短編小説 もう一度あの公園で

@katakurayuuki

もう一度あの公園で

「今日はここら辺にするか」

 一人軽トラを走らせながら目当ての学校があったので近くにある空地に車を止めた。

 防塵マスクをし、安全靴はき、ヘルメットをかぶりながら準備を整える。

 一通り身体を覆い終わったら外に出る。そこには人っ子一人いない世界があった。

 20XX年。この国は戦争と災害に巻き込まれ大疎開が始まった。それでも動けない人は残ったが、地域の維持はできず、こうやって誰もいない街が出来上がるのだ。

 そこに金になるものを集めに行くのが俺になる。人は俺らの事をスカベンジャーと呼ぶ。

 まぁなんとでも呼べばいい。どうにかして人は生きていかなくちゃいけないんだ。

 地域を物色していると目印の学校に着いた。

 学校の周りの電柱には赤や青など色とりどりの紐がつなげられたままだった。

 まず戦争から始まった。しかも各地では運動会が開かれている時だった。だからその名残で学校には開催されずに終わった運動会の設備がそのまま朽ちるのを待っていた。

 地雷や爆発物が散布されてない地域であることを確かめると早速近くの家から金物を探し始めた。

 「失礼しますよっと」

 一応断りの挨拶を言ってから土足で家に上がる。

 ガラスをパキパキ踏みながら金目になるようなものを探す。すると家に写真がたくさん貼られているのが目に留まった。写真家だったのかわからないが、花と女性と男性が一緒に映った写真が多かった。きっと幸せな生活を送っていたのだろうと思わせられる写真だった。

 見回してると机の上に一冊のノートがあった。

 ほこりを払って見てみると夫婦の交換日記だった。

 プライバシーを見るのはわるいかなーって思いつつも、好奇心が勝ってしまいページをめくってみた。

 そこには予想道理の仲睦まじい夫婦の日記が書かれてあった。

 最後のページに着いた時、指が止まった。

 『もし、10年後も仲良く出来たならあなたがデートに誘ってくれたあの公園でもう一度デートしませんか?あの日、あの時のようにもう一度初々しい気持ちになって二人で楽しみましょう』

 そんな日はもう訪れない。

 そう思いつつも日付を見てみたらちょうど明日がその10年後だった。

 

 金目の物をだいたい軽トラに摘み終えた俺は一夜を過ごした後、そのまま帰るかどうか迷っていた。約束の日が今日だとして、誰も来るはずがないのだ。だが、どうにも気になる。車で行けばすぐだ。

 俺はあの花が好きな夫婦が待つ公園へと車を飛ばした。


 そこは何もなかった。

 地図上では公園だが何もかも爆弾で吹き飛んじまったらしい。

 花も夫婦も勿論ない。それは分かってる。それは分かってるが無性に腹が立ってきた。

 ここには仲睦まじい夫婦がくる場所だったのだ。ここは花が咲き乱れた憩いの公園だったのだ。それが何故このような目に合わないといけない。

 俺は怒りに突き動かされて地面を掘った。そして持ち帰り売るはずだった花のタネを一つづつ丁寧に植えて言った。

 かなり長い時間袋に入ったまんまの種を植えて、それで花が咲くかはわからない。それでも、俺はやらないと気が済まなかった。

 ここは菜はが咲く公園でないといけないのだ。


 息を整えて手持ちのタネを植えた元公園を眺めていた。

 意味のない行動かもしれない。でも、このどうしようもない世界に対して、俺はこうするべきなのだと思い、行動したのだ。

 満足した俺は、この公園がいつか花が咲き誇るのをイメージしてから車に乗り、仕事に戻るのだった。

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