?」と、もう一度ドアを開けた。するとさっきの男子の他に、新たに三人の男子が立っているという、とんでもない光景。
「この四人の男子ってイケメンでしょ? だから普通寮にいると大変なことになるの」
「た、大変なこと?」
すると、男子の一人が「ん~」と腕を組む。口角は上がっているけど、眉は下がっていた。背が高い。先輩かな?
「部屋の私物がなくなってたり、寮専用の食堂でも大混雑を起こしたり……とかかな?」
「つまり、女子に好かれて大変ってことですか?」
「そういうことだね~」
そんな漫画みたいな世界が存在するんだ。しかも、この学校で。だけど先生の言う通り、目の前にいる四人はとってもカッコイイ。イケメン中のイケメンだ。学校の女子が放っておかないのも分かる。それほどのイケメン。
「でも、この子たちも実家が遠くてね。寮を利用せざるを得ないの。だから、他の生徒が絶対来ない特別寮を、この子たちが住む部屋にしてるのよ」
「それはそれは大変ですね。ん?まさか私がここに来た理由って……」
ギギギと、サビたロボットのようにぎこちなく頭を動かす。すると目が合った先生は、ニッコリと。とっても眩しい笑顔で私を見つめ返した。
「そう! 千里さんの部屋も、いっそココにしちゃおうってね!」
「えぇ⁉ 困りますよ! 私これでも一応、女の子ですよ⁉」
すると、最初に会った男子がポツリと呟く。
「全くそそられないから安心して」
「それはそれで傷つきます……っ」
クールそうな人だけど毒舌だなぁ。ちょっと苦手なタイプだ。
「あら? もしかしてケンカ?うーん、困ったわねぇ。一応、理事長にも相談してOKをもらったのだけど」
「理事長がOKを出しちゃったんですか⁉」
男女一緒だよ⁉ 本当にそれでいいの⁉
すると男子の中で、一番落ち着きありそうな人が前に出る。
「理事長がOK出したということは〝一緒に住んで大丈夫〟と判断したって事ですよね。なら……責任とって、五人でこの寮を使います。あなたも――さっき〝退学は嫌〟と言っていたし、それでいいかな?」
「あら、さすが氷上くん! フユ校の生徒会長がそう言ってくれると安心するわ。じゃあお願いね。千里さんの荷物は、後からここへ持ってくるから心配しないでね。じゃあね~!」
「え、ちょ……追いていかないで、先生ー!」
思い切り伸ばした手が空を切る。残ったのはイケメン四人と私。なぜこんな事に!
「まぁ決まっちゃったもんは仕方ないし。これからよろしくね! 向こうで自己紹介しよう。この部屋のルールも教えるよ~」
「はい……」
肩を落としながら、背の高い先輩に連れられ移動する。その時、スマホを手に持った吊り目の男子と目が合った。
「うぜ」
「へ?」
いきなり悪口を言われ、プイと顔をそらされた。えぇ、そりゃないよ……。私だって混乱しているのに、歓迎されていないと知ったら、さらに気分が下がっちゃう。だけど「ここに座って」と招かれた先で。まぶしいほどのイケメンたちが、そろって私を見る。
「ようこそ~、俺たちしか知らない特別寮へ!」
「女がいるなんて面倒くせぇな」
「こーら。ごめん、気を悪くしないでね」
「……早く座ったら?」
うぅ、こんなイケメンたちと同じ部屋なんて……。私の憧れの中学校ライフ、一体どうなっちゃうのー!
リビングに移動した後。テーブルを囲んで、それぞれの椅子に座った。幸運なことに椅子の余りがあったらしく、私も座ることが出来ている。のだけど……皆からの視線が痛すぎる。
「ったく、ただでさえ相部屋でむさくるしいのに。女子にまで気を遣うとか冗談じゃねぇ」
「口が悪いよ。この子が希望した事じゃないって、さっきのやりとりで分かったはずだよ」
「ふん」
ケンカが起きそうな雰囲気が漂ってる。ここは早く自己紹介してお開きにしよう!
「千里ひなるです。好きな食べ物はおかしで、好きな事はおかしを作ることです」
「おかしの情報が多くない~?」
「好きなんです」
食いしん坊って思われたかな? カァッと顔を赤くした私に、優しい笑みを浮かべた人が質問した。
「千里さんはナツ校なんだよね?」
「〝ナツ校〟?」
「ここでは南都中学校のことをナツ校と呼び、普由中学校のことをフユ校と呼ぶんだよ」
「なるほど!」
そう言えば、この寮館は二校共同だった。
「私はナツ校です。一年三組です」
「……げ」
イケメンの一人が、私を見ながら顔を歪める。私が一番最初に見たイケメンだ。黒い髪に、すっきした鼻筋。薄い唇に、切れ長の瞳。袖から筋肉質な腕がのぞいている。何かスポーツをやってるのかな?
