Thread 04|消える者

「時々ね、人が消えるんだよ…この会社。」

俺の顔を覗き込むように言ったのは、経理の藤原さんだった。


藤原さんは、社内の情報ツウで噂好き、世話好き。

何かと皆に頼られ、困っているとすぐに首を突っ込んでくる。


俺が昼休みに社内資料を調べていると、「最近変なこと調べてるでしょ」と声をかけてきた。

「深く掘らない方がいいよ」と休憩室の隅に俺を誘い、低く続けた。

「もう何人目かわからないけど、最初は営業の新人さんだったかな。急に来なくなってね、いつのまにか名前も記録ものよ」

──美咲のことか?と聞くと、藤原さんは首を振った。

「違うよ。もっと前からある噂だよ」


噂──。

その言葉が、耳の奥に引っかかった。


その日から、俺は“社内の怪談”を探し始めた。

掲示板のログ、古いファイル、飲み会での酔った先輩たちの言葉──

やがて一つのキーワードに行き着く。

『消える者』


それは、ある日突然、記録も、記憶も、証拠も"存在ごと消える"都市伝説。

──まるで最初から「いなかった」ように。

それでもなぜか、“覚えている者”が少数だけ残るらしい。

彼らは口を揃えて言う。

「気づいたら、もう戻れない」


美咲のメモが、脳裏に浮かぶ。──『気づいてしまった』。

彼女も、何かに気づいてしまったのだろうか。


翌朝、美咲の席にはもう別の誰かが座っていた。

まるで最初から、彼女が存在しなかったみたいに。

でも、俺は忘れない。

あの日、「じゃあ、また明日」と笑った彼女の姿を。

たとえ、世界がそれをにしようとしても── 。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る