Artificial Horizon

三味線リレー

空の檻

プロローグ

かつてこの星には地上と言うものがあったらしい。


噂話程度に聞いたことがある、見果てぬ高さの岩石の塊が海に浮いていたり、見渡せない程の土の足場が広がっていたり。

—―——御伽噺の類だ


悠久の空に浮かぶ国家「メビウス」の狭い窓から水の星を眺めながら思いに耽る。

遥か昔に人知を超え自立稼働、自己進化、自己増殖する人工知能が統べるこの国は人の手を借りず200年の時を迎えていた。


「完全なる防衛元首……か」


そう呼ばれる人工知能の国家元首は国を確実に繁栄へと導き、他国の戦力を寄せ付けない防衛要塞を築いて国内の完全平和を愚鈍な人間達へ見せ付けている。


人は空へ昇り、地上と言うものを己が瞳で見たことがない程に時が経ち自身で考えることを止めた。

そんな中では人々が生きる意味を娯楽のみに見出すのはそう遅くなかった。


 仮想空戦エア・ダイブ


仮想とは言われているが実際の機体を遠隔操作にて操縦し空戦を体験するという、閉じた空で最大限自由を謳歌する娯楽が生まれた。


操縦者はベッドギアを装着し、専用シートでドローン化した空戦機を扱う。

ほぼ全国民が熱狂しているスポーツ競技と言っていいだろう。


俺もまたその熱狂の渦の中に飲まれていた。


「……見世物になるのは御免だけどな」


旧世代で煙草と呼ばれた嗜好品……に似た見た目の感覚増幅薬から紫煙を取り込みシートに座る。


「空にはまだ自由が……」


自問し起動する、翼を—―——

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