大嫌いな私を見る君へ

花碧怜

私のコト

私は話すのが苦手だ。話しかけられても咄嗟に良い言葉が出てこない。うまく言葉を出せない。話そうと思っても一歩踏み出せない。私は、そんな自分が嫌いだ。大嫌いだ。



「ねぇねぇ、今日遊びに行こうよ! 美優も暇だよね!?」

「良いけど。風香はどうするの?」

「わ、わわ私は,,「ねえ!そんなことよりもこの動画がさ,,,」」

あぁ、またか、と内心思う。私は話すことがうまくできない。いつからかはわからないが、私は人と話すことができなくなった。話せたとしても言葉に詰まってしまう。

でも、そんな私に唯一話しかけてくれた2人。花恋ちゃんと風香ちゃんだ。花恋ちゃんは今どきの女子という感じで元気溌剌、風香ちゃんは大人美人という感じでとても大人っぽい。しかし、私はこの幼馴染の善意につけこんでいさせてもらっているだけの存在でしかない。息苦しい、と思う。

「風香もみてよ〜! 超可愛くない!?」

ハッとして

「う、うん。可愛いね。」

「でしょ〜」

いつまで続くのかわからない、プールで溺れたときのような感覚がずっと離れない。


「じゃぁ、またね〜」

「う、うん」

私が唯一気が楽な時間。文理選択のときの移動教室だ。私だけが理系を選んだ。その時、花恋ちゃんは『なんで?』という顔をしていたけど、結局口には出していなかった。

チャイムが鳴り授業が始まった。


「おい、教科書見せろ。」

急に横から声がかかった。その人物とは、学校で一匹狼だと噂の海里くんだった。

しかし、顔が整っていると言おうことから学校では隠れファンが多い。花恋ちゃんもその一人だ。

「きいてんのか?」

しまった、ボーットしてしまっていた。

「き、きいてるよ。また、教科書、忘れたの? い、いい加減持ってきなよ。」

と、言いながらもみせてあげた。海里くんとはほんの些細なきっかけで話すようになった。その理由はもう、覚えていない。

なぜだかはわからないが、海里くんといるときだけは息が楽になって、言葉もあまりつまらなくなる。


お昼休み、私は2人の話にたまに相槌を打ちながらお弁当を食べていた。けれど、2人が話すのは、TikTokやInstagramの話ばかりで、話の内容の半分もわからなかった。

しかし今日は変わったことがおきた。

「花江ってやついるかー!」

体が硬直した気がした。花江は私の苗字だ

「風香呼ばれてるってよ」

花恋ちゃんがキラキラとした好奇心旺盛な目でこちらをみてきた。

『いかないの?』と美優ちゃんがこちらを振り向いた。私は手に力を入れて行く決心をした。

クラスメイトみんなの声が、目が、こちらに向いているような感じがする。まるで、針山を綱1本で命ちずなをつけずに渡っているような感覚に陥った。なんとか、廊下まで行くことができた。息が浅くてクラクラする。頑張って顔を上げてみると、そこには話したことも見たこともない男の子がいた。

