18. よろしく、セシル
「千年前に、滅んだ……」
「どうして滅んだのか、詳細な記録は残っていない。一説によると、強力な魔物に襲われたとも言われているが」
――カイムは過去からタイムスリップしてきた?
――あるいは、とんでもなく寿命が長いとか?
――だとして、女神を恨む理由は?
――都市の滅亡と女神は関わっている?
仮説はいくつも浮かぶ。
けど、どれも想像の域を出ない。
何にせよ、普通じゃないことだけは確かだ。
……異世界人が言うのもなんだけど。
「彼に関しては謎が多すぎる。ヴァンガードとしては、慎重に捜査を進めるつもりだ」
女神を探す以上、あいつとの衝突は避けられないだろう。
そういえば、どうして試験会場を襲ったんだろうか。
「あの……一つ気になっていたんですが」
「なんだろう?」
「どうして彼らは試験会場を襲ったんですか? 命を奪われかけた当事者として、知っておきたくて」
「目的は訓練用ギアの奪取だろう。現場にあったはずの4本は、すべて持ち去られていたからね」
「訓練用ギアを……?」
「ああ。あれは特殊でね。戦闘用ギアでありながら、ライセンスなしでも使用できる。素性が割れて、剥奪されることを見込んでの行動だろう」
なるほど。
でも、カイムは試験を受けてたからライセンスを持っていないはず……。
じゃあ、あの時の力はギアじゃない?
「あのギアは……父さんとマギアメーカーが作った特別製なんです」
セシルが口を開く。
「父さんの剣術の動きがインストールされていて、マナを込めるほど、父さんに近い動きができます。あの時のソウタさん、父さんと見間違うほどでした」
「いや、それほどでも……あるかな、なんちって」
褒められると照れるな、おい。
「セシル。君の判断では、彼は合格でいいのかな?」
「はい。……満点だと思います」
「そうか。ではソウタ殿、後で私のところへ来てくれ。ライセンスを交付したい」
「あ、はい」
合格。しかも満点。
セシルも俺に惚れてたりして。
俺みたいな平凡なやつが、誰かの目に満点って映ったなんて。
異世界に来て初めての居場所ってやつかもしれない。
「それからセシル」
「はい」
「君は、この件の捜査から外れてもらう」
「……えっ?」
突然の通告に、セシルが目を見開く。
「ヴァイルが関わっている以上、君を内通者ではと疑う者もいる。私は信じているが、統制上、親しい者を捜査に関わらせるわけにはいかない」
「そう……ですか」
セシルは俯き、小さな声で返事をした。
アレンがその場を後にする。
俺は呼ばれる前に、ついて行くことにした。
「これがライセンスだ。……といっても女神の登録が本体だから、使う機会は少ないだろうが」
カードを受け取る。まるで運転免許証だ。
さて、本題に入ろう。
「アレンさん、折り入って話があります」
「なんだ?」
「わけあって俺たちは女神を探しています。その旅に、セシルを同行させてもらえませんか?」
「セシルはヴァンガードの戦力だ。許可できない」
「でも、捜査からは外れるんですよね?」
「他にも任務がある」
やっぱり駄目か……。
「だが――」
アレンは少し考え込むようにして、続けた。
「もし君がヴァンガードになるというなら、考えてもいい」
……へ?
俺が?
強さを見込まれて……ってやつ?
「君には素質がある。君が彼女の分を補う、これでどうだろう」
「でも、俺にはやることが……」
「毎日通う必要はない。基本は自由行動だ。近くで魔物が出れば要請が行く。それに応じてくれればいい」
なるほど、そう来たか。
「……俺の居場所がヴァンガードにバレるってことですよね。女神探し中にカイムたちと遭遇したら――利用できる」
「正解だ。だが君にもメリットがある。毎月手当が出るし、名誉もつく。見たところ、君は定職に就いていないようだが?」
ぐっ……痛いところを……。
ヒモ脱却のチャンスに心が揺れる。
「……分かりました。受けます」
速攻で落ちた。
掌の上で転がされただけだったな。
「……ありがとう。セシルをよろしく頼むよ」
アレンの表情は先ほどまでの堅さが無く、優しさに満ちていた。
この人の本心が分かった気がした。
セシルが兄と対峙すれば、私情を捨てて戦わざるを得ない時が来る。
だから彼女を遠ざけたんだ。
もっともらしい理屈をつけて。
「ちょっと! セシルの意向も聞かずに、何勝手に決めてるの」
医務室に戻って話した途端、マリアの鋭いツッコミが入る。
「セシルだって、このままじゃいられないだろ? お兄さんと向き合う必要があると思うんだ」
視線がセシルに集まる。
「えっと……颯太さん、ありがとうございます。気を遣っていただいて。でも、本当にいいんでしょうか……私なんかが……」
「セシルがいれば百人力さ。こっちからぜひお願いしてるんだよ」
「確かに、こいつの百倍は役に立つわね」
「ちょっと余計な一言あったけど……決まりだね」
「えっと、じゃあ、よ――」
「よろしく……セシル」
リゼに先を越された。
「じゃ、行きましょ。支度して」
「えっ、どこに?」
あれ、なんか予定あったっけ?
「言ってたでしょ。合格祝い。パーッとやるって。セシルの歓迎会もね」
「ああ、そうだったな。じゃあ行こう、セシル」
「……はい!」
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