推しに押されて進む恋

またり鈴春

第1話 推しと、偶然の出会い

 私、小鈴ゆの。得意な科目は国語。苦手な科目は数学。髪型は茶色のボブヘアー。中学二年生の、とある秘密がある女の子。その秘密が何かっていうとね――


「わ~、今日に限って日直なんだもん。ツイてないよ~!」


 課題を職員室に持って行った放課後。イノシシのごとく全力ダッシュをして……いたら近くの先生に怒られたから、早歩きで教室に戻って来た、現在。急いでカバンの中からスマホを出し、素早く電源を入れる。あとは目当てのアイコンをタップするだけ!


≪やっほー皆。今日ココに俺が出てるってことは、何の教科を勉強するか分かるよね?そう、数学だよー≫


「わぁぁぁ、ジャストタイミング!推しが来たよ~!」


 もう教室には人がいないから、遠慮なく声に出す。目の前に押しがいる幸せ。世界のどこかで配信を行ってくれてるいという事実。それだけで、私の心が満たされていく……。


そう。私の「とある秘密」は、推しがいること。


 推しの名前は、ノア。動画配信サイトで有名なグループ『Neo-Flash』のメンバーの一人なんだよ! 何をしているグループかというとね、中学生に分かりやすい勉強解説の動画を配信してくれているの。


 Neo‐Flashのメンバーは、全員で四人。それぞれが国語・数学・理科・社会を担当していて、Neo‐Flashの動画を見れば塾いらずって言われるほど評価が高いんだよ。


「動画ではイラストだけの演出なんだけど、SNSを見ると、たまに部分実写が見られるんだよねぇ」


 顔出しはしてないけど、部分実写だけで確信できる「イケメン」の雰囲気!この前のピースした手なんて、とんでもない美肌だった。


「もしノアを目の前にしたらどうしよう、ちゃんと呼吸できる気がしない……」


 なんて言っているけど……。実は私、ノアと会ったことあるの。と言っても、「たぶん」の話。あくまで私の推測なんだけど――


 一週間前。その日はノアのライブ配信があったんだけど、出先で配信していたノアは「ちょっと待ってね」と言って、いきなり配信が切れた。もちろんリスナーの皆はすごく心配したんだけど、その心配を気遣ってか、ノアがSNSを更新したの。


【ちょっと雨が降って来たから、雨宿り。家に帰って改めて配信するね、ごめん】


 もちろんリスナーの皆、満場一致で「OK」って言った時。下校中の私も、ちょうど雨に降られていて、雨宿りしていたんだ。その間に、もう一度ノアがSNSを更新したの。


【どこかの壁に、もたれる俺】


 その一文と一緒に、頭からフードを被った、ノアの見切れた写真が投稿された。もちろん、顔は全く写ってない。「あーあ残念。でも雰囲気までカッコイイな」って思っていたんだけど……気づいたの。


 背景の壁が、私の背後にある壁とソックリだって事に。少し離れた場所に、フードを被った男の人がいる事に。

 

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