「あの!花江風香さんですよね!?」

大きな声にビック、と体が動いた。

「は、はい。そうです」

「よかったら、移動して話してもいいですか?」

「わ、わかりました」


放心して気づかなかったが、体育館まで来ていたらしい。

「あの!」

「は、はい。」

「俺、ずっと花江さんのことが好きでした!友達からでいいので、仲良くしてくれませんか!?」

シーン、と世の中から一瞬隔絶されたように音が消えた気がした。

どうゆうことだろう。なぜ、という思いで頭の中で一杯になった。しかし、なにかかわれるきっかけになるのではないかと、ふと頭の中をよぎった。

「、、、わ、わかりました。友達からなら、い、良いですよ。」

「本当ですか!?」

「はい。」

その男の子は、花が開いたように笑った。そして、私はそういえば、この子の名前をきいていないことに気がついた。

「あ、あの。」

「はい!何ですか!」

「な、名前、、、」

そうして焦ったように、

「俺の名前は、佐藤和樹です!よろしくお願いします。」

と言ってきた。この変化が、私にとっての良い風となる気がした。


教室に戻ると早速、花恋ちゃんが興味津々という顔でこちらに来た。

「ねぇねぇ、風香。何があったの?さっきの佐藤和樹でしょ? かっこよくて、サッカー部のエースの人だから結構噂になってるよ〜」

花恋ちゃんは、さながら芸能人のスキャンダルを追いかけるようなマスコミのように迫って来た。

私は困惑と呆れの間にたっているようになった。なぜなら、花恋ちゃんはいつも私の話に興味がなく、自分の話しかしないからだ。

「花恋やめな。」

困っていると美優ちゃんが助け舟を出してくれた。正直いってとても、ホッとした。肩の力が抜けたような気がした。花恋ちゃんは、恋話がとても大好きなのだ。それに捕まっている人は、最後魂が抜けたようになっていたのを覚えている。

しかし、このときの私は浮足立っていたのだろう。告白のようなものを人生で初めてされたという、高揚感と優越感で思考が鈍っていたということもあり得る。あんなことになるとも知らず、、、


花恋ちゃんの興味も、推しのアイドルに移り変わった頃。

私は、普通のなんてことない日々の延長線上を過ごしていた。

「、、、ん。、、さん。花江さん。」

「は、はい!」

しまった。ボーッとしていた。

「ごみ捨て、行ってきてくれる?」

これは、お願いではなく確認に近いと、頭の何処かで思った。

「わ、わかりました。」


私が通っている高校は、ゴミ捨て場が体育館の裏にあり校門からとても離れているため、私のような肯定しかできない人や、真っ当な善人に押し付けられがちだ。そうして、物思いにふけっていると和樹くんが友達とゴミ捨て場の前でたむろしていた。

「お前、マジでよくやるよな〜!」

「それな!」

「うるせぇってw 仕方ねぇだろ、テストで一番悪い点取ったやつが、告白するって決まりだったんだからよ。」

「マジ不憫だわぁ〜。で、実際どうなの? いい感じ?」

「めっちゃいい感じ。あいつさ、俺が本当に好きだと思ってやがんの。そんな、罰ゲームでもなかったら、あんな地味でこれといって可愛くもねぇ、特徴もねぇ女なんかに告白するかよw」

「お前、最低〜」

「ていうか、これみてみろよ、、、」

頭がなにか重たい石でガツンと殴られたような衝撃があった。私は、その場からなにかに取り憑かれたように走って、走って、走った。まるで、なにか不気味なものを振り払うように。現実を見ないようにするために。


あれからどれくらい走っただろうか。頭の中はいろいろなことでぐちゃぐちゃだ。

裏切られた、恥ずかしい、悔しい、惨め、本当に現実なのか、と考えても考えても答えは出てこない。でも、やっぱり一番頭の中を埋め尽くしたのは、やはり、という感情だった。私なんか地味で、これといって特徴もなく、話せないそんな私なんかを好きになるはずがない。もう何も考えたくない。いっそのこと誰も信じないまま生きていこうかと思い始めていた頃、彼は来た。

「花江! お前、大丈夫か!?」

「海里くん、、、」

なぜ彼がいるのだろうか、と疑問で頭がいっぱいになった。

「な、なんでいるの?」

「お前が、ゴミ捨て場から泣きながら走ってくるのが見えたから。心配になって来てみたんだよ。」

彼は、ツンっと言い放った。その言葉に私は、感謝よりも羞恥ががった。

泣いているところを見られてしまった。恥ずかしいところを見せてしまった、と次々と羞恥が私の体を襲ってきて、体の熱という熱が顔に集まるようだった。

「お前が、なんで泣いているのかはわかんねぇし、言いたくないなら言わなくても良い。けど、頼れよ。俺を頼ってくれよ。俺達、授業で隣の席になるだけの関係だけど、それくらいの信頼関係はあるだろ。」