「俺は四条(しじょう)葵(あおい)。ナツ校、一年三組」
「私と一緒だねっ」
「……」
「なんで黙るの!」
「私と同じクラス」と聞き、明らかに落ち込んだ表情の四条くん。そんなあからさまな態度はショックだよ。でも……無理もないか。寮だけでなく教室まで一緒って、気を遣うよね。って、私が悪いわけじゃないけど!
すると、次に背の高い先輩が手を挙げた。何度か私をフォローしてくれた人だ。明るい髪色に加え、少したれ目で近づきやすい雰囲気。
「俺は遊馬(あすま)七海(ななみ)。ナツ校、二年一組。副生徒会長をやってるよ~」
「同じ学校なんですね。二年生で副生徒会長ってスゴイです」
「誰もやりたがらなかっただけだよ~」
皆が嫌がることを引き受けたのかな?だとしたら、スゴイ立派な人だ。さっき私も助けられたし、遊馬先輩は親切な人なんだろうな――と思っていたのに。私と隣同士であるのをいいことに、テーブルに置いた私の手を遊馬先輩が握る。
「もしも困ったことがあったら俺を頼りなね? いつでも手取り足取り教えるから!」
瞳をキラキラさせながら。まるでおにぎりを握るように、ギュッギュッと私の手を握る先輩。親切だけど軽い人だな……。
「その時があれば、お願いします」
「ちぇ~。そんな勢いよく手を振り払わなくても」
口を尖らす遊馬先輩だけど、私の心臓はバクバク! 男子から手を握られるって初めてだもん。その後も遊馬先輩と攻防戦をしていると、ダンッと大きな音がする。見ると、あのつり目の男子がテーブルを叩いていた。
「……フユ校。一年C組。白石(しらいし)翼(つばさ)」
「フユ校はABCでクラス分けをしているんだね」
「チッ」
なんで舌打ち⁉ 怖いよ、白石くんが怖いよ! 銀髪? 白髪? だし、黒いピアスしてるし! もしかして白石くんって不良⁉
た、助けて四条くん!
同じクラスの四条くんに助けを求めると、さも「お前が悪い」と言わんばかりに。盛大にため息をつかれた。舌打ちされたのは私なのに!
すると冷え切った空気を、さらに凍らせる冷たい声が響く。
「この寮では絶対うるさくすんなよ。分かったか?」
白石くんの後ろに鬼が見える……!あまりの迫力に頷く事しかできなかった。すると遊馬先輩が「つれないなぁ」とヤレヤレのポーズをとる。
「翼クンってば、すぐに〝うるさい〟だの〝黙れ〟だの。そんなんじゃ女の子にモテないよ~?」
その言葉に反応したのは、白石くんではなかった。あの柔らかい笑みを浮かべる人だ。
「入学手続きで翼くんを見たけど、女子からの反応は満更でもなかったよ」
「翼クンってモテるの? うそー! 意外だよ!」
「だー、もう。うっさい! 紫温さんも黙って!」
「紫温さん」と呼ばれた人は、メガネをかけたら似合いそうな、スラッとした顔だちだ。先生から「フユ校の生徒会長」って言われてたっけ。遊馬先輩と同じくらい背が高い。というか、イケメン全員が高身長。ハイレベルな領域。
「三年A組、氷上紫温。フユ校で生徒会長をやっているよ」
「ってことはフユ校の生徒会長に、ナツ校の副生徒会長が、同じ寮にいるって事ですか。なんかスゴイですね!」
拍手しながら言うと、遊馬先輩は笑った。
「副生徒会長っていってもさぁ、ナツ校の生徒会長は今ボイコット中。だから俺が生徒会長代理で〝合同会議〟に出てるんだよ~。もう最悪!」
「合同会議?」
「校舎は分かれているけど、部活を始め文化祭や体育祭は合同で行うんだよ。そういう打ち合わせを、二校揃って定期的に行ってる。それが合同会議」
「なるほど、大変そうですね」
すると遊馬先輩の顔に、影が落ちる。
「紫温くん全く手加減してくれないんだもん。俺ってまだ二年生よ? だから次の会議は譲ってよ。〝体育祭の予算もぎ取ってこい〟ってナツ校の奴らから言われてるんだって~!」
「そう言われても、俺はまだ本気を出してないんだけどね」
「わー! 真顔で言うのやめて!えぐいから~!」
どうやら私のことは忘れてしまったらしく、二人は生徒会の話で盛り上がっていた。そんな姿を見た白石くんは、無言で席を立ちリビングを離れる。
……このまま解散? まだ何の説明も聞いてないよ⁉ だけど白石くんにならって、四条くんも席を立つ。待って待って。四条くんまでいなくなっちゃったら、私……!
パシッ
「……なに?」
「あの、その~」
急いで追いかけ、離れていく四条くんの手を握った。だけど返ってきたのは、表情一つ変わらないクールな四条くん。
「ごめん、何でもないっ」
「……」
クールな雰囲気に負けてしまい「寮を案内して」と言い出せない。そんな私を見て、四条くんは「はぁ」とため息をついた。
「おいで。中を案内するから」
私が握った手をスルリとほどき、四条くんは先を歩いた。案内してくれるんだ……。意外に優しい人なのかな。
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