彼らしいぶっきらぼうで何処か優しい言葉に少し救われた気がした。

「うん。うん。ありがとう。」

「おう。」

「ねぇ、私の話、聞いてくれる?」

彼は何も言わなかった。代わりに私の隣に座った。


なんとなくだが、私が話せなくなった理由は小学生の頃何気なく言われた言葉が原因だったような気がする。

その頃の私は、今の私と違い元気溌剌という感じで、よく男の子に混ざってドッチボールや喧嘩をしていた。

そんなある日のことだ、女子同士で喧嘩をしていたため、私は喧嘩は悪いことだ、自分の考えは間違っていないんだとでも言うように、仲裁に入った。次第にその子達の標的が私に成り代わっていた。今思えば私の言葉にムカついたのだろう。そうすると1人の女の子が私に対して、

「風香ちゃんてさ〜、いっつも正義ずらして話に割って入ってくるけど、楽しいの?」

と言われた。私は一瞬何をいっているかがわからなかった。そうして、段々とその言葉を理解していくうちに思わずカッとなって

「そんなわけ無いじゃん! そっちが間違ったことしてるだけだもん。私は正しいことをしてるの!」

その言葉がきっかけだった。次第に私の周りには誰もいなくなっていた。そうしてある時気付いたのだ、私は話さなければ友達も、信頼も失わずにすんだのだ。ということに。そのため、中学では極力自分の意見を言わず、肯定をするようにした。また、一人にならないように。孤独と戦わなくてすむように。だが、そうしていくうちに本当の自分がわからなくなった。そうして、私は話すことができなくなった。


「、、、ってことがあったの。だ、だから私は話すことができないの。」

こんな話を聞いて彼はどう思うだろうか。呆れただろうか。失望しただろうか。心配と不安で頭の中がいっぱいになった。

そうして彼は、少し間をおいて、こういった。

「それ、お前が悪い部分もあったかもだけど、相手の逆恨みじゃん」

彼は何をいっているのだろうか。思考が追いつかなかった。しかし、彼はどんどん言葉を積み重ねていく。

「だって、お前は喧嘩を止めようとしたんだろ。いいじゃん。俺は好きだけど。そういうの。お前が相手を見下してないことくらい関わっていればわかるし、それがわかんないやつなんて、こっちから捨てちまえ。お前の良いところを知ってくれている友達といれば良いんだよ。」

ぱっと、視界が弾けるようだった。そして、彼の言葉一つ一つが心の奥深くに染み込んで、なにかよくわからない感情までもが私の体を取り巻いているようだった。しかし、そういっても、不安はまだ私の心の奥深くに巣を作っている。

「本当に?ほ、本当に、”ありのままの私”をだしても嫌いにならない?軽蔑しない?」

「しない。」

彼は半ば私の言葉を遮るように言ってきた。そうして私に勇気を出せとでも言うように

「少なくとも俺は嫌いにはならないし、軽蔑もしない。俺は、お前がお前らしくいれるのが一番良いと思うからな。現に、俺だって結構なヤツだけど、嫌われてないだろ。 、、、多分。」

そんな自虐みたいなことを彼は内心で考えているとは思わなかった。なにより純粋に驚いた。しかし、クールでかっこいい彼の可愛らしいところに思わず笑ってしまった。

「ふふっ。確かにね。」

「やっと、笑ったな。」

彼はその言葉を言っているときにとても優しい目をしていた。その目に見つめられていると思うと全身の血が沸騰しているように熱くなった。そして、私は急いで話を変えたくなった。

「そ、そう、そうだね。私が、罰ゲームの告白相手になったのだって、相手の勝手な行動だし。悩むことないよね!」

海里くんは、私の言葉を聞くと焦ったように、「罰ゲーム?告白?」と呟いていた。そういえば、海里くんに言うのを忘れていた。しかしそんなことは今の私にとってはどうでも良かった。

「ありがとう、海里くん。私頑張ってみるね!」

なんとなく体を縛って動けなくしていた、重い重い鎖がとれたような気がした。

私は一歩を踏み出した。花恋ちゃんと美優ちゃんに本当の”私”を伝えるために。


校舎の中を走っていると、昇降口で美優ちゃんを見つけた。ちょうど帰るところだったようだ。

私は焦って、いつもでは出ないような声を出した。

「美優ちゃん!」

美優ちゃんがこちらをバッと振り返って、声の主を見つけると、驚愕の顔を浮かべた。きっと、いつもは、話さない私が大きな声で名前を読んでいるのを聞いて驚いたのだろう。美優ちゃんが口を開くよりも早く私は話した。

「わ、私は! 本当はワガママで自己中心的で、花恋ちゃんみたいにおしゃれでもないし話すことも苦手だけど! こんな私でも友達でいてくれる?受け入れてくれる?」

シーンと全世界が沈黙したよな時間が流れた。

「当たり前じゃん。そんなのわかってたし。」

「えっ。」

「だって、風香、嫌なところでは絶対に頷かなかったし。」

美優ちゃんはあっけらかんと、まるで今日の晩御飯はカレーですというような顔で言ってきた。驚いた。風香ちゃんが知っていたなんて。しかしそれよりも、美優ちゃんが私の本性を知っていてまで一緒にいてくれたという事実に嬉しくなった。

「何に後ろめたさを感じているのか知らないけこ、風香のやりたいようにしたら良いんじゃない。好きにしなよ。」

一見突き放すような言い方だけど、私のことを心配して言っているということが言葉の端々から感じることができた。

「うん、好きにするね。」

そうして、昇降口が日の入りする太陽が私達の影をつくるなかで、私達は笑いあった。


私は次に花恋ちゃんを探しに校舎の中を走った。風香ちゃんは心配だからと私に付き添ってくれている。そうしていると、教室にいる花恋ちゃんの姿を見つけた。いつものようにスマホをじっと見ている。私は鼓動が早くなるのを感じながら、教室の中へ足を踏み入れた。

「か、花恋ちゃん。」

私が名前を呼ぶと、花恋ちゃんは気だるけそうにこちらを振り向いた。

「あれ、風香じゃん。美優もいる。どうしたの〜?」

私は、必死に言葉を集めようとした。

「そういえばさ〜。この前言ってたパンケーキ屋さん今日、学生限定でフルーツか生クリーム倍増だって!今からいかない?」

しかし、花恋ちゃんの言葉に一歩踏み出せていた”私”が隠れていくような感覚がした。

「う、うん。私は良いよ。」

あぁ、こんなんじゃだめだと言うのは頭ではわかっていても、体がゆうことを聞かない。どうしようと、焦りで思考が支配されそうになったとき、不意に美優ちゃんが背中をポンっと押してくれた。それはさながら、頑張れ、と私を応援してくれているようだった。よっし、と深く深呼吸をして私は、踏み出した。

「花恋ちゃん。あのね、私のこと聞いてくれる?」

「ん〜。な〜に?」

「あ、あのね私ね。本当は、花恋ちゃんが好きなアイドルとかよりも、動物のほうが好きだし、遊ぶときは、屋内のほうが好き。あと、本当は、私が話しているときも遮ってほしくない。」

私は必死に言葉を紡いだ。だが花恋ちゃんの表情が怖くて顔を上げることができない。そうしていると、不意にため息が聞こえてきた。

「じゃあ何?風香は私とは関わりたくないってこと?」

「違う! さっき言ったことは本当! でも私は花恋ちゃんと仲良くしたい。だって、花恋ちゃんは、おしゃれで可愛くて、おしゃべりも上手でモテるし、美人だし。 だから、花恋ちゃんは私のあこがれなの!」

勘違いされたくなくて、仲良くしたくて、今まで出したことがない声と速さで私は言った。

フッと、花恋ちゃんを見てみると、大きな目が今にもこぼれ落ちてきそうなほど大きく開いていた。

そうして、少しの沈黙のあと、どちらからともなく少しの笑みがこぼれ落ちた。そしてそれは段々と大きくてキレイな花が咲くように辺りをあたたかくさせた。笑いも収まった頃、唐突に花恋ちゃんをが爆弾を落としてきた。

「風香。私ね、知ってたんだよ。 風香が無理していること。」

「えっ、、、! いつから気づいてたの?」

花恋ちゃんはいたずっらこのような顔で、

「う〜ん。 大体あってから、1週間くらいかな。」

「そんなに早く。な、なんで気づいたの?」

「だって、風香わかりやすいんだもん。嫌そうだなぁ〜とか、今日元気そ〜とか顔に結構出てたし。ね!美優!」

「そうだね。結構わかりやすかった。」

私は、驚きで一瞬体が固まった。そして、体の熱が顔に集まってくるのがわかった。恥ずかしい、とはこのようなことを言うのだろうか。

「私、そんなに表情に出てた、、、?」

「「ででた よ〜/ね」」

二人は同じ言葉をハモっていった。そうして、談笑していると花恋ちゃんが思い出したように

「ていうか、風香! これからはちゃんと言いたいこと言ってよね〜」

「えっ。」

「えっ、じゃない。花恋も少しは自制しなさい。風香も構わずじゃんじゃん言いたいこといって良いんだからね。言わないとわかんないんだから。」

私は、胸のうちがジーンと暖かくなるような気がした。

「うん。うん。言うね。ちゃんと、言いたいこと言うね。まだなれないけど。」

「別に良いんだよ〜。風香のペースで。ていうか、やっとその言葉聞けた。単純に嬉しい。」

私は唐突に気付いた。気づかされてしまった。こんなにも簡単なことで良かったのかと。一歩踏み出せばこんなに息が楽な世界に変わるのだと。視界が滲む。でもこれは、悲しい涙ではなく、嬉しく尊い涙だと心の何処かで思う。

あたたかな日に私達は包まれて、私達は花を咲かせた。


二人と話した後の帰り道、私はまだ高揚感でふわふわとした感覚に包まれていた。すると急に声がかかった。

「おい、花江。」

そこには彼がいた。

「海里くん、、、」

どうしているのだろうか。という疑問が頭でいっぱいになったが、彼が答えをいってくれた。

「お前のことが心配で待ってた。ちゃんと話せたか?」

「うん。話せたよ。」

「そうか。なら良かった。」

私達はどちらともなく、駅へ向かって歩き始めた。ポツリ、ポツリと彼にあったことを話していく。

「私、変われたかな?」

「かわれたんじゃね」

「そっか。」

そうしているうちに駅についたようだ。

「ねぇ、海里くん」

なんとなく名残惜しいような感じがして、つい彼を引き止めてしまった。

「何だ。」

せっかくなので、ずっと疑問に思っていたことを彼に聞いてみた。

「どうして、私にここまで良くしてくれるの?」

彼はぐっと何かが喉に詰まっているようだった。そうして、口を開閉させて、ついに諦めたように言った。

「俺は、昔の花江のことを知ってたんだよ。」

電車の音と街の騒音すら聞こえない二人の世界が一瞬できた。

彼は、昔の私を知っていた。でも、なんで今の私を助けることにつながるのだろうか。わからない、わからないと知恵熱が出そうなほどに考えた。なので素直に聞くことにした。

「なんで? 昔の私を知っていることと、今の私を知っているから助けることが一緒になるの?」

彼は困ったように打ち明けた。

「俺は、小学校の頃お前に助けられたんだよ。その頃の俺は体も小さくて、女男だってよくバカにされてた。けど、そんなときに花江が”やめな!”って助けてくれたんだ。誰も俺を見ないようにしていたのにさ。だから、高校で再開したときは驚いたし、一瞬疑った。けど、話していくうちに、これは花江だってわかった。少し頑固で、わかりやすい、そんな、俺の初恋の人。だから、助けようと思った。ただそれだけの話。」

彼はなんてこともないと言うように言い放った。しかし私は、頭がおいついていかない。けれど段々と彼が言っていること理解して、恥ずかしさと嬉しさで体が全身沸騰したようになった。ハクハクと言葉にならない言葉が出てきた。しかし、彼の言っていることを完全に理解したときに思ったのは、とても大きな幸福感だった。

「わ、私も、だよ。海里くんに助けられた。それにそんな海里くんのことが好きになったよ。きっかけがどうあれ、私は海里くんのことが好きだよ。」

「花江、、、」

そう私が言うと彼は、安心したような、嬉しそうな顔を浮かべた。

明るいまん丸の月と、やわらかい月光に見守られて、私達は手を結んだ。

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大嫌いな私を見る君へ 花碧怜 @202212